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新型コロナウイルスが飲食店に新しいアイディアをもたらす

感染拡大を防ぐべく、不要不急の外出を禁止する動きが世界的に広がっている。こうした状況はイートイン型の飲食店にとっては死活問題となっている。新型コロナウイルスの脅威にさらされる飲食店、不動産所有者は既成概念にとらわれない対応策を余儀なくされている。

2020年 04月 21日
外食規制で飲食ビジネスが変化
持ち帰りや宅配に業態変更

新型コロナウイルス感染拡大を食い止めるためソーシャルディスタンス戦略(意図的に人と人が一定程度距離を取ること)が導入され、外食が規制される中で飲食店はキャッシュフローを維持するためにビジネスモデルを再構築せざるを得なくなっている。

レストランのキッチンをベーカリーにしたり、バーがドリンクパックを宅配したり、テークアウト店舗がフードアプリを導入したり、多くの飲食店が新しい需要を掘り起こし、将来的なトレンドに備えるべく対策を講じている。

JLLオーストラリア プレースメイキング・カスタマーエクスペリエンスマネージャー アビゲイル・キャンピオンは「飲食店や店舗スペースの賃貸人にとって、適切なデジタルプラットフォームを使用してオンラインの人気商品を理解し、効果的なメッセージを発信することが非常に重要な戦略となっている」と指摘する。

オーストラリアでは集会防止措置の影響を受けた店舗が約60,000店あり、これには飲食エリアの閉鎖はもとより、カフェ、バー、レストランに対して持ち帰りか宅配のみの営業を認めるという措置が含まれる。世界中の都市に目を向けると完全に閉鎖された店舗が多数存在する。

一方、ウイルス感染が世界的に急速な広がりを見せる中、Eコマースや都市化、人々の消費行動の変化といった進化の圧力にさらされていた飲食店と不動産所有者は、こうした新展開に速やかに対応しなければならなくなった。

飲食・小売コンサルタントBrain &Poulter 取締役兼共同設立者 スージー・ブレイン氏は「影響を受けた飲食店がまず行わなければならないことは持ち帰りや宅配モデルに転換すること。既に対応していた飲食店も存在するが、多くの店舗にとってこれは全く未知の領域であり、どこから手をつけどのように進めればよいのか大きく混乱している」と指摘する。

必要は発明の母

一方、世界各地で局地的に素早い「閃き」がみられる。オーストラリアでは規制緩和によりバーにアルコールの宅配が認められ、シドニーのバー「Dulcie's」はグラスのレンタルとバーのプレイリストへのアクセスを含む「隔離アワー」パックを発売した。

メルボルンでは、家族経営のスナックバー「Theodore's」がパンやコーヒー、デリ食品、持ち帰りの食事を提供するTed's Grocerに変身した。

ロンドンでは、ヘルシーな食事の宅配会社兼デリチェーン「Detox Kitchen」が生鮮食品業者と協力して通常はレストランに販売される野菜や果物、卵、乾物などを消費者向けの食品ボックスに仕立てた。

飲食店がオンライン事業に参入

また、新型コロナウイルスは、飲食エリアやその他の小売エリアの多くの小売業者に土地所有者とオンライン事業について新たな議論を行う機会をもたらしている。

キャンピオンは「最も基本的なレベルでは、不動産所有者とデジタル健康診断の実施について話し合っています。各飲食店についてチェックし、例えばGoogleで『アジア 食品 宅配』と検索したらヒットすることや、食品宅配サービスと接続されていることが確認できる。また、ショッピングセンターのウェブサイトやSNSアカウントがこうした情報をすべて掲載しており、その知名度を飲食店の支援に活用することもなされている」と指摘する。「全店営業中」と掲載して最善を祈るだけでは何も生まれない。優れたソーシャルメディアは多くの戦略と非常に技術的な対応に支えられているのである。

ブレイン氏が率いるBrain &Poulterでは、この「非通常業務』と名付けた期間を通じて飲食店と不動産所有者を支援するため、持ち帰りや宅配サービスのベストプラクティスガイドやコスト管理アドバイスを含む小売業者向けの「トリアージパック」を開発した。

世界的にも、飲食店を支援する様々なプラットフォームが台頭している。シンガポールでは、DBS銀行が政府機関である情報通信メディア開発庁、エンタープライズシンガポール、テクノロジー系スタートアップ企業であるOddleやFirstComと協力して、オンライン食品注文サイトを開設した。

これらは将来的に飲食店の存在意義を維持するためにも必要とされる。

ブレイン氏は「この事態が収拾した暁には、外出自粛で直接交流することの重要性を思い知らされた人々によって『外食ブーム』が起こるだろう。不動産所有者がその実現のためのスペース創造に力を注いでいるのはこのためだ。しかし、便利な食事宅配との折り合いもつけなければならない。イートイン型の飲食店が事業をダークキッチン(デリバリー主体で接客施設を持たない飲食店)に奪われないためには、新しい習慣を受け止めなければならない」と述べている。

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