投資家は欧州の「超」金利を有効活用できるか
欧米の金利格差拡大で、世界の不動産投資家に潜在的な投資機会が到来している。
英米の利上げでユーロ圏への投資が有利に
米国は先日2%から2.25%への利上げを実施したが、欧州はゼロ金利を維持している。今後5年の間には確実に利上げが行われるはずだが、欧州の金利は2019年半ばまで据え置かれる可能性が高く、欧州の投資家は大西洋対岸とは距離を維持し、英国の投資家は近隣地域への投資に留まることが予想される。英米では更なる利上げが見込まれるため、両国はユーロ圏諸国とは異なる金利環境となり、ユーロ圏との借入れコストの乖離が進む。この結果、借入金でユーロ圏の不動産を取得する投資家や借換え予定のある投資家は有利な立場を得る。
JLLドイツ オフィス・インベストメント ヘッド マルクス・リュトゲリンクは「最大30カ月という相当なギャップが生じている。国際不動産投資家にとっては、これは大きな差だ」と説明する。
ドイツでは、米国連邦準備制度理事会の過去数カ月間における措置がドイツ不動産への投資にプラス影響を及ぼしている。リュトゲリンクは「このスプレッドにより、ドイツは現在レバレッジの活用や借換えを検討している国際投資家にとって非常に魅力的な投資先となっている。更に低い金利でより長期の借入れが可能だ」と述べている。
正常化
金利が上昇している地域では、米国と英国による慎重かつ明確な正常化の選択が投資の意思決定者の助けとなるだろう。やがて実施される欧州の利上げも、管理された緩やかな利上げとなるはずだ。
英国の例では、イングランド銀行が8月に実施した0.5%から0.75%への利上げは過去10年間でわずか2回目の利上げだったが、想定されたものとなった。英中銀は「これ以上の利上げは『限定的かつ緩やかに」行われるだろう』と述べている。マーク・カーニー総裁は、英国の金融政策は「歩く必要があり、走る必要はない」との考えを示したように、不動産投資家はこの安定感を歓迎し、英国不動産は予想された8月の利上げにほとんど反応しなかった。
JLLキャピタル・マーケッツ・リサーチ ヘッド ロバート・ストラッセンは「英中銀の利上げは注意深く計画されたもので、英国不動産投資家への大きな影響は回避された。市場は織り込み済みだ」と分析する。
他方、ストラッセンは「米国では2017年3月以降25bps単位で実施されてきた利上げが不動産に影響を与えている。FRBの金融政策により、直接不動産投資が鈍化している」と指摘。しかし、価格への影響は限定的だ。
超低金利
欧州中央銀行(ECB)は、政治的不透明感と自らの量的緩和政策、インフレ率上昇と明るい経済データの間で板挟みとなっている。
リュトゲリンクは「イタリアの現状や、ギリシャが過大債務を脱したとは程遠いという現実を鑑みれば、ECBが短期的に利上げをするとは到底考えられない。ユーロを維持するのであれば―一般的政治情勢を勘案すればその維持に全く議論の余地はないが―過大債務を抱える加盟国を低金利で支援し続ける必要がある」と説明する。
ストラッセンによれば「ECBの貸出金利は依然としてゼロに留まっており、緊急措置を講ずる余地はほとんどない」という。トルコで見られた通り、ECBは基本的に大きな政情不安やインフレ加速、ユーロ安等が生じた場合に対応するためのツールを欠いている。英中銀が2年前に実施した利下げ―EU離脱の国民投票への対応措置―のような措置の実施は、現在ECBが置かれる低金利環境下では困難だ。
ストラッセンは「ECBは利下げ余地を確保するための利上げを検討することもできようが、それにはまず量的緩和政策を停止しなければならない。より可能性の高いシナリオは、来年のいずれかの時点でインフレやユーロ圏全域における経済成長の拡大を受けて若干の利上げが実施されるというものだろう」との見解を示している。
不動産利回りの変動は金利動向には依存しない。しかし、ストラッセンが指摘する通り、いずれ債券金利の上昇が不動産利回りに上昇圧力をかける可能性がある。JLLの調査では、優良資産価格の若干の下落もあり得る。
ストラッセンは「投資家の賃料上昇期待と不動産に流入する資金の大きさは、不動産の利回り変動のあらゆる影響を緩和するに十分なはずである。ユーロ圏と英米の金利格差は既に現実となっている。現サイクルのピーク金利は過去よりも低い水準となる可能性が高く、ある程度予想可能なため、投資家は比較的自信をもって将来計画の作成に取り組めるだろう」と予測している。