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熱帯びる地方自治体のホテル誘致

東京や大阪、京都には高級ホテルが多数存在するが、地方自治体自らが高級ホテル誘致に取り組むケースが見られるようになってきた。アドバイザーを公募し、ホテル誘致の可能性を模索する。街づくりの中核拠点としてホテルに寄せられる期待は思った以上に大きいようだ。

2018年 10月 18日

外資系高級ホテルが地方都市へ

JLL日本 ホテルズ&ホスピタリティ事業部は2018年8月、兵庫県加東市より宿泊施設誘致に係る調査業務を受託した。将来を見据えたまちづくりの一環としてホテル誘致に向けて多方面から調査・分析を行うことになる。本事例を含めて、今地方都市が積極的にホテル誘致に動いている。コンサルタントを起用しマーケット調査を行う他、デベロッパーやオペレーターに対して助成制度を拡充している。

中でも耳目を引くのは外資系高級ホテルの誘致計画だ。例えば、奈良県が計画する大型再開発事業「大宮通り新ホテル・交流拠点事業」の中核施設にマリオット・インターナショナルグループの最高級ブランド「JWマリオットホテル奈良」の誘致が決定。福岡市では「天神ビッグバン」の本丸となる大名小学校跡地の再開発事業で、積水ハウス、西日本鉄道などの事業グループが「ザ・リッツ・カールトン」の誘致を提案し、優先交渉権者に選ばれた。また、広島県が主導する広島市富士見町地区へのホテル誘致計画では、中四国地方で初となるヒルトンが運営事業者に選定され、金沢市では金沢駅西口にある市有地の暫定駐車場跡地で開発されるホテルにハイアット・ホテルズ・アンド・リゾーツが進出する。

JLL日本 ホテルズ&ホスピタリティ事業部 中村健太郎によると「従前に比べてホテル誘致に向けてアドバイザー等を公募する地方自治体は増えている。公募条件に『当該自治体において入札参加資格を保有している企業』という制約を設けるケースは依然として多いが、外資系高級ホテルの誘致実績の豊富な当社のような外資系不動産サービス会社にも門戸が開かれるケースは少しずつ増えている」という。

MICE誘致も大きな目的- 地方自治体のホテル誘致

外資系ホテル誘致を目指す理由の1つは、増加するインバウンド等によって拡大した宿泊需要の流出を防ぐのが狙いだ。奈良県の「JWマリオットホテル奈良」の事例では、世界遺産や重要文化財の数は全国屈指でありながら「ホテル不足」は顕著。厚生労働省の発表した「平成28年度衛生行政報告例」によると奈良県のホテル・旅館の総客室数は8,690客室で、近隣の京都(37,650客室)や大阪(80,869客室)を大きく下回り、全国で最下位。一方、日本政府観光局の「都道府県別インバウンド訪問率」は全国7位とギャップが大きい。日系の老舗高級ホテル「奈良ホテル」は存在しているものの「外資系高級ホテル」のグレード帯が皆無だったことから、外資系高級ホテルの誘致はかねてからの「悲願」といわれていた。中村は「富裕層が観光に訪れても宿泊場所がない。奈良を避けて近隣の京都や大阪で宿泊してしまう。宿泊需要の流出に対して、行政サイドが問題意識をどれだけ持つかがホテル誘致の鍵になる」と説明する。

また、MICE誘致を睨み、国際会議場の整備と共に高級ホテルの誘致を目指すケースも少なくない。例えば、前述した福岡市は2019年に日本で初開催となるG20首脳会議の誘致を目指していたが、最終的に大阪市に競り負けた。落選理由の一つに「世界のVIPが宿泊する高級ホテルが少ないこと」が挙げられている。また、外資系高級ホテルの誘致は、再開発によるMICE誘致への対応といった側面を持っている。中村は「ヒルトンの誘致を進める広島は、平和都市として世界的にも知名度が高い一方、大規模な会議場やホテル数が不足しているため、国際会議の誘致件数などが少なかった。国際会議が増えれば、都市の国際的知名度が向上し、更なるインバウンドの増加にも繋がる好循環が期待できる」と言及している。

観光地化が可能?模索する地方自治体- 地方自治体のホテル誘致

ただし、高級ホテル誘致が現実的に可能なのは宿泊需要が見込める地方都市、観光地として一定の地位を確立しているエリアに現状限られてくる。そもそも宿泊需要があれば民間業者が独自の判断でホテルを開発するが、そうでなければ再開発等で新たな宿泊需要を喚起する他ない。また、ホテル開発が最有効活用となる用地を自治体が保有していればデベロッパーを公募すればいいのだが、そもそも開発用地が手当されていない状況から、ホテル招致の可能性を探る「前段階」的な動きもある。その半面、小学校跡地や駐車場等、有効活用されていない公共用地に対する再有効活用策としてホテルを誘致するパターンは多い。前述した金沢駅前のホテル開発事例や、京都市の元清水小学校開発プロジェクト(NTT都市開発の初の直営ホテルでプリンスホテルに運営委託)、元立誠小学校跡地活用事業(ヒューリックが上層階に自社グループ運営ホテルを誘致)等が典型例。いずれも豊富な宿泊需要が見込める観光地だ。

中村によると「地方都市の公募案件を見ると、インバウンドを誘致するための戦略アドバイザーを募集しているケースのほうが目立つ」といい、観光地化を模索する地方自治体は多いものの、具体的にホテル開発の後押しになるほどの宿泊需要を喚起するまでには至っていない。現状、特定の観光需要が見込める地方の中核都市でホテル誘致の動きは活性化しているが、全国的なトレンドとはいえない。しかし、中村は「街の中心地を作る際、ホテルがあるとその後の発展を促すことができる」と指摘する。

少子高齢化による人口減に喘ぐ地方都市において、観光客の誘致は地元経済活性化のための有力な施策の一つとなる。すべての地方自治体が有望なホテル用地を有しているわけではないが、外資系高級ホテルを誘致することはインバウンド集客に寄与し、観光地としての価値を押し上げることにも繋がる。街づくりの観点からもホテル誘致の可能性を模索する地方自治体はこれまで以上に増えていきそうだ。

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