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進化し続けるライフサイエンス都市「大阪」 

2025年開催の万博招致に成功し、都市のプレゼンスを高める千載一遇の機会を得た大阪。商業用不動産のモメンタムにおいて世界1位となり、更なる飛躍が期待されるが、この勢いを持続させるためには今後の都市づくりが重要になる。1つの可能性としてライフサイエンス都市が浮上する。

2019年 09月 09日

大阪の将来像はライフサイエンス産業の育成にあり

不動産モメンタムで世界1位に

JLL『2019年版シティ モメンタム インデックス』日本語版が2019年4月下旬に発行され、大阪市が商業用不動産モメンタムで世界131都市中第1位となったことが話題となった。大阪市の優位は、特にオフィスやリテールの賃料上昇率が高かったことに起因している。実際、大阪中心部のオフィス賃料は力強い上昇が続いており、5四半期連続で年間上昇率10%超を記録したi(図表1)。また、中国をはじめとする来阪外国人旅行者数の増加に伴い、心斎橋界隈のリテール賃料も上昇を続けている。しかし「大阪の勢いはいつまで続くのか」と訝しむ不動産関係者は少なくない。

図表1:大阪と東京のオフィス賃料推移

大阪に集積するライフサイエンス産業

都市のモメンタムを維持するためには、「創造性、コラボレーション、イノベーション、そして起業家精神を促進するインフラと環境」に支えられた持続可能な成長が必要であるii。この説に基づくと大阪の将来像のひとつとして考えられるのがライフサイエンス都市であろう。大阪には武田薬品(2019年第1四半期に本社である武田御堂筋ビル等を売却したが本社機能は移転していない)をはじめ国内大手製薬会社の本社が古くから集積するほか、近年では外資系製薬会社や公的医療関連機関が大阪駅近くにオフィスを構えるなど、ライフサイエンス産業が活発である。

経済センサスにおいても、大阪市内の事業所数が全体的に減少するなかで、医療・福祉分野は事業所数・従業者数ともに伸びている(図表2)。大阪府や大阪市も、ライフサイエンス関連事業の進出に対して条件付きの税制優遇措置を設ける等iii、ライフサイエンスを意識した街づくりに取り組んでいる。

図表2:大阪市内の業種別事業所数

万博、IRもライフサイエンスを意識

2023年に中之島に完成予定のMulti-LinkSは、ゲノム医療やAI/IoT等のテクノロジーを活用した最先端医療施設と研究開発リエゾンオフィスを統合した未来医療国際拠点である。2025年に夢洲で開催される日本国際博覧会(大阪・関西万博)のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」、サブテーマは「多様で心身共に健康な生き方、持続可能な社会・経済システム」である。さらに、2024年には、夢洲に統合型リゾート(IR)を誘致・開業する予定であり、ウェルネス施設を取り入れた大阪独自のIRを提案するIR運営事業者も存在する。一方、2025年以降には大阪駅北側の17haの土地に、緑豊かなイノベーション拠点「うめきた2期」地区が街開きを予定しており、健康・医療分野の新産業創出も期待されている。ライフサイエンスを柱のひとつとした都市機能の更新とイノベーションの創発が奏功すれば、大阪の勢いが今後も続く可能性は十分にある。

(JLL日本 関西支社 リサーチ事業部 アナリスト 剣持 智美)

[i]JLL『大阪オフィス マーケットサマリー2019年第2四半期』

[ii] JLL『2019年版シティ モメンタム インデックス』

[iii] https://www.investosaka.jp/market/privilege.html

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