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東京のオフィス出勤者数とウェルネスの今後

新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、東京のオフィスの出勤率に影響が出ている一方、オフィス回帰へ向けてウェルネスへの関心が高まるとみられている。企業各社の出勤者数の削減の実施状況、東京都によるテレワーク実施率調査結果等に基づいて考察する。

2021年 10月 01日

東京は、新型コロナウイルスの感染拡大にブレーキがかからず、8月初旬現在、4度目の緊急事態宣言下にある。政府からは、さまざまな感染防止策が打ち出されているが、企業に対しては、在宅勤務(テレワーク)の活用等により出勤者数の7割削減が要請されている。しかしながら、出勤者数に関するデータを見る限り、大企業と中小企業・小規模企業の間にはその実施状況に大きな隔たりがある。

政府から求められる出勤者数の7割削減を達成する大企業

2020年の売上高上位30社のうち、約20社が出勤者数の削減の実施状況を公開しており、平均すると7割をやや上回る水準にある1。産業別に見ると、製造業、卸売業、小売業、情報通信業が高めの出勤者数削減率を達成している一方、社会・経済インフラ関連の産業で非開示または比較的低水準にとどまっている。

中小企業・小規模企業が抱える出勤者数削減の課題とは?

一方で、東京都のテレワーク実施率調査によれば、出勤者数の削減率は26%(同調査で公表されているテレワークを実施した社員割合、テレワークの実施回数などのデータを基にJLL換算)である。この数字には、回答企業全体のうち80%超を占める中小企業と小規模企業の状況が色濃く反映されている。

これとは別に、東京商工会議所が実施した「中小企業のテレワーク実施状況に関する調査」によれば、中小企業は次のような課題を抱えていることが見て取れる。

  1. 情報セキュリティ

  2. 社内のコミュニケーション

  3. PCや通信環境の整備状況

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企業の規模を問わず、テレワークは、働き方の多様性の推進などの利点がある一方、コミュニケーションの制限などといった課題もあり、その両面が生産性に与える影響について活発な議論をもたらすことになった。

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にもかかわらず、JLLではポストコロナの時代にオフィス回帰が進むと予測している。空室率の上昇予測の要因は、需要の減退や構造の変化ではなく、供給過多であること、グローバルな有力テクノロジー企業はイノベーション創出の場、緻密なコミュニケーションの場、脈々と受け継がれる企業文化醸成の場としてのオフィス文化を評価していることを考えれば、さもありなんである。さらに取り上げておきたいのは、緊急事態宣言下で日本の優良企業の一部が掲げている出勤率削減目標の背後に見え隠れするメッセージである。目下の在宅勤務が従業員の健康と安全を守るための緊急措置として始まったものであることから、ひとたび緊急事態宣言が解除されれば、こうした達成目標はほぼ間違いなく緩和されるはずだ。

ポストコロナの時代に期待される新たな変化

たしかに、将来的にオフィス需要の回復が見込まれるが、同時にオフィスでの健康やウェルネスに改めて関心が集まるといった変化が予想される。ウェルネスというコンセプトは、中長期的には資産価値向上に資すると考えられている。建物の外構、内装、管理・ガバナンスまで含めた性能、仕様、取組を考慮するもので、いわば「ハード」と「ソフト」の両面を網羅している。パンデミック前から関心が高まっており、すでに国際的にも国内的にも認証制度が運用されている。

実際、直近の不動産市場ではウェルネス関連の動きがみられている。オーナーが、職域でのワクチン接種の範囲を拡大し、自社従業員にとどまらず、テナント各社の従業員にまで広げた事例では、テナントとの関係は強化されたと考えられる。逆に、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、これまでよりも手厚い事業継続計画を求めて移転を検討しているテナントの動きも確認されている。

ウェルネスへの投資は、中長期的に不動産価値を向上させるもので、「経済リターン」と「社会へのインパクト」の両立が確保できる可能性があり、今後投資家、テナント、不動産のライフサイクルに関わる全ての市場参加者は認知を高める必要があると考えられている。社会とはESGを構成する要素であり、ESG投資とは世界中が取り組んでいるSDGs(持続可能な開発目標)を達成する手段の一つである。

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1:2021年7月27日時点で確認した情報を参照。調査対象従業員数、データポイントの日時・場所は、企業ごとに異なる。

執筆者:JLL日本 リサーチ事業部 チーフアナリスト 岩永 直子

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