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環境対策が左右する都市の魅力

都市の規模や人口密度の高まりを受け、緑化スペースの存在が都市のレジリエンスを高め、生活の場としての魅力向上につながっている。

2021年 11月 26日

環境問題への対処や生活の質の向上、将来の成長への下地作りを見据え、緑化スペース重視の姿勢を打ち出す都市が世界的に増えている。

多くの屋外スペース確保から植栽に至るまで、生物多様性の改善や公害の抑制に向けた取り組みが進んでいる。その目的は、頻発する異常気象に備えた都市のレジリエンス向上(強靭化)、世界の人口の9割以上に影響をもたらす急激な大気汚染といった問題の軽減 だ。JLLのグローバル シティ リサーチ リードディレクター ジェレミー・ケリーは「サステナビリティとレジリエンスの両面に優れた都市づくりの呼び水として、環境に配慮したインフラ整備計画が不可欠。気候変動の影響がかつてないほどに顕在化する中、都市自治体は環境対策を講じる必要性をますます自覚するようになっている」と指摘する。

グリーンインフラへの転換

緑化スペースや建物緑化、サステナブルな排水処理システムなど、各種機能を戦略的に配置してネットワーク化する「グリーンインフラ」の整備が広がっている。

JLL シニアサステナビリティアドバイザー ジェシカ・ハーマンは「気候変動の脅威を背景に、都市自治体では、汚染の抑制や、洪水などの気候変動関連リスクの軽減につながるグリーンインフラ重視の姿勢を強めている」と説明する。例えば、中国は、増加した雨水を取り込み、洪水のリスクを軽減するため、コンクリート舗装の代わりに湿地帯や庭園を整備して、気象パターンの変化に対処しようとしている。中国政府は2014年から「スポンジ都市」計画を掲げて、120億ドル以上を投じてきた。

ヒートアイランド対策

現在、世界各地の多くの都市が異常な酷暑対策に取り組む中、都心部の冷却やヒートアイランド現象(道路・建物が蓄えた熱を放射するために、ただでさえ高温の状態に拍車がかかる現象)の緩和の手段として植栽の活用が広がっている。

メルボルンは、2040年までに樹木被覆率を倍増させる計画だ。また、マイアミでは市内樹冠率を現行の20%未満から今後10年で30%に高める計画が聞こえてくる。パリは、2026年までに17万本の植栽計画を打ち出した。

緑豊かなスペースが増えれば、人間にとっても大きな効果がある。都心部の景観が魅力的になり、空気が浄化される。しかも、心身の健康に対して総合的にプラスの効果が期待できる。

「都市自治体は、住民の満足度向上だけでなく、人材・企業の誘致・維持のためにも、住みやすさとサステナビリティにこれまで以上に重点を置かざるを得なくなる。スモッグのない環境であれば屋外でのんびりくつろぎたいと思うだろうし、道路の渋滞に巻き込まれずに自転車で公園を通って快適に通勤したくなるだろう」(ケリー)

都市に「自然」を再導入するには、かなり思い切った計画が必要になる。2019年に世界初の「国立公園都市」に選ばれたロンドンは、植栽の推進や大規模なグリーン開発プロジェクトへの投資に加え、2050年までに同市の面積の半分以上を緑化する計画を打ち出した。一方、都心部の汚染低減を目的とした対策として「超低排出ゾーン(ULEZ)」もある。

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ネットゼロの未来に向けて

また、都市でネット・カーボンゼロ実現など幅広いサステナビリティ目標を達成するうえで、自治体による緑化スペースづくりへの投資は、取り組みの後押しにつながる。

ロンドンを始めとする19の都市が、2030年までにすべての新築建築物のネットゼロ化 の方針を掲げている。また、マドリードやヴロツワフなど欧州8都市は、2050年までにすべての建築物の脱炭素化を実現するEU助成計画に参加している。

「気候変動対策に関しては、都市自治体が主導的な役割を果たしていて、目標や対策の面では一部の国の政府よりもかなり踏み込んだ内容を掲げていることも多い」(ケリー)

ただ、難題は、ネットゼロとグリーン化の目標を達成するには、都市運営の抜本的改革が必要な点だ。また、ハーマンによれば「ネットゼロ目標は、建築工法から資源利用のあり方に至るまで、都市デザインに多大な影響をもたらす」という。コストがかさむだけでなく、他の市民社会インフラの犠牲の上に成り立ちかねない。英国の場合、ネットゼロ達成で年間最大700億ポンドのコスト増が見込まれている。

2050年には、世界の人口の70%近くが都市に暮らすと予測されており、これまで挙げたような課題を克服することが以前にも増して重要不可欠になる。ケリーは「今や、都市としての成否を判断する尺度として、生物多様性などの様々なサステナビリティ条件が重視 されている。都心回帰の動きが続く今後の見通しについては、都市がさらなる成長の受け皿となれるのか、そして成長による環境負荷を抑制できるかどうかが真に問われている」と指摘する。

都市化の波が押し寄せる中、グリーンインフラは都市の上辺を取り繕うものではなく、将来を見据え、時代遅れにならないためのものに他ならない。

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