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価格高騰が続く東京オフィス市場が「バブル」ではない理由

2013年から景気が回復し、東京の不動産マーケットも活況を呈してきたが、コアアセットの代表格・東京Aグレードオフィスの利回りが3%を下回り「バブル」を懸念する声が出始めている。その実態は?

2019年 06月 17日

イールドギャップから市場の健全性が窺える

ファンドバブル期よりもタイトな現在の利回り

東京Aグレードオフィスの利回り低下が著しい。JLL日本 リサーチ事業部の調査では金融危機以前、いわゆるファンドバブル末期にあたる2007年第4四半期に利回り3.2%を記録したが、2018年第4四半期以降はその数字を下回る2.8%を維持している。

振り返れば、金融危機による景気低迷時期は不動産に対するリスクが上昇、コア資産を代表する東京Aグレードオフィスの利回りも4%前後を推移していた。しかしアベノミクスによって融資環境が劇的に改善。国内外の投資家の日本市場への回帰が鮮明になり、日銀のマイナス金利政策を追い風に2016年から利回り3%を切るようになった。そして、マイナス金利の副作用として、借り換えによって支払い金利の負担を軽減しながら賃料のアップサイドを狙うオーナーが増加したことで当時の売却案件が激減。そうした中、数少ない売買案件に投資家が殺到することで価格高騰を引き起こし、東京Aグレードオフィスの利回りはファンドバブル時よりも利回りが低下したのである。

2019年第1四半期末の空室率は1.0%、賃料は月額坪当たり38,719円(前年比4.4%増)。2018年-2020年の3年にわたり東京Aグレードオフィスの新規大量供給がなされ、若干の調整局面に入ることが予想されるが、現時点ではビル市況は好調を維持している。引き続き賃料のアップサイドが見込めることから、価格は高止まりし、利回りは低位横ばいとなりそうだ。

数字だけ見ると過熱感が…

低利回りの市況感から東京オフィス投資市場に対して「バブル到来」を危惧する声が聞こえるようになってきた。しかし、現実には「バブル」と呼べるような危うい状況なのかといえば、そうではない。JLL日本 リサーチ事業部 大東 雄人は「確かに数字だけを見ればバブルと感じるかもしれないが、実態は利回りを度外視した投資とは言えない」と指摘する。

前述した通り、東京Aグレードオフィスの利回りは2.8%であり、ファンドバブル期のボトムだった3.2%を下回る。物件価格が高騰している点を加味すると、体感的かつ数字上では明らかに過熱している状態だ。一方、不動産投資家は投資判断の1つにリスクフリーレートと不動産利回りを比較したイールドギャップを用いる。2007年第4四半期と2018年第4四半期のイールドギャップを比較すると、後者のほうが倍近いスプレッドを確保している。一般的に「バブル」と呼ばれる状況とは、キャピタルゲイン目的で利回りを無視した投資(投機)がなされたことで実態にそぐわない価格高騰が起こる。しかし、大東によると「現在のスプレッドを見ると投資家は収益性をベースにして冷静に投資判断を行っていることが読み取れる。不動産価格は確かに高水準にあるが、Aグレードオフィスに関してはスプレッドが担保されており、決して投機的な状況にはない」と分析する。

投資家の眼は引き続き東京へ

世界にはイールドギャップがマイナスになったマーケットとして2008年頃のシドニーや香港が挙げられる。長期金利と不動産利回りが逆転した状況で、不動産取引が利回りベースで判断されていないと言える。キャピタルゲイン狙いのこうした投機的市場こそ「バブルの温床」となりえる。そういった意味では東京Aグレードオフィス市場は価格が高騰しているとはいえ決して「バブル」とはいえないのだ。一方、東京Aグレードオフィスでは期待利回りが確保できない投資家がより高いリターンが見込める東京Bグレードオフィスや大阪・福岡を代表する地方のオフィス等を嗜好しており、こうしたアセットクラスで利回り低下/価格上昇が見られそうだ。

大東は「実際に東京のイールドギャップは低金利を背景に世界の主要都市に比べても十分に魅力的な数字を維持している。特に海外投資家を中心に東京への投資意欲は今後も継続するだろう」と結論づけている。

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