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東京のオフィス需要を牽引するテック企業

東京のAグレードオフィス市場の空室率が1%を下回る水準で推移する中、旺盛な需要が急速に将来供給を吸収している。この需要を牽引する産業が不動産市場に与えるインパクトについて分析する。

2019年 12月 12日


東京のAグレードオフィス需要の牽引役は?

JLLが定期観測する不動産指標の一つに、グロスリーシングボリューム(以下GLV)が挙げられる。GLVは、期中の既存、新規、将来供給における新規の成約賃貸借面積を推計する指標である。直近の東京のAグレードオフィス市場のGLVをみると、2018年に記録的水準に達した後、2019年に入ってから減速している。需要の牽引役はテック企業である。

日本の経済と東京Aグレードオフィス市場は長期的に緩やかに成長

日本は、現在の景気循環サイクルの中で、より長期的で緩やかな成長を続けている。実質GDP成長率は2018年まで7年連続成長、中長期的な見通しも、消費税増税の影響を受けながらも概ねポジティブである。また、企業の業況判断は2019年第3四半期まで6年以上プラスの水準を維持している(日銀短観)。

これに沿って、東京のAグレードオフィス市場も長期にわたり好調となっている。賃貸市場では、旺盛な需要が急速に供給を吸収している。空室率は第3四半期時点で0.6%となり、前回のピークの2010年第2四半期から7.2ポイントの低下、2011年第3四半期以来8年以上にわたり、需給の均衡を示す4%を下回る水準で推移している。賃料は前回のトラフ2012年第1四半期から30%上昇した。投資市場では、投資利回りが過去最低を更新し続ける中で、価格も同じ2012年第1四半期のトラフから103%の上昇となっている。

テック企業が牽引しGLVは2年連続記録更新 渋谷のトップビルは大手町・丸の内にも匹敵する賃料水準へ

空室率が1%を下回る水準に低下する中、既存ビルが吸収できずにあふれた需要が2018-2020年の3年間でストックを21%増加させる予定となっている豊富な供給予定へと向かった。結果、GLVは2018年に前年比17%の増加となり、低迷するネットアブゾープションと対照的に、2年連続で記録更新した。2019年第3四半期末現在、2019年の新規供給の成約率は100%近く、2020年と2021年も非常に高い成約率となっている。

2017年から2019年第3四半期にかけて、GLV全体に占める予約契約の割合は60%となっている。需要を牽引した産業はテック企業(情報通信業とテック関連の製造業)となり(40%)、製造業(テック関連を除く)(14%)、卸売業・小売業と金融業・保険業が続いた(ともに11%)。テック企業の存在感は特に渋谷で顕著となり、グーグルが2018年竣工の渋谷ストリームを1棟借りし、ミクシィとサイバーエージェントが2019年11月竣工の渋谷スクランブルスクエアに入居した。これを受けて、渋谷の賃料上昇率(前年比)はここ数四半期10%を超え、トップビルの賃料は今や大手町・丸の内にも匹敵する水準である。

GLVの抑制は賃料を下支えするものの価格への影響は限定的となる見込み

経済の先行きについては、通商問題を巡る緊張を含む下振れリスクはあるものの、堅調な成長が続く見通しである。さりながら、賃貸市場では、既存物件の空室率の低さと新規供給の予約契約率の高さに加えて、旺盛な館内増床需要が市場に供される前の潜在空室を吸収しているため、GLVは当面抑制されるだろう。一方で、2020年までの大量供給による賃料の下押し圧力は軽減される。投資市場における現在の価格上昇は、力強い賃料上昇期待ではなく主に需給の逼迫がキャップレートを押し下げていることが理由となっているため、影響は比較的限定的となろう。

執筆:JLL日本 リサーチ事業部  岩永 直子

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