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リカバリーインデックスが示す「コロナ禍で変わったこと」

2023年5月には新型コロナ感染症の5類への移行を控え、外国人旅行者の受入れや大型イベントの人数制限が撤廃されるなど、2023年は日常生活を取り戻したアフターコロナ時代の本格的な幕開けとなる。2020年から調査を開始したJLLリカバリーインデックスの調査結果をもとに、アフターコロナで最も大きく変化した点について考察する。

2023年 04月 21日
2022年10月以降、行動規制の緩和が進む

新型コロナ感染症が爆発的に拡大し、いわゆる「コロナ禍」と呼ばれた3年間が経過した。感染者の急増に伴う緊急事態宣言と小康状態を繰り返すなかで、ワクチン接種が進み、2022年に入ると中止が続いていたイベント等が再開され始めた。

さらに同年10月からは外国人観光客の受入れが再開されるなど、社会経済活動の本格的な復調を実感できるようになってきた。2023年3月にはマスク着用が個人の判断に委ねられ、5月には新型コロナの感染症法上の位置づけが5類に移行することが決まるなど、2022年10月以降、コロナ禍で実施されてきた行動規制が次々と緩和されてきたことがわかる。

そして、2023年はアフターコロナ時代の本格的な幕開けとなりそうだ。JLL日本が調査を継続してきた「JLLリカバリーインデックス」の調査結果もそれを裏付けている。

JLLリカバリーインデックスとは?

JLL日本では2020年8月より、新型コロナウイルスの影響により悪化した日本の社会経済が全体として回復への道程のどのあたりにいるのか回復状況を可視化するための総合指標として「JLLリカバリーインデックス」を公表してきた。

金融、雇用、生産、需要、モビリティの5領域から代表的な指標を抽出して統合し、5領域の総合指数である社会経済インデックスとして表すことにより、社会経済全体の回復具合をコロナ前と比較できるようにしたのが「JLLリカバリーインデックス」だ。

JLLリカバリーインデックス2022年2月特別版をみる
 

2022年10月からコロナ前の水準に回復

2020年1月時点の状況を100とした場合、2022年12月は101を記録し、すでにコロナ以前の社会経済水準まで回復

2020年1月(コロナ前)時点の状況を100とした場合、その指数に近づいたのは2021年12月。98まで回復したが、感染者数の増加に伴い2022年に入って再び悪化。しかし、2022年2月には新型コロナ対策の基本的対処方針の変更に伴いオミクロン株の特徴を踏まえて一律の自粛が緩和され、同年3月以降回復傾向が続いている。そして2022年10-12月まで3カ月連続で100を超えるなど、すでに「アフターコロナ時代」を迎えたといって過言ではなさそうだ。

リカバリーインデックス(2022年12月末時点) 出所:JLL日本 リサーチ事業部

各インデックスで回復状況に濃淡あり

全体的にみればコロナ前を超える回復状況を見せるが、その半面、各インデックスにフォーカスすると濃淡が見て取れる。2020年1月比で100以上を記録しているのが金融、生産、需要、100を下回っているのがモビリティと雇用だ。

リカバリーインデックスの調査を担当しているJLL日本 リサーチ事業部 アナリスト 剣持 智美は、雇用が100を下回った理由について「コロナ禍の影響だけにとどまらず、急速な円安や地政学的リスクによる経済の先行きに不透明感が出てきたことによる採用活動の一時的な停滞などが影響したことも大きい」と指摘し、コロナ禍のみの影響ではないことを強調する。

一方、モビリティは最も低い86に留まる。剣持は「政府の観光振興事業である『全国旅行支援』や外国人観光客の入国制限緩和の影響もあり、航空機利用や宿泊施設客室稼働率は回復が進んでいるものの、新幹線利用や特定路線の定期券収入がコロナ禍前の8割強にとどまっており、出張や首都圏通勤者がコロナ前より減少したまま推移しているのでは」との見立てだ。

テレワーク実施率は都内の大企業で75%超

テレワーク実施率の高い大企業が集積する首都圏のほうが大阪や福岡に比べて定期代収入の回復に遅れが目立つ

東京都のテレワーク実施率調査によると、2022年12月時点で従業員30人以上の都内企業(433社)のテレワーク実施率は52.4%となったが、従業員300人以上の都内企業(59社)は76.3%に上っている。

また、日本生産性本部が2023年1月に発表した「働く人の意識調査」では、テレワーク実施率は16.8%となり、従業員規模別でみると1,001名以上の企業ではテレワーク実施率は34.0%と前回調査から4ポイント増加している。同調査ではコロナ収束後に変化が起こり得る事象について「テレワークの普及」を3割以上の回答者が予想しており、もはや働き方の選択肢として定着した感もある。今後も一定数がテレワークを継続する可能性は高い。

コロナ以前のように、すべての従業員が一律にオフィスに勤務するという働き方が見直され始めている証でもある。剣持は「テレワーク実施率の高い大企業が集積する首都圏のほうが大阪や福岡に比べて定期代収入の回復に遅れが目立つ」と指摘。リカバリーインデックスから浮かび上がった今回の調査結果は、東京オフィス市場の今後を予感させるようだ。

一方で、テレワークならではの従業員の孤独感や心理的負担、コミュニケーション・帰属意識の低下といった多くの課題を解決するために、いわゆるテレワークとオフィス勤務を組み合わせたハイブリッドワークを採用し、特にオフィスで働くことを啓蒙するために、サステナビリティやウェルビーイングといったオフィス環境を改善する、いわゆる「オフィスの質への逃避」と呼ばれる現象が起こっている。

テレワークを活用した柔軟な働き方は、その利便性の高さから今後も定着していくことが予想され、オフィス需要の減少を危惧する声もある。しかし、コロナ禍を奇貨として従業員のウェルビーイングやサステナビリティの重要性が際立つことになり、持続可能なオフィス市場へと進化させる絶好の機会となりそうだ。

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