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新型コロナウイルスでワークライフが変化する

コミュニケーションの停滞、社会的な孤立感…これらを理由に一部のグローバル企業はテレワーク禁止に踏み切ったが、新型コロナウイルス感染拡大を機に再び脚光を浴びている。通信インフラが拡充し在宅勤務でも生産性が維持される中、ワークプレイスの在り方は大きく変わる可能性がある。

2020年 04月 21日
ワークプレイスの新時代
テレワークが日常風景に

オフィス以外(自宅を含む)で働くことについて、グローバル企業は過去10年間にわたり試行錯誤を繰り返してきた。ただ、結果はまちまちだったため、例外的な扱いをされてきたのが実情だろう。

しかし、状況は一変した。新型コロナウイルスの感染拡大を機に、企業のトップから若手スタッフに至るあらゆる従業員が自宅のダイニングテーブルでラップトップパソコンを使用することになってしまったのだ。ワークプレイスの専門家は「世界が直面するこの状況がテレワークの真価を図る試金石となる」との見解を示す。今後あらゆる規模の企業でテレワークがより一般化する可能性があると考えられている。

危機のピークが過ぎれば、企業文化、そして、それ以上にワークフォースのデジタルスキルが世界的に激変している可能性がある。勤務地や勤務時間の柔軟性が増すことで生産性が向上し、個人のワークライフバランスが改善される可能性は決して低くはないだろう。

JLLオーストラリア ヒューマン・エクスペリエンス ディレクター ジリアン・ロウボサムは「突然すべてが変化したことを考えれば、テクノロジーは十分にこの非常事態に耐えており、人々は必要に応じて一日を快適に過ごす柔軟性を歓迎しているため、ワークプレイスは新時代に突入していることは間違いない」と指摘する。

世界各地で新型コロナウイルス感染拡大を防止するため、より厳格な隔離措置が導入された。事業規模を問わずあらゆる企業がテレワークを実施しており、ロックダウン実施中の国々ではそれは選択肢ですらない。NASAからゼネラルモーターズ、ツイッター、オーストラリア証券取引所に至るあらゆる組織でリモートワーク能力が試されている。

年初に感染拡大がみられた中国では、在宅勤務は欧米に比べて普及していなかったが、高度にトップダウン型の経営スタイルに慣れ親しんでいたCEOが生産性向上に目を見張ったといわれている。

パンデミックがもたらすレガシーは「信頼」

あらゆる職位や職業のオーストラリア労働者にジョブシェア、リモートワーク、退職を含む柔軟な勤務ソリューションを提供するJob Pairの創業者であるネス・ストンニル氏にとって、企業のリーダーやマネージャーが従業員との関係を再検証し、より包括的なワークプレイスを構築する中、パンデミックがワークプレイスにもたらす最大のレガシーは「信頼」であるという。

2014年にスタンフォード大学が実施した9カ月間の研究ではテレワーク勤務の従業員は怠けるという既成概念に挑戦し、実際には業績が13%向上したことが明らかとなった。さらに、従業員の仕事に対する満足度が高まり、離職率も改善されたのである。

ストンニル氏は「フレキシブルワーク(選択肢が多い柔軟な働き方)を企業が大々的に採用しない場合、管理職や人事部門のフレキシブルワークに対する見解-その考え方、経験や導入意思が原因となっていることが多い。だからこそ、その導入に関する戦略やツール、テクノロジーを保有することが非常に重要となる」と語る。

オフィスの役割が大きく変化

今般の危機で組織はフレキシブルワークをどこまで拡張できるのかが試されているが、人は接触を必要とすることから完全な在宅勤務には移行しない可能性が高い。このため、オフィスの役割がどのように変化するのか注目が集まっている。

JLL プロジェクト・アンド・ディベロップメント・サービス ディレクター アラナ・ハナフォードは「あるいは、この期間を通じて直接的な交流が切実に求められたことから、物理的スペースで毎日快適に働くための方法がよりよく理解される可能性もある」と述べている。

通常のワークライフのリズムが混乱することで、頭を休めることが難しくなっている人もいる。テクノロジー業界やスタートアップ企業の従業員の間では既にいわゆる「996カルチャー」が特徴的な現象となっている。これは自宅で週6日、朝9時から夜9時まで勤務することを指している。

社会的、職業的な孤立と孤独感も繰り返し取り上げられるテーマであり、Yahoo、IBM、バンクオブアメリカなどの企業が机を並べて働く方が有効なコミュニケーションやコラボレーションが可能であるとして在宅勤務を禁止してきた。

ハナフォードは「ワークプレイスストラテジストや設計者は、我々が集い、結びつき、高い生産性をもって働き、ひらめきを得る場所やスペースの未来を形作る上でますます重要な役割を果たすことになる」と述べる。

本社+サテライトオフィスがトレンドに

当然ながら、この体験は企業の不動産マネージャーのオフィス要件に対する考え方をも変化させ、新たなトレンドを引き起こすだろう。

JLLビクトリア リース共同ヘッド ジェームス・パーマーによれば「ほとんどの人や企業は急速な調整を求められたことで依然として混乱しているが、様々な選択肢が注目を集めることになる。情報を共有し、人が繋がることができる場としてのオフィスの価値は高まり、本社オフィス1カ所とスタッフが勤務する複数のサテライトオフィスで構成されるハブアンドスポーク型モデルがより突出したトレンドとなるだろう。とりわけテクノロジーの信頼性がほぼ証明されたことから、サテライトオフィスの要素と場所について新たな検証が行われると想定される」という。

企業は新しい世界に速やかに適応しなければならず、いっそう進歩的にバーチャルでフレキシブルな方法で事業のみならず、企業風土を構築しなければならなくなるだろう。コロナウイルス感染拡大により世界規模で働き方の新たな潮流が生まれるかもしれない。

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