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大型商業施設「VISON」が描く地域活性化の新たな形

2021年7月、三重県多気町に全面開業したリゾート型商業施設「VISON(ヴィソン)」。地元由来の薬草湯や有名シェフ監修の飲食店など73店舗が出店。観光客誘致が期待される他、地域社会の課題解決に挑むスマートシティ構想の中核施設であり、地域活性化に向けた様々な施策を打ち出している。

2022年 01月 26日

2021年7月20日、三重県多気町にリゾート型商業施設「VISON(ヴィソン)」が全面開業した。スマートインターチェンジと直結する民間初認可の施設であり、敷地面積は東京ドーム24個分(約119ha)、開発面積は54haに及ぶ。山間部を切り開いた豊かな自然環境を活かした敷地内には地元産の木材を使用した建物が配され、施設名の由来である「美しい村(美・村)」を体現。温浴施設やホテル、地元の農産物を取り扱う日本最大級の産直市場、食品メーカーによる体験型店舗、著名な料理人がプロデュースする地域食材を活かした飲食店、オーガニック農園など、73店舗を構える。

産官学連携による大型商開発

プロジェクトの発端は2013年に遡る。温浴施設や飲食店の施設運営を手掛ける(株)アクアイグニス 代表取締役 立花 哲也氏のもとに、多気町からまちおこしに関する施設づくりの相談が寄せられた。(株)アクアイグニスは三重県菰野町の湯の山温泉で、温泉を核とした複合型施設「アクアイグニス」を2012年に開業。年間来客数100万人を達成するなど、温泉地への年間観光客数を2倍にした立花氏の手腕が評価された。

三重県の中心部に位置する多気町は古くから伊勢本街道、熊野街道、和歌山別街道が通る交通の要地としての発展の歴史を誇る。現在も伊勢自動車道と紀勢自動車道で構成される勢和多気ジャンクションが位置し、伊勢神宮へは車で15分程度。この恵まれた立地優位性をもとに開発構想が持ち上がる。その後、検討を重ねる中、想定される事業規模が拡大。(株)アクアイグニスの単独事業ではなく、三重県にゆかりのあるイオン、ロート製薬、ファーストブラザーズを加えた4社の共同事業として2015年に合同会社三重故郷創生プロジェクトが設立され、多気町や三重大学などとも連携し、開発が進められてきた。

3つの施設コンセプト

地域活性化を目的に商業施設を開発する事例は珍しくないが、同施設は圧倒的な専門性を持つ「食」に関する施設を軸に、多気町に古来より伝わる「薬草」、さらに「テクノロジー」を駆使したスマートシティ構想の中核施設という、3つのコンセプトを打ち出す。単なる商業施設とは一線を画した地域活性化のモデルケースを目指している。

1. 食

ファミリーレストランやコンビニエンスストアなどのナショナルチェーンは誘致せず、「食」の専門性を体現する店舗構成にこだわった。例えば、ミシュランガイド・パリ1つ星シェフの手島 竜司氏が監修した産直市場「マルシェ ヴィソン」では、生産者が気軽に出店できる軽トラマルシェを導入した他、三重県唯一の底引き網漁船で水揚げされたノドグロなどの深海魚や那智勝浦のマグロなどを販売・調理する水産店、松阪牛を生育する地元牧場の直営精肉店などが出店する。有名パティシエの辻󠄀口 博啓氏、地産地消の先駆者であるイタリアンシェフの奥田 政行氏、日本料理店「賛否両論」で知られる笠原 将弘氏といった著名料理人が監修する飲食店、味噌や醤油、みりん、昆布など、和食文化を体現する食品メーカーによる体験型店舗ゾーン「和ヴィソン」、多気町と「世界一の美食の町」と称されるスペイン・サンセバスチャン市が「友好の証」を結んだことに由来し、現地の人気バル3店舗に、味噌メーカー・マルコメの糀茶寮などが集うエリア「サンセバスチャン通り」を整備した。

バリエーションに富んだ多彩な顔触れが魅力の店舗構成は「多様性」を活かした取り組みにも注力する。例えば、マルシェで売れ残った魚介や野菜を施設内の飲食店舗などで調理し、フードロスを抑制する。また、魚介類や農産物、和牛など、三重県が誇る多彩な食材を産直市場で販売することで、多くの来場者にその魅力を発信するだけでなく、VISONに関わる著名料理人と地元食材がコラボすることでブランド価値の向上を目指す。

2. 薬草

江戸時代の本草学者である野呂元丈の出生の地である多気町は古くから「薬草の町」として知られる。その地域資源を現代風に解釈した「本草エリア」には、ロート製薬と三重大学の共同研究成果に基づいて開発した薬草湯を提供する温浴施設「本草湯」をはじめ、施設内に研究所を併設。植物等を用いて心身の健康を癒し、健康を維持するための手段として生み出された三重県発祥の本草学を現代的な視点で研究する。

3. テクノロジー

多気町を含む6町(大台町、明和町、度会町、大紀町、紀北町)が提案する「三重県広域連携スーパーシティ構想」。その実証実験の場となるのがVISONだ。規制改革によって生まれた「VISON」(複合型滞在施設)を中心に様々な実証実験を行い、将来的にはその成果を6町に展開していく。ソフトバンクグループやJAL、三菱電機など、30の企業と連携し、生活者の安心安全を支える医療ヘルスケア分野、モビリティサービス分野、地域産業活性化分野、デジタル地域経済圏分野など、生活全般に関わる8つの分野で、様々な企業の先端技術を集約し、地域社会の課題解決を目指す。

VISONの敷地内は広大かつ私有地であるため、自動運転やドローンの実証実験に適している。例えば、VISON敷地内には自動運転専用の道路を整備しており、現在自動運転の実証実験が行われている。ゆくゆくは地域へ拡大普及させ、これまで利用客減で収益が落ち込むバス路線に代わる移動手段の代替策を目指す他、遠隔医療システムの有用性を検証し、医療過疎地の問題解決を視野に入れている。

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地域活性化の長期ビジョン

都心部に比べて出店メリットが少ない中で、他の商業施設に出店しないテナントや大手企業など多彩な顔触れがVISONに参画、他商業施設では実現できない魅力的なテナント構成となっている。立花氏が「最も苦労したのがリーシング活動」と前置きしながらも「VISONが掲げる地方創生の長期ビジョンを粘り強く説明し、賛同していただいた結果」と胸を張る。

一般的に大型商業施設の開発事業は20-30年の定期借地権で借り受け、最終的には更地に戻して土地が返還される。しかし、VISONは三重故郷創生プロジェクトが土地・建物を保有するため「100年、200年続く施設づくり」(立花氏)が可能だ。つまり、長期ビジョンをもって地域活性化に貢献できる。例えば、VISONには多くの有名企業や飲食店、有名デザイナーによるショップなどが出店・参画しており、「胸を張って働くことができる場所を提供する」(立花氏)ことで、Uターンによる若い世代の人材獲得を進めていく。開業時点で1,000人程度の雇用を生み出している。また、敷地内に点在する建物には地元産の木材を多用。伊勢神宮の式年遷宮に倣い、20年ごとに建物の木材を張り替えるなど、地元の大工等と一緒になってメンテナンスを継続していく。コストはかかるが、地場産業である林業と建設業の支援を重視している。

2021年7月には首都圏、名古屋、松阪・伊勢・鳥羽・南紀方面からのバス路線が整備され、更なる利用客の増加が期待される。立花氏は「VISONだけが潤うのではなく、三重県の活性化を最重要視する」という運営方針を示しており、年間来場者数800万人と想定するVISONの集客力を周辺ホテルへ波及させ、三重県全体の宿泊需要の底上げも目指す。

商業施設開発による地域活性化の成功事例となるか。VISONの今後に注目したい。

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