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Eコマース時代でも飛躍を遂げるリアル店舗の条件

ネット通販が急成長を続ける現在、購買行動が大きく変化したことでリアル店舗にも変革が求められる。デジタル時代の消費者の心を掴む商業施設とはどのような姿なのか。買物を「楽しめる」施設づくりと消費者に刺さる魅力的なプロモーションが求められている。一般社団法人 日本ショッピングセンター協会 全国大会実行委員会 副委員長/JLLモールマネジメント 取締役会長 大津 武がEC時代のリアル店舗について考察する。

2019年 03月 12日

既存店舗は消費者の購買行動の変化に対応しきれていない

パソコンやスマートフォンの画面を閲覧し、気に入った商品を見つけたら「購入ボタン」をクリックするだけ…ネット通販で簡単に商品を購入することができる時代である。その利便性から消費者の圧倒的な支持を受けたEコマースが急成長を遂げ、いまやリアル店舗以上の存在感を発揮している。デジタルツール主体の購買行動が主流になりつつある中、ショッピングセンター(SC)をはじめとする既存店舗の経営は厳しい状況にあると言われている。こうした状況を招いた1つの要因としてオムニチャネル化が進んでないことが挙げられる。店頭販売やネット通販、カタログ販売など、すべての販売チャネル・顧客データを連携させて販売活動を行うことがオムニチャネルの定義だが、消費者は依然としてリアル店舗とECサイトを使い分けており、購買行動の変化にリテーラーは対応しきれていないのではないだろうか。

消費者ニーズに合致した情報発信- EC時代を勝ち抜くリアル店舗

リアル店舗の欠点とは何か。スポーツ量販店ヒマラヤグループでEC関連コンサルティング等を手掛けるコアブレイン 代表取締役 森山 直樹氏は「デジタルの利便性に慣れた消費者は購入する商品が決まっている場合、品切れを敬遠してリアル店舗へ足を運ばなくなっているのではないか」との見解だ。確かに、これまでのアウトストアプロモーション戦略は「とにかく来店させる」ことに終始しており、店頭で何を販売しているのか訴求してこなかった。スマホ時代において消費者の満足度を得られる施策とはいえない。一方、ECはウェブ画面を通じてあらゆる商品情報が網羅されている点が最大の強みだ。森山氏によると「SCもウェブサイトを整備しているが、閲覧者がもっと商品を見てみたいと思わせるコンテンツを提供できていない」ことが弱点だと述べている。これを受けて、ECプロデュース業を展開するフレンディット 代表取締役社長 細野 博昭氏は「ECで展開している情報をリアルタイムで店舗でも閲覧できるシステムや、ECの購買データと店頭の購買データを統合管理できるシステムがすでに存在しており、SCが施設全体として取り組む必要がある」と指摘。ECの物流戦略を支える佐川急便 営業開発部長 山本 将典氏は「リアル店舗はECを含めてデジタルと融合していく必要がある」との見解だ。

リアル店舗は商品が充実している半面、数が多すぎるため、いかに正確かつ有益な情報を消費者に届けられるかが利便性向上に向けた鍵となる。大型SCになると施設内に300以上のテナントが存在し、各テナントが取り扱う具体的な商品・サービスについては詳細な情報は発信されていない。つまり効果的なプレゼンテーションができていないのだ。

連続的に接点を生むプロモーション- EC時代を勝ち抜くリアル店舗

では、ECにはないリアル店舗の優位性は何か。着目するべきはリアル店舗の約70%が非計画購買の消費者である点だ。非計画購買とはいわゆる「衝動買い」であり「買い物を楽しむ」ことと同義である。いわば娯楽としての消費活動を実現できるのはECでは難しく、リアル店舗ならではの魅力と考えるべきだろう。細野氏も「店内を移動中に偶発的にお気に入りの商品やサービスに出会うことができ、気になったらスマートフォンで情報を取りにいける。こうしたクロスオーバーが図れる点がリアル店舗の最大の利点」と述べており、リアル店舗へ訪れた消費者をECサイトへ送客する「逆転現象」も起こり始めている。また、森山氏は「消費者が実際の商品を手に取り、店員と話をしながら目当ての商品を具現化していくことがリアル店舗の魅力だと考えている。ECは目当ての商品が絞り込めていない消費者に対しては、閲覧履歴やレコメンドを表示するが、本当のニーズに合致しているかどうか不透明だ」と指摘している。

ECはボタンをクリックすれば商品を簡単に検索できるが、1クリックにつき1つの接点しか得られない。しかし、リアル店舗は自分の五感で確かめ、店員からのアドバイスも受けられる。消費者と商品に連続的かつ無限大の接点が生じる。リテーラーはこうした連続的な接点づくりを促していく施策を打ち出していく必要がある。

顧客データと在庫データに着目- EC時代を勝ち抜くリアル店舗

ただし、確固たる目的を持って来店しない非購買目的の消費者に対して、いかに有益な情報を届けるのかが難しい。この難問に対して細野氏は「データベースの構造化に着目すべき」との見解だ。オムニチャネルの進化形として「ユニファイドコマース」という概念が登場している。購買履歴や商品検索履歴など顧客情報を一元管理し、AI等のデジタルツールを駆使して顧客ひとり一人に最適な「One to One販促」を実施するユニファイドコマースには顧客基点のデータベース化が不可欠だ。

また、在庫データを消費者にいかに届けるか、これも大きな課題となる。山本氏は「品切れは機会損失となる半面、在庫が増えるとバックヤードに保管しきれず売場面積を圧迫するのがリアル店舗の欠点。しかし、在庫管理システムを導入する他、店舗外にバックヤード機能となる物流拠点を活用することも重要」との認識を示す。施設の近くに通過型・在庫型の物流センターを設け、荷受けや商品加工してすぐに店頭に納品できる体制づくりを進めることが可能だ。過剰な商品ストックを店頭から物流センターに移動させることもできる。テナントあたりの売場面積を小さくし、より多くの店揃えを可能にできる他、消費者が商品購入後に自宅へ配送すれば、手ぶらで買い物を続けることができる。買い回り店舗が増え、結果としてテナント・消費者双方にメリットを提示できるはずだ。

米国ではリアル店舗の売上上昇率がGDP成長率を超えた- EC時代を勝ち抜くリアル店舗

ECの台頭によってリアル店舗の閉鎖が続く(ように見受けられる)米国だが、2019年1月にNYで開催された全米小売業協会の年次大会「Big Show」にて米小売売上高が前年比5%増に迫り、GDP成長率を超えたと報告されている。また、米国の大手スーパーマーケットであるクローガーは「顧客の課題解決が小売業の真の姿である」と発信しており、今後デジタルとリアル店舗の融合が更に加速し、小売業が広告業の競合になることを示唆している。これまでメディアが担っていた情報発信源を店舗に移すことで、リアル店舗を各チャネルのハブにするというのだ。こうしたオムニチャネルの進化形と位置づけられる、新しい形のリアル店舗が米国では花開き始めているのだ。

これまでの商業施設は「総顧客価値」の最大化を図るため、消費者の心理的・時間的・金銭的・エネルギーコストを最小化することに努めていた。そのため使い切れないほどの巨大な駐車場を用意し、噴水広場や遊びスペース等を充実させてきた。しかし、現在のようなデジタル時代には顧客・テナント双方の期待価値を最大化するために既成概念にとらわれない新しい戦略を打ち出していかなくてはならない。

※本記事は「SCビジネスフェア2019」(主催:日本ショッピングセンター協会 2019年1月23日-25日開催)で実施されたパネルディスカッション「オムニチャネル時代の新SCプラットフォーム~購買行動の変化をチャンスに変える~」の講演内容を再構成しました。

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