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急成長前夜のフレキシブルオフィス市場

オフィステナントの半数近くが将来的にフレキシブルオフィスの利用拡大を計画している。コスト面でもスペース面でもこれまでにない柔軟性が生まれ、人材基盤の変化に合わせて必要分の床面積を確保できるフレキシブルオフィスは企業のワークプレイス戦略には欠かせないものになりつつある。

2022年 02月 14日

コロナ禍による不透明感が今後も続くと実感しているテナント各社の間では、絶えず変化するニーズに適応できる機動性の高いオフィスづくりに軸足を移し、ワークプレイス戦略にフレキシブルオフィスを利用する動きが広がっている。

JLLが2021年に発表したグローバル・フレキシブルオフィス・レポート「The Future of Flex」によれば、コロナ後の勤務形態に関する戦略の一環として、フレキシブルオフィスの利用を増やす見込みとの回答はテナント企業の41%に上った。

JLL米国 オフィスリサーチ シニアバイスプレジデント兼ディレクター スコット・ホーマは「物理的なオフィスへの復帰をどう管理していくのかという点に関して、経営側と従業員の意向には大きな開きがある」と指摘し、続けて「企業としてはフレキシブルオフィスを活用すれば、この温度差にうまく折り合いをつけることができる。今後を見据えると、スペースの設計・利用方法の面だけでなく、人々が集まって仕事をする物理的な場という面でも、オフィス市場はもっと柔軟性を高める必要がある」と説明する。

ハイブリッドワークを望む従業員は63%にのぼる

端的に言えば、フレキシブルオフィスを利用すれば、簡単な手続きにより、比較的短期間の契約で小規模スペース(ときには大規模スペース)を借りられるため、機動的な経営が可能になる。コロナ禍前の10年間でさえ、世界のフレキシブルオフィス市場は、年平均成長率22%というペースで急拡大していた。これは、従来のオフィス市場の同時期の成長率をはるかに凌駕している。JLLのリサーチャーによると、テナントがフレキシブルオフィスに強い関心を抱くようになった背景には、主に4つの要因があるという。

1. コスト削減

即入居可能な造作付きスペースのため、初期費用の自己負担を抑え、業務効率化につながるだけでなく、入居費用総額を削減する余地もある。

2. 機動性

新規事業の立ち上げ時や事業が想定以上に急成長している場合に、フレキシブルオフィスであれば、短期間で準備を整えてすぐに業務を開始できる。逆にコロナ禍のような想定外の事態が発生した場合も、フレキシブルオフィスであれば、融通の効かない長期賃貸契約に縛られることなく、リモートワークやハイブリッドワークの体制に即座に切り替えることが可能だ。

3. イノベーション/コラボレーション

完全なリモートワーク体制と異なり、フレキシブルオフィス環境であれば、従業員同士の即興的な交流の機会も生まれ、それがきっかけでイノベーションにつながりやすくなる。このような思わぬ交流の機会は、アイデアの交換を促し、新たな事業コンセプトの開発につながりやすい。

4. 人材獲得

フレキシブルオフィスであれば、求人ニーズに合った特定属性の人材が多い地域に素早く進出したり、既存従業員の通勤時間を削減したりすることが容易になるため、人材獲得競争で優位性を確保できる。

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「フレキシブルオフィスの需要拡大は構造的なもので、単にコロナ禍による突発的な現象ではない。このため、今後、投資家やビルオーナーが保有資産に柔軟性とホスピタリティ関連のサービスを拡充していくだろう。現在、ビルの集客強化、見込みテナントの掘り起こし、新たなフレキシブルオフィスに入居するテナントへの最新アメニティ提供など、さまざまな施策を検討している」(ホーマ)

JLL アメリカ・フレキシブルスペース・ヘッド マネージングディレクター ジェイコブ・ベイツも、テナント各社がフレキシブルオフィスを総合的な経営戦略の重要な柱に位置付け始めているとして、次のように話す。

「企業の間では、フレキシブルオフィスの機動性の良さが求められている。企業はこれまで市場の状況に応じて雇用を調整してきたが、長期賃貸契約やニーズに合わなくなったスペースに関してはお手上げ状態だった。いくら景気が悪くても、不動産を解雇するというわけにはいかず、テナントが使用する不動産ポートフォリオのかなりの部分をフレキシブルオフィスで賄うようになれば、コスト面でもスペース面でもこれまでにない柔軟性が生まれる結果、人材基盤のニーズの変化に合わせて床面積を確保できる」

成長の余地は十分にあり

JLLが調査したテナントのうち、自社オフィス延床面積の1割以上にフレキシブルオフィスを利用しているとの回答は、現時点では3%にとどまっている。フレキシブルオフィスはオフィス市場全体でみるとほんの一部に過ぎないが、JLLでは、この分野が今後成長を続け、商業用不動産の中で重要なメインストリームにまで存在感を高めると見ている。

「導入状況は業界によって大きな差がありますが、2030年までにフレキシブルオフィスが市場の30%を占めるようになると見込んでいる。ハイテク系やクリエイティブ系の企業のほうがオフィスのポートフォリオにフレキシブルオフィスを組み込みやすいかもしれないが、金融機関でさえコロナ禍を受けて積極的にフレキシブルオフィス導入に動き出しているほどだ」(ベイツ)

フレキシブルオフィスを内包するワークプレイス戦略が主流になるにつれて、従前のオフィスビルにとどまらず、ショッピングセンターや集合住宅開発地域、その他の不動産セクターにまで導入が広がっている。ホーマは「現在、中心業務地区にある路面店のような都心環境から、郊外のショッピングモールに至るまで、どの商業施設でもかなりの余剰スペースに悩まされている。こうした供給に、住宅・商業施設・オフィス・エンタメ等の用途が一体化した賑やかな職住環境を求める需要をうまく誘導できれば、共生関係を創り出すことができる。オフィスビルだけでなく、さまざまな環境にフレキシブルなワークスペースを確保すれば、ウィンウィンの機会が生まれるだろう」と締めくくった。

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