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2020年第1四半期の東京オフィス賃貸市場から考える新型コロナの影響

未知の危機-新型コロナウイルスに対抗するためには、知識やデータをもとに「正しく恐れる」ことが肝要だ。コロナ禍に直面するオフィス賃貸市場も同様。東京オフィス賃貸市場に現れた変化の兆しから今後の動向を分析した。

2020年 06月 12日

コロナが与えるオフィス市場への影響は

世界金融危機を超えるマイナス成長

新型コロナウイルス感染拡大の影響が世界経済に影を落としている。英国の調査会社であるOxford Economicsは2020年第2四半期(4月-6月)における世界のGDP成長率は5.5%のマイナス成長と予測する。サブプライムローンに端を発する世界金融危機発生時のGDP成長率と比べても、今回は大幅なマイナス予測となる見込みだ。また、2020年4月1日に発表された日銀短観では大型製造業の業績判断が7年ぶりにマイナスに転じる等、好調を維持してきた日本経済にも新型コロナの影響が出始めているようだ。

オフィス賃貸市場は景況感との連動性が強く、企業は不況下になると事業縮小に伴う人員整理や賃料削減等を行う上で賃借床を調整することが多い。果たして新型コロナウイルスが東京オフィス賃貸市場にどのような影響を及ぼすのか、まずは2020年第1四半期の状況を振り返ってみたい。

 

2020年第1四半期は堅調に推移

JLL日本 リサーチ事業部では、世界の主要なAグレードオフィス市場の現在地を時計に見立て視覚化した「プロパティクロック」を発表している。これを見ると東京Aグレードオフィスは2020年第1四半期末時点で賃料上昇から下落へ反転する「12時」近くに位置し、今後賃料調整局面に入る可能性が高い。一方、2020年第1四半期末時点では月額坪あたり平均賃料は40,317円と前期比1.2%上昇、空室率0.7%と依然として低水準を維持している。なお、平均賃料が40,000円台を回復したのは2009年第1四半期以来となる。

このようにデータからは東京Aグレードオフィス市場が堅調に推移していることが読み取れるが、変化の兆しもみられるようになってきた。例えば、東京を代表するビジネスエリアである丸の内・大手町のAグレードオフィスの空室率が都心5区の平均空室率を超えるようになった点だ。いわゆる東京で「トップレント」を誇る一部のオフィスビルにおいて若干ではあるが停滞感が見受けられるようになってきた。

また、不動産サイクルとは異なる動きも注視すべきだろう。JLL日本 リサーチ事業部 大東 雄人によると「従前に東京オフィス賃貸市場はAグレードオフィスの空室率が上がり始め、それを追うようにBグレードオフィスの空室率が上がりだし、賃料水準も同様だった。しかし、今回はAグレードよりもBグレードが先に空室率悪化、賃料下落の兆候が見え始めている。Bグレードオフィスに入居しているのは大手企業に比べて資本的体力が弱い中小企業が多く、新型コロナによる消費活動自粛の影響が現れ始めているのではないか」と推測する。

 

マイナス影響はあるものの市況悪化は限定的

東京オフィス賃貸市場における足元の変化にフォーカスしたが、多かれ少なかれマイナスの影響が出始めているようだ。しかし、大東は「確かにマイナスの影響は避けられないが、その度合いは深刻な状況まで悪化することはないのでは」との見解だ。

その根拠の1つとして、大東は「マーケットサイクルの動向」を挙げる。2020年第1四半期末時点の賃料水準は東日本大震災発生後の2012年にボトムを記録した坪あたり月額平均賃料30,646円から比べると、30%程度しか回復しておらず、そもそもの賃料下落余地が少ないことが挙げられる。

また、東京Aグレードオフィスにおける今後の新規供給量が限定的である点も見逃せない。東京五輪に向けて2018年-2020年の3年にわたりAグレードオフィスの新規大量供給がなされたが、これらの新規供給オフィスの多くで新型コロナ感染拡大以前からすでに入居テナントを確保している。加えて大東は「高レバレッジで資金調達し新規開発する新興デベロッパーや不動産ファンドが多数存在したリーマンショック発生時と今回の状況は大きく異なり、2021年―2022年は新規供給が限定的であることもオフィス市況にとってプラスの材料になりえる」と指摘する。

オフィス需要については、新型コロナウイルスの被害が顕著な欧米等に本社を構える外資系企業が日本を含めた海外拠点のビジネスを縮小するケースが少ないながらも出てくるようになっているが、国内大手企業に目を向けると雇用を維持し、非常事態宣言の解除に伴い事業活動を本格化させており、オフィス床の需要が一気に縮小するとは考えにくい。

加えて、近年都心Aグレードオフィスの床需要を牽引してきたフレキシブルオフィス(コワーキングスペースやサービスオフィスなどの外部貸し共有オフィス)は、企業が感染症対策としてオフィスの拠点分散を進めることで、郊外を含めた新たな需要が見込まれる。

このように東京Aグレードオフィスに関しては足元で需要縮小の影響が多少出てきそうだが、賃料水準の大幅下落は現在の状況からは考えにくい。新型コロナウイルスという未知の脅威が今後のオフィス賃貸市場にどのような影響を及ぼすのかは蓋を開けてみなければわからないのだが、現状を冷静に分析すれば悲観的な材料ばかりではない。

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