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2022年の不動産市場をめぐる5つの論点

新型コロナの影響から激動の時代を迎える不動産市場。働き方や社会環境の変化から不動産の需要が様変わりし、2022年は新たな変化の1年になりそうだ。JLLの専門家がグローバルの視点から不動産市場の今後を左右するであろう5つの論点を考察する。

2022年 02月 02日

コロナ禍は社会的な価値観を大きく変化させ、不動産市場にも多大な影響を及ぼした。2022年は新たな変化の1年になりそうだ。

世界の不動産市場を左右するような大きなトレンドは、年間を通じて意思決定に影響を及ぼすことになる。だが、コロナ禍がもたらす変化といえども、長く定着するものもあれば、一過性で終わるものもあり、その見極めは依然として容易ではない。2022年の不動産市場の行方についても数々の疑問が存在する。そこで本稿ではJLLの専門家が不動産業界の今後を大きく左右するであろう5つの論点を取り上げる。

1.2022年の不動産投資市場はどこへ向かうのか?

JLLのレポート「Global Real Estate Perspective」によれば、2020年に投資家が注目したのは、居住用やライフサイエンス、データセンター、物流施設など、レジリエンス(強靭化)に寄与する不動産セクターだった。とりわけ物流施設は、2021年における世界の不動産投資全体のうち、史上最高の23%を占めるに至った。

2022年も引き続きこうしたセクターに需要が集まる見通しだ。加えて、コロナ禍によるここ数年の厳しい状況から抜け出すと見られているオフィスや商業施設が再び投資先として検討されそうだ。

JLL キャピタルマーケット リサーチ グローバルディレクター ショーン・コグランは、「目下の回復基調の中、回復が遅れているセクターについても信頼感が上向いており、2022年はオフィス、商業施設、ホテルといった各セクターにも追い風になっていく見込みだ。これまでのところ最も恩恵を受けているのは、質が高くて低リスクの資産」と説明する。

2.ワークプレイスはどのように従業員のニーズに応えるか?

リモートワークとオフィス勤務の組み合わせたハイブリッドワークが広く定着する中、優秀な人材の確保・維持が難しくなっており、従業員のニーズの変化にいかに対応すべきかが2022年の最重要課題になる。

ワークプレイス戦略が担う役割はますます大きくなっている。従業員の働く場所を問わず増加する共同作業を支援し、生産性向上を後押しするだけでなく、地域社会の活性化にも貢献する必要がある。

JLL リサーチ グローバルヘッド マリー・ピュイバローによれば、ハイブリッドワーク化を推進し、健康・ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的な健やかさ)の面で充実した従業員サポート体制を整えるには、テクノロジーをこれまで以上に迅速に、高度に進化させることが企業にとっての大きな課題となる。

「さらに幅広い投資が必要であり、実際に動き始めているが、まだまだ足りていない。特に多くの企業は、単純に生きながらえるためのサバイバルモードでほとんどの時間をやり過ごしているので、今後はハイブリッドワーク体制に歩を進める必要がある。ただし、待っていても『回復』の波はそう簡単には来ないだろう」(ピュイバロー)

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3.サステナビリティ計画を行動に移すには?

すでに多くの企業がネットゼロを目標に掲げている。ここで大きな課題となるのは、この目標に向けて策定した行動計画を実行に移し、その進捗状況とレポートを元に改善策に反映していくことだ。これはとりもなおさず、気候変動対策や社会的インパクトにつながる。

プラスの変化をもたらす重要な原動力となるのが、イノベーションや新しいテクノロジーである。例えば「Azara」や「Canopy」のように、ポートフォリオ全体を対象にサステナビリティのパフォーマンスを正確に測定する新型の分析ツールは、計画立案の段階を上手に乗り切るうえで、ますます大きな役割を担う。

だが、それだけでは足りない。「のんびりしている時間はない」と警鐘を鳴らすのはJLL ESGリサーチディレクター ローリー・マバルディだ。「行動の10年は始まっている」として「ネットゼロカーボンを掲げるオフィススペースの需要に応え、低炭素社会への移行を後押しするには、可能な限り、既存ビルの補強を進めることが不可欠だ」と指摘する。

4.ビッグデータは不動産を変えるか?

データの重要性が高まる中、不動産市場の再構築はいつ起こっても不思議ではない。投資分析による異常の発見、建物のサステナビリティ強化に向けた運用最適化、従業員の勤務に無理なくフィットするワークプレイスづくりには、いずれもデータ中心の取り組みが大きな効果を発揮する。

しかし、この面では企業も投資家も、時代遅れのシステムや社内に乱立する様々な規格など、多くの課題を抱えている。そうした中、1つのソリューションとしてJLLT BI&データソリューションズ グローバルヘッド マイケル・イーワートは「ビッグデータではなく『スモールデータ』に力を入れるべきだ」と指摘する。つまり、ほとんどの不動産専門家が現時点で利用できるデータタイプに合わせて、対象を絞り込んで簡素化する方法を採用すべきというわけだ。

「大きな目標を掲げるには、まず小さく限定的なデータの整理・管理を通じて気づきを得る必要がある。多くの企業にとってはこのほうが達成しやすく、最も現実味のある適用領域で価値が生み出される」(イーワート)

5.不動産市場が回復する中で世界の牽引役になるのは?

マクロ経済状況の改善を受け、事業用不動産に関して投資家が信頼感を取り戻しており、米国での投資が急速に大きく回復している。

こうした回復基調への転換は、2021年に英国、ドイツ、フランスで顕著だった。だが、2022年には欧州・中東・アフリカやアジア太平洋地域にも回復基調が波及する見通しだ。欧州・中東・アフリカ地域とアジア太平洋地域は、どちらも地域内の投資活動で競争が促進され、価格の維持につながっているが、地域間の投資も増加の見通しだ。とりわけアジアと中東のキャピタルマーケットは、欧米からのクロスボーダー投資を取り込もうと躍起になっている。

「このところ、渡航要件が頻繁かつ大きく変化しており、クロスボーダー投資の幅広い回復の足かせとなっている。特に新型コロナウイルスの新たな変異株が現れてからはこの傾向が顕著だ。しかし、地域間の投資活動は2021年末に向かう数カ月で回復ペースが上がり始めている」(コグラン)

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