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新型コロナウイルスの影響でタイのホテルが進める新・収益化計画

アジア屈指の観光立国であるタイのホテルが新型コロナウイルスの影響で宿泊者減に苦しんでいる。そうした中、一部のホテルでは宿泊料金とは異なる代替え的な収益化計画を立案。新型コロナウイルス感染収束後も長期的にわたって新たな収入源となる可能性を秘めている。

2020年 05月 12日
パンデミックで大打撃を受けるタイのホテル

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、タイのホテル所有者や運営会社は事業への影響を最小化するため、様々な戦略を採用している。

一般的に、ホテルの主な収入源は客室料金、料飲、会議・イベント施設使用料などだが、これらの収入チャネルはパンデミックで大打撃を受けている。観光業の低迷により宿泊需要は激減し、国内全域におけるソーシャルディスタンス政策がホテルのレストランやバー、会議施設への需要を消滅させた。

従業員や宿泊客の安全を確保するため、マイナー・インターナショナル、エラワン・グループ、アセット・ワールド・コーポレーション、センタラホテルズ&リゾーツ、デュシットインターナショナルなどのホスピタリティ業者がホテルの一時閉鎖を発表している。

安全上の理由以外にも、需要低迷期に一時閉鎖することで人件費、光熱費や修繕費といった営業費用の節約が可能となる。中にはこれを機会に計画中の改装を前倒し、バリューアップを実施しているホテルも存在する。

多くのホテルは営業継続、新たな収入源を模索

バンコクその他の地域で休業を選択したホテルはいくつかあるものの、多くのホテルは新たな収益源の確保に動いている。

センタラホテルズ&リゾーツやデュシットインターナショナル、チャトリウム ホテル & レジデンスといったホテルチェーンでは、宿泊客がLineMan、GrabFood、Foodpandaなどの食事宅配プラットフォームを使ってホテルから食事を注文できるサービスを開設した。他のホテルは食事メニューの割引を実施しており、例えばプルマン バンコク キング パワーでは、割引や販促用の持ち帰りアイテムを提供している。

多くの企業がオフィスを閉鎖してリモートワークに切り替えているため、一部のホテルは自宅近くで広々とした静かな環境で仕事をしたいというニーズを狙って割安なホテル勤務デイユースパックの提供を始めている。

象徴的な事例としては、アコーホテルズがバンコクの10軒のホテルでプライベートなオフィススペースを必要とする利用者向けに1名利用のデイユースパックを提供している。プルマン バンコク キング パワー、ココテル バンコク スクンビット 50、T2 レジデンス サトーンも同様のサービスを提供中だ。料金はホテルの立地や客室タイプ、その他のサービスメニューによって異なるが、料金は1日当たり450バーツから4,500バーツほどだ。

ホテルが新型コロナウイルスの隔離用施設に

いくつかのホテルは新型コロナウイルスの軽症患者を対象とした「ホスピテル」指定施設への申請を行っている。保健省が包括的な基準を定めているため、本稿執筆時点で申請が承認されたホテルは2軒にとどまっており、プリンストン バンコク ホテルとパラッツォ バンコク ホテルが試験的に指定を受けた。これらのホスピテルは近隣の病院と密接に協力し、タイ政府から直接報酬を受け取ることになる。

また、海外からの帰国者を多く含む新型コロナウイルスにかかりやすい高リスクの住民に対して自主的な隔離措置用の施設を提供するべく、多数のホテルが保健省に申請を行っている。自主隔離センターとして営業するホテルは、宿泊料金の他、食費から収入を得られる。  これは一部のホテルには魅力的な選択肢だが、包括的な適格要件が設けられているため、隔離センター申請を行ったホテルがすべて承認されるわけではない。隔離センターの要件を満たしたとしても、近隣のコミュニティーが抵抗する可能性もある。

多くの国々が渡航規制強化の一環として一時的に国際旅行客に対して国境を閉ざしており、ホテルは母国に帰国できない外国人向けに特別な長期滞在プロモーションを実施している。サービスアパートは長期滞在旅行者用の設備が整っており、広々とした客室内には台所や洗濯機などのアメニティが備えられている。

ホスピタリティ業界が厳しい経済環境の矢面に立たされ続ける中、ホテルの所有者や運営会社は基本的な営業コストを相殺するだけではなく、政府の封じ込めや回復策に貢献するべくクリエーティブな方法を模索している。   

こうした代替的な収益化計画の多くは依然として試験段階だが、成功すればパンデミック収束後も長期的に新しい収益源となる可能性がある。