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ニューノーマルに向けてアジア太平洋地域のホテルはコロナ対策を推進

世界に先駆けて新型コロナウイルスによるロックダウンを解除し始めたアジア太平洋地域。再び宿泊客を迎え入れるために、多くのホテルは安全性を重視した感染防止対策を打ち出している。ニューノーマルにおけるホテル運営ではロボット等のテクノロジー導入が進みそうだ。

2020年 06月 23日
徹底した安全措置を提供するアジア太平洋地域のホテル

フロントやビュッフェにはアクリル樹脂のシールド、密閉された客室、バーの座席は1m間隔……新しいホテルへ、ようこそ‼

これらは、新型コロナウイルスの世界的感染拡大後にアジア太平洋地域のホテルグループが導入している感染防止対策の一例である。

バンコクを拠点とするホスピタリティグループであるオニックス、ラグジュアリーチェーンのアナンタラリゾート、香港のオヴォログループ等がこうしたウイルス感染防止策を実施している。そして、ハイアット、マリオット、フォーシーズンズ、ヒルトンなどのグローバルなホテルグループも同様に、噴霧器を使った表面消毒、消毒施行業者とのパートナーシップ、ウイルス感染防止用の新しいガイドラインやルール作りに医療専門家の支援を仰ぐといった徹底した安全措置を行っている。

新型コロナウイルスによる数カ月間のロックダウン生活は、旅行好きにとってはさながら「監獄」そのものだった。その反動からか、少なくない人々は旅行を渇望し始めており、ホテルは宿泊客の安全を第一に考え、安全に対する信頼感を高める環境を構築しているのだ

JLL ホテルズ・アンド・ホスピタリティ アジア太平洋地域 ストラテジックアドバイザリー&アセットマネジメント ヴァイスプレジデント アレックス・シゲダは「ホテル業界は変革の最中にあり、パンデミックの影響がその進化を加速させている。多くのホテル所有者や運営会社は、専門的な認証や独立機関による認定を得ることで旅行者に宿泊時の安全性や厳格な衛生基準を再保証することを最も重視している」と指摘する。

ニューノーマルに向かって変容するホテル設計

アジア太平洋地域は新型コロナウイルスの影響を世界に先駆けて体験し、ニューノーマル(新常態)へと回復し始めるのも早かった。

中国では既に国内旅行が増加しており、5月の労働節5連休中、国内旅行件数は1億1,500万件にのぼった。韓国のアシアナ航空と大韓航空は国内便の発着数を正常値に戻している。ベトナムもソーシャルディスタンス規制を緩和し、国内観光を再開させた。そして、タイでも段階的にロックダウン規制を緩和している。

ホテルでは、ビュッフェの行列やチェックイン・チェックアウト手続き、ロビー、宴会場や客室のレイアウトなど、従来のホテル運営手法を再考する必要性が増している。ホテルの衛生面や感染予防策に対する関心が高まるにつれてメニュー設計、座席配置や顧客管理システムも見直されている。食事に関する安全要件やソーシャルディスタンスを満たすための会議パックやイベントプログラムが修正され、リモート会議の増加に対応するために追加的なIT設備導入も検討されている。

アジア太平洋地域のホテルは、ロックダウン解除後の新しいルール作りや、宿泊客の期待にどう対応するか、まさに評価の分水嶺に立たされている。香港のマルコポーロ・プリンスホテルは改装中(2020年5月執筆時点)だが、スペース確保とプライバシー強化のためクラブラウンジ面積を30%拡張する一方、会議やイベント用スペースはより小規模な団体向けに調整されている。

ジゲダは「フロア面積の拡大や混雑防止とソーシャルディスタンスに対応した優れた設計以外にも、ホテルが密集回避のためエレベーター数を増加させる可能性がある。既存の重量管理やエレベーター効率を見直す過程で、一部のホテルがピーク時間帯に荷物用エレベーターを宿泊客の利用に回すことも考えられる」と推測する。

一方、スペース利用やホテルのハードウェア機能への高い注目度と同様に、シゲダは「よりソフトな設計にも配慮が向けられている」と指摘する。ホテルやレストランで使用される家具や表面素材には、清掃や消毒が容易なコルクなどの抗菌性素材が好まれるようになっている。

テクノロジーを駆使したコロナ対策が加速

様々なホテルで、シームレスかつコンタクトレスな宿泊体験を実現するためにテクノロジーへの投資が増加しているという。モバイルチェックインやデジタルキーカードは多くのホテルに導入済だが、パンデミックでテクノロジーの有用性が再認識された形だ。

韓国のオンライン宿泊予約サービスのユニコーン企業であるヤノルジャによると、2019年11月に発表したセルフサービスキオスクに対する需要が新型コロナウイルス発生後に倍増したという。

2020 年5月初めには、新型コロナウイルス軽症患者が滞在する東京のホテルでソフトバンクロボティクスが開発した人型ロボットと清掃ロボットが導入された。客室に隔離された患者への必需品や食事の運搬の他にも、患者を元気づけるためのプログラムも搭載されている。また、人の出入りが制限されるエリアを自動清掃するという。

勢いづいているのはロボットだけではない。ジゲダは「ホテルはスマート消毒クローゼットや客室消毒用の細菌検知紫外線スキャン、接触追跡チェックインシステムなどを検討する可能性がある」との見解を示す。顔認証や人工知能を活用したシステムもホテルで目立つ存在となりそうだ。

「とりわけホテルのレストランや、イベント・会議需要の高い施設における日常業務でデータの重要性が増すと思われる。ホテルは換気や空気・水の品質管理、湿度モニター、共用部分の過密化防止のための人数制限などにビルやスペース管理の既存技術を採用することもできる」(ジゲダ)

ホテル業界はまだまだ回復の途についたばかりだが、旅行者がいずれ復活することは疑う余地がない。ジゲダは「その際に宿泊客のエクスペリエンスはニューノーマルにもシームレスに対応しなければならない」と述べる。旅行者の基本的な期待事項にはプライバシー強化やセキュリティーと安全性の保証が含まれるためだ。

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