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アジア訪日客増加で福岡ホテルマーケット沸騰

九州最大の都市にして、日本観光におけるアジアの玄関口…今、国内外の投資家は福岡に惹きつけられている。中でも注目を集めているのは訪日観光客が追い風となる福岡ホテルマーケットだ。

2018年 07月 02日

訪日客をいかに誘致するか

日本のホテルが国内外投資家の注目を集めている。日本政府観光局(JNTO)が調査した「国内宿泊需要」を見るとその理由は一目瞭然だ。2008年-2017年の宿泊需要の推移は概ね右肩上がりを続けているが、2008年の外国人観光客の割合はわずか7.2%。それが2017年は16.9%に拡大しており、外国人観光客の増加がホテルパフォーマンスを下支えしていることがわかる。この流れは2018年も継続。その割合は2月現在で18.8%とさらに高まっているのだ。これは日本全体の話だが、福岡のホテルマーケットにおける訪日客の割合はおそらく20%後半まで伸長していると目されている。東京や大阪は30%半ば、京都に至っては40%が訪日客という時期もあり、ホテルの売上を伸ばすためには訪日客をいかにして誘致するかが鍵となる。

円高でも増加率10%超

訪日客全体の増加率も年々高まっている。JLLではJNTOの調査をもとに対前年比の月次インバウンド増加率を分析してみた。その結果、2014年までの増加率は30%程度だったが、2015年に入ると50%-60%を記録する月が相次いだ。理由は2104年に実施されたビザ緩和措置の影響だ。2016年になるとこの勢いは翳りが見えるようになるが、それでも増加率は恒常的に10%-20%。ちなみに増加率15%-20%のペースを維持すると「2020年にインバウンド4000万人」という観光庁が掲げた目標を達成することができる。順調に推移していることが窺える。

インバウンド急増の理由は前述したビザの緩和措置だけではない。ポイントとなるのは日本円と米ドルの為替変動傾向だ。JLLの調査では、円安傾向の時期はインバウンドの増加率が顕著となり、円高傾向になると少し落ち着いてくるという「ゆるい」相関関係を導き出すことができた。円高時は日本円で宿泊単価を上げると為替の影響と相まって訪日客にとっては宿泊費が非常に高く感じられる。ホテルの宿泊単価を値上げしにくいタイミングといえるのだ。反対に円安時は外国通貨が強く、ホテルの宿泊単価を上げても為替で値上げ分が相殺され、宿泊費を過度に値上げしたようには見えない。つまり円安時は海外から観光客が来やすく、円高時は来にくい環境となる。ただ、円高傾向の時期であってもインバウンドの増加率は2桁(10%以上)を維持しており、インバウンド需要の底堅さが窺える。

福岡シティホテルは苦戦?

ホテルのパフォーマンスはどうか。まずは東京におけるビジネスホテルのRevPAR(1日あたり販売可能客室数あたり客室売上)とシティホテルのRevPARの成長率を比較してみた。シティホテルのRevPARは30,000円程度でかつその成長率はビジネスホテルのそれを上回っている。ビジネスホテルの大多数の宿泊客は日本のビジネスマンだ。いわゆる宿泊出張需要が中心となるが、企業業績が回復する中でも多くの企業は出張旅費規程の上限額を据え置いている。日本のビジネスマン相手では宿泊単価は13,000円付近で天井を迎えつつあり、稼働率も90%付近でこれ以上の上昇が望めない。結果として宿泊単価と稼働率の積であるRevPARの成長がしにくくなっているのが現状だ。一方、予算に制約が少ないインバウンドを取り込みやすいシティホテルは宿泊単価の上昇を背景に継続的に成長している。

ところが、福岡のシティホテルの状況は大きく異なる。平均稼働率は約85%で推移しているものの宿泊単価が13,000円-14,000円程度で推移しており、東京と比べると低水準と言わざるを得ない。一方、福岡のビジネスホテルの平均稼働率は90%を超えており、客室不足によって宿泊単価が10,000円を超える。シティホテルとビジネスホテルの宿泊単価で格差が狭まっているのだ。この宿泊価格のレンジの低さ・狭さが福岡ホテルマーケットの弱点ともいえるだろう。先般、大名小学校跡地の再開発でザ・リッツ・カールトンの誘致が発表されたが、同ホテルが客室単価の最高価格をどこまで更新できるかに注目が集まっている。「卵が先か鶏が先か」の議論になるが、新しいシティホテルが供給されないため宿泊単価が上昇しないのか、それとも宿泊需要が弱含みのためシティホテルが開発されないのか。福岡のホテルマーケットを分析する上で非常に興味深いテーマといえる。

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