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海外進出を目指す日系サービス産業が忘れてはならない注意点

少子高齢化の日本から、経済発展が著しいアジア太平洋地域へ。日本のサービス産業はより大きなビジネスチャンスを掴もうと海外進出に目を向け始めた。しかし、進出先国の経済発展に寄与する製造業とは異なり、自国産業と競合となりえるサービス産業には厳しい規制が存在する。日系サービス産業が海外進出する際の注意点を導き出した。

3月 05, 2019

海外進出で急成長を遂げた眼鏡小売チェーン・オンデーズ

眼鏡の小売りチェーン店を展開するオンデーズは海外進出に成功した日系サービス産業の好例だ。オンデーズ 代表取締役社長 田中修治氏は「海外進出するきっかけはSCビジネスフェアでの出会い」と振り返る。6年前のSCビジネスフェアに出展していたシンガポールの大手デベロッパーであるキャピタランドからコンタクトがあり、シンガポールへ海外1号店を出店する足掛かりとなった。

オンデーズの店舗数は300店舗目前に迫る(2019年1月末時点)。売上高は約200億円を見込み、海外事業が国内事業を上回っている。2008年当時の売上高が約20億円程度であり、10年間で約10倍に成長したことになるのだが、事業規模が急拡大したのは2014年頃から。海外進出に注力し営業店舗を一気に拡大させたのである。田中氏は「海外は市場が大きいので、一度チャンスをつかむと日本では考えられないような成長のレバレッジが効くことを体感した」と述べている。2012年に海外1号店をシンガポールに開業。その後、マレーシアやベトナム、台湾、フィリピン、香港等、12カ国に進出し、海外の店舗数は約180にのぼる。今後2025年までに1000店舗の出店計画を打ち出している。田中氏は「当社のような中小企業でもマーケットサイズを広げることで、かなり大きな計画を打ち出せるようになった」と、海外進出のメリットを語っている。

外国人の早期雇用が成功の鍵に- 日本サービス業の海外進出

オンデーズが海外進出に成功した理由は大きく2つある。1つは、同社が展開するビジネスモデル「ファストファッションとしての眼鏡販売」が海外ではブルーオーシャンであったこと。もう1つは、2010年頃から先んじて外国人スタッフを積極的に雇用し、海外での店舗運営が可能な人材がすでに確保できていたことが挙げられる。また、現地滞在の日本人とは付き合わず、現地コミュニティとの交流を重視し、現地顧客の獲得に繋げたことや、英語の社内公用語化を禁止し、英語力取得に要するリソースを自分の専門職務に集中できるようにしたことも海外進出に成功した要因だという。

現地産業と競合するため様々な規制がある- 日本サービス業の海外進出

オンデーズは海外進出に成功したことを機に急成長を遂げたが、すべての進出企業にバラ色の未来が待っているとは限らない。当然失敗するケースも少なくないのである。そもそも大規模な雇用を生み出す等、現地経済に好影響を及ぼす製造業とは異なり、自国産業と競合となり得るサービス産業は進出先国の経済にマイナスとなる可能性がある。特に新興国では自国産業保護を目的に外資の進出規制が厳しく、アジア諸国に進出する場合には、何らかの障害が存在するのが大前提であることは肝に銘じておくべきだろう。

商習慣、ニーズを掴む情報収取のポイント- 日本サービス業の海外進出

中小・中堅の日系サービス産業(一般消費者に対面でサービスを提供する小売業、外食産業等)の海外出店を積極的にサポートしている日本貿易振興機構(JETRO) サービス産業部 主幹 馬場 雄一氏は「国・業種によって自社サービスの提供がどの程度可能か大きく異なるため、出店候補先国を絞り込む上でも『情報収集』が最も重要」と強調する。

中でも「市場情報・規制情報・パートナー情報」を調査することは必要不可欠だ、例えば宗教には「食のタブー」が存在し、当該食材を扱う飲食店にとって市場性は著しく限定されることは自明の理だ。また、現地法律で進出可能な業種が制限され、外資規制による投資可能性も大きく異なる。馬場氏によると「例えば理美容業の場合、タイでは外国人自らハサミをもってヘアカットすることができない」ため、日本人が活躍できる場は限られてくるといった具合だ。そして、店舗の運営・実行可能性について有力な現地パートナーが存在するかを判断しなくてはならない。現地店舗の運営については100%出資で現地子会社を設立し、直接店舗運営を行う形態もあるが、アジア各国へ進出する場合、現地企業と合弁会社を設立するケース、フランチャイズ契約(越境型、現地FC本部設置型など)、または間接的にコンサルティング企業形態や業務委託・提携による進出まで幅広い。

「名義借り」は絶対に避ける- 日本サービス業の海外進出

こうした中、馬場氏は「現地企業に『名義借り』するパターンは絶対に避けるべき」だと力を込める。脱法行為となるため、資金提供に際して契約が結ばれないケースが多くみられる。現地パートナー企業に裏切られ、すべての資産を奪われることがあるためだ。仮に裁判所へ訴えても回収の見込みがない。馬場氏は「情報収集は先入観で見るのではなく、現地を実際に訪れ、五感で実地検分することが重要」と指摘する。

日本人の常識を捨てる- 日本サービス業の海外進出

進出国を絞り込んだ後、事業計画を策定することになるが、馬場氏によると「日本でのビジネスモデルがそのまま使えないことが多いことを、あらかじめ認識して事業計画を立てるべき」だという。例えば、店舗運営において一般的に職務規定が定められている従業員は担当業務専任となり、担当業務ごとに雇用しなければならない。また、魅力的な給与を求めて転職を頻繁に行う傾向が強く、国によっては家族優先で残業を嫌がるといった現地ならではの国民性も無視できない。馬場氏は「日本人の常識で捉えるのではなく、誰が見ても理解できる運用プロセス・手順・役割分担が必要。マニュアル化・見える化し、現地法令・商習慣・国民性などを取り入れることが肝要だ」と述べている。

また、どのような進出形態であっても撤退基準を事前に設定しておくことが重要だ。予想以上に膨大な運営コストがかかる等の予期せぬ事態が起こり、赤字続きでも撤退できない状況に陥る可能性もある。また、合弁企業を設立した現地パートナー企業から事業拡張のための増資を求められた場合、出資比率を維持するための増資についていけない場合は黒字撤退となるが、会社の精算や出資分の譲渡、買取について合弁契約の中で条件等を決めておくべきだろう。このように撤退に係るリスク回避策を契約書に盛り込んでおくことも忘れてはならない。

※本記事は「SCビジネスフェア2019」(主催:日本ショッピングセンター協会 2019年1月23日-25日開催)で実施された「海外出店に関するサポートセミナー」の講演内容を再構成しました。

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