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「コロナ」を経過して進化が進む首都圏シェアオフィス事情

新型コロナ感染拡大を機にシェアオフィスの出店ペースが加速している。狭小な居住環境を背景に、ウェブ会議を円滑に進めるなど、テレワーカーの利便性を補完するべく、郊外への施設展開が目立つ。「個室化」といったコロナ禍に対応した新たな差別化戦略も進んでいる。

2022年 05月 11日
年平均成長率30%を記録したシェアオフィス市場

新型コロナウイルスの感染拡大は不動産市場に大きな変化をもたらしたが、そのうちのひとつはシェアオフィスが一般化したことではないだろうか。都心のみならず郊外部、また鉄道駅にもボックス型の個人用シェアオフィスが登場するなど、その形態は様々で利用者目線ではますます利便性が高まっているといえる。こうした形態あるいは立地面での多様性は、シェアオフィスを活用する場面がより明確化されたことに起因するようだ。

現在、東京23区におけるシェアオフィスは1,000拠点を超えており、2018-2022年までの5年間の年平均成長率(CAGR)は実に30%と、極めて速いスピードで増加している。最も増加したのは2021年で、やはり新型コロナウイルス感染拡大局面がシェアオフィスの増加を促したのは疑念の余地はないだろう。コロナ感染拡大初期は都心部が主戦場だったシェアオフィスもどんどんと郊外の主要駅周辺へ展開が進み、いまや首都圏ではほとんどの駅付近に複数のシェアオフィスが存在している状況となっている。

テレワークを補完する郊外型シェアオフィスの需要が拡大

この郊外部への進出は単に都心部での出店が床不足によって難しくなっただけではないようだ。日本生産性本部のまとめによると、シェアオフィスが大きく拡大した2021年、テレワークを行っていると回答したオフィスワーカーは全体の2割前後であり、このうち1日も出社しない完全テレワークを行っている層は2割を超えていた。つまり自宅からの仕事が一般化しているのである。こうなると当然、自宅の近所にシェアオフィスがあれば少し環境を変えて仕事をすることができ、あるいはウェブ会議などにも対応したブースを利用することができるなど、シェアオフィスのメリットを最大限享受できるわけである。それまでは「オフィスへ出社する」ワーカーが都心部で客先に行く合間に仕事ができる場としての存在から、郊外に進出することで「自宅メインのテレワーカー」の利便性をも取り込んだといえよう。

コロナ禍によって郊外でもシェアオフィスの需要が高まっている(画像はイメージ) 画像提供:PIXTA

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狭小な住宅事情もシェアオフィス需要を後押し

一方でこうした自宅近くにシェアオフィスが増加しているもう一つの理由は、東京都内の住宅事情が密接に関係しているようだ。総務省統計局の調査によると、民間賃貸住宅の一住宅あたりの平均居住室数は、全国平均2.2部屋だったのに対し、東京都区部は全政令指定都市で最も少ない1.9部屋である。つまり平均して2部屋目が存在しないということである。特に共働き世帯ではパートナーがテレワークを行っているケースも多数存在するとみられ、例えばウェブ会議がバッティングする場合、1部屋しかない場合はお互いに干渉せずに会議を進めることが困難になる。テレワークがどんどん一般化するなかで生じた、住宅事情が起因する新たな問題が顕在化するようになったのである。

「個室ブース」がシェアオフィスの差別化戦略に(画像はイメージ) 画像提供:PIXTA

よって郊外部でのシェアオフィスは主に「安心してウェブ会議ができる個室」がより重要度を増している。これに呼応するようにシェアオフィス各社ともブースのみを集めた新しいタイプの拠点を準備したり、既存拠点でデスク数を減らしてでも個室ブースを増設するなどの動きを見せている。こうした「シェアオフィスの個室化」は飽和状態に近づいているシェアオフィス事業者の新たな収入源として期待されている。多くの場合、個室ブースを使用する際には法人契約とは別に使用した時間に応じた従量制の課金がなされており、個室ブースを提供することで付加価値をつけることが可能となっている。

ここ数年、多くのシェアオフィスが誕生し、利便性が高まった半面、収益性が落ちかけていたともいえるシェアオフィス市場だが、テレワークの一般化とともに利用シーンが多様化することで、持続可能な状況が形成されようとしている。今後の展開がどのようになるのか、今後も注目の市場であることは間違いないだろう。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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