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2022年以降の新規大量供給がオフィス移転の好機となる大阪

空室率1%を下回り、賃料上昇が目覚ましい大阪オフィスマーケット。万博やIR誘致など、景気浮揚の好材料が揃い、さらなるオフィス需要の拡大が見込まれている。こうした背景から大阪ではそれまで限定的だった大型オフィスの新規供給が急増。2022年以降から新規大量供給が始まる。一方、市況悪化を懸念する声も出始めているが、今度もオフィス需要は堅調に推移することが予測される。オーナー優位の状況は当面続きそうだ。

2020年 03月 23日

2022年-2025年に新規供給は45万㎡超

世界屈指の不動産モメンタムを誇る大阪

新規大量供給によって低迷していた2013年当時と2019年第4四半期末時点の大阪オフィス市場を比較すると隔世の感がある。

「グランフロント大阪」が開業した2013年には約171,000㎡が供給された。2010年には「梅田阪急ビルオフィスタワー」、「大阪富国生命ビル」、「本町ガーデンシティ」、「堂島プラザ」等、約136,000㎡が供給され、金融危機直後の景気低迷時期と重なったことで2013年には空室率10%を超え、賃料(共益費込)も月額坪単価15,000円台で低迷した。

一方、現在の市況はまったくの正反対だ。2019年第4四半期末時点の大阪Aグレードオフィスの空室率は0.1%、賃料上昇率は昨年同期比12.6%を記録。JLLのレポート「2019年版シティ モメンタム インデックス」によると、商業用不動産モメンタムでは大阪が調査対象となった131都市中1位を獲得するなど、その勢いは世界屈指であることが示されている

梅田エリアで賃料が大幅に上昇

大阪の各オフィスエリアに目を向けると、ビジネス主要エリアの中でも梅田エリアが交通利便性やビルグレードの面で他を圧倒。淀屋橋や本町という歴史的なオフィスエリアに次いで、新幹線を利用できる新大阪の人気も高い。梅田の賃料上限は月額坪単価30,000円半ばまで上昇しており、マーケットが低迷していた2013年当時(月額坪単価20,000円前後とみられる)と比較すると賃料が大幅に上昇していることが分かる

主要ビジネスエリアではめぼしいオフィス床は枯渇しており、オフィス需要は梅田から御堂筋沿いに南下して周辺エリアにも進出している。伝統的なオフィス街である淀屋橋・本町エリアの空室率も改善している。従前オフィス立地としては存在感が薄かった心斎橋、難波エリアのオフィスにも引き合いが増えており、主要ビジネスエリアで空室率改善、賃料上昇を促している

また、オフィス需要は南北のみならず東西にも拡大している。四ツ橋・肥後橋エリア、堺筋・北浜エリアの大型オフィス賃料も上昇傾向にあり、梅田エリア同様成約賃料は2013年頃の低迷していた時期と比較すると著しい上昇がみられる。

中でもワンフロア300坪以上の大型オフィスは空室の枯渇が顕著で、築年・エリアを問わず引き合いが強い。一方、テナント側としては賃料水準の高騰もあり、簡単には移転先を見つけられないのが実情だ。いかに人員増に対応するのか、経営層は頭を悩ませている。

2022年以降に新規大量供給

過去のオフィス市場を踏まえても、現在(2019年第4四半期末時点)は歴史的な低空室率の中で需給がひっ迫し、賃料収益の拡大が見込まれるオーナー優位の状況だ。オフィス不足に加え、万博、IR誘致といった景気浮揚に直結する国際的なイベント開催も追い風となり、オフィスの新規開発プロジェクトが急増している。

万博招致が決定する2018年11月以前、JLL日本 リサーチ事業部が確認していた大型オフィスの新規開発プロジェクトはわずかに3棟。2018年9月竣工の「なんばスカイオ」、2020年1月竣工予定の「オービック御堂筋ビル」、2022年春竣工予定の「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」のみであった。2年に1棟ペースで供給される計算だ。しかし同部の2019年11月末時点調査実績によると、2022年-2025年までに約458,000㎡、年平均114,000㎡もの大型オフィスの新規供給が予測されている。

大阪オフィス新規供給予測

主な開発計画は次の通りだ。2021年「本町サンケイビル」、2022年「(仮称)新淀屋橋ビル新築計画(日本生命淀屋橋ビル建替計画)」、2024年「うめきた2期地区開発事業(一部)」、「梅田3丁目計画」、「淀屋橋駅西地区第一種市街地再開発事業」、2025年「淀屋橋駅東地区都市再生事業」等が挙げられる。万博・IR誘致を背景に都市インフラに対するさらなる需要拡大を見越して、新規供給計画が一気に噴出してきた形だ。

「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」の成約状況を注視

将来的な新規供給予測を見ると、年間供給量が100,000㎡を超えるのは2022年(約128,000㎡)、2024年(約214,000㎡)、2025年(約105,000㎡)となる。2013年の大量供給時に匹敵する供給量があるため、オフィス市況悪化を懸念する声もある。しかし2022年の新規供給の大半を占める「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」においては、すでにいくつかの大口テナントの商談が進んでおり、また他の物件においても自社ビルからの大型移転ニーズ、大手企業の増床ニーズ、またフレキシブルスペース運営会社による新規開設ニーズが増えていることから過剰な懸念にとらわれる必要はなさそうだ。

JLLの調査では、2022年の新規供給によって空室率が2.1%、2025年には空室率4%強まで上昇、空室率の上昇に伴い、賃料上昇は鈍化し、2027年には賃料上昇が頭打ちとなると予測。ただ、同調査を担当したJLL日本 リサーチ事業部 大東 雄人は「金融危機後の経済成長低迷時だった2013年は大型供給による市場への負荷が大きかったが、経済成長が堅調に推移している現状を鑑みると、当時の市況悪化の再来にはなりにくい」と指摘する。

一方で東京に目を向けると、東京五輪開催に向けて2018年-2020年の3年連続で新規大量供給が起こり、一時期は市況が大幅に悪化するとの見方が大勢を占めていた。しかし現実には東京五輪を目前に控える2019年第4四半期末時点での東京Aグレードオフィスの空室率は0.6%と需給は逼迫しているのは周知のところだ。

五輪と同じく、国際的なビッグイベントである万博が2025年に開催され、IR誘致も視界に入る大阪は東京以上に経済が活性化し、ひいては新規供給を消化できる絶好の機会を得たともいえる。テナントにとっても最新鋭のオフィスビルへ移転する好機となるはずだ。

(著者:JLL日本 関西支社 オフィスリーシング シニアマネージャー 山田 祐輔)

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