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「コンパクトシティ」が拓く大阪・関西の未来

2025年開催の大阪万博をはじめ、先般実施されたG20、IR招致など、景気浮揚に直結する各種イベントが目白押しの大阪が注目を集めている。人口200万人超を抱える大都市ながら二大商業地のキタ、ミナミがほど近く、回遊性に秀でた中心市街地が外国人観光客を惹き付ける。新しいコンパクトシティとして評価されつつある。

2019年 10月 28日

新たなコンパクトシティ像を発信する世界的なリーダーに

大阪・関西エリアはGDPで世界第7位、人口で世界16位を誇るなど、もとよりポテンシャルの高い市場であったが、国内ではとかく東京・首都圏と比較されることも多く、その実力が正当に評価されてきたかというと疑問が残るだろう。その大阪がいま、そのポテンシャルを存分に発揮してきている。効果的なまちづくりで、そこに住む人のみならず特に訪日観光客を惹き付けて離さない。それに伴い商業用不動産への需要はうなぎのぼりとなり全方位的に賃料が上昇。さらには万博の誘致決定や統合型リゾート(IR)の開発計画、「日本最後の一等地」と称れるうめきた2期開発など、大きな経済効果が見込める開発やイベントが目白押しだ。今後ますます実力をいかんなく発揮するであろう大阪の力の源を探る。

二大商業地キタ・ミナミが近接する優れた回遊性

大阪の街を語る上で外せないのが、200万人を超える人口を抱える都市としては他に例を見ない極めてコンパクトにまとまった街自身が挙げられよう。碁盤の目のように整然と整備された区画の上に「筋」と「通」という東西南北を貫く道路が網の目のように張り巡らされ、さらにその上下に地下鉄やバス路線が整備されることでさらなる利便性を高めている。これは古くは豊臣秀吉が大坂城を築城して以降、区画整理がなされ「天下の台所」として繁栄を見せたころにその基礎ができたとされる。

大阪中心部を見渡してみるとコンパクトにまとまっている街ならではの事象として、繁華街同士が極めて近接して存在することに気づく。梅田を中心とする「キタ」と、難波を中心とする「ミナミ」は大阪を代表する二大商業地であるが、この二つは地下鉄でわずか4駅、距離にして5㎞程度であり、歩こうと思えば歩ける距離でもある。それぞれ違った個性を持つ繁華街ながら、距離が近いゆえにキタとミナミには連続した繁華性がみられることから、この二つの商業地はあたかも一体化しているようにも見える。大阪市中心部の回遊性が高いといわれるゆえんであろう。

この回遊性こそが訪日観光客を惹き付けて離さない大きな魅力となっていることは想像に難くない。多くの訪日観光客は買い物や食事、観光が宿泊場所から短時間での移動ですんでしまう大阪を高く評価している。その証左が訪日観光客の訪問率である。2018年に訪日した観光客は史上初めて3,000万人を突破したが、そのうちの実に4割は大阪を訪問しているという。これは東京や北海道を上回り都道府県別では圧倒的な訪問率である。いまや大阪は東京のついでに立ち寄るところではなく、むしろ大阪が目的地となっていることのあらわれといえよう。その人気を支える一つの理由がこの「コンパクト」な街づくりであると考えられる。

街のコンパクトさが賃料上昇に寄与

こうしたコンパクト性は不動産開発にも影響を与えている。ここ最近、古くなったオフィスビルは訪日観光客の増加と職住近接を求める住宅需要を背景に、主にホテルと住宅へと姿を変えていっている。これによりオフィス床が純減となり、床不足の顕在化として表れている。その結果、かつて「夢の坪単価3万円」と言われていた大阪のAグレードオフィス賃料が大きく上昇、オフィスの価値自体が上昇しついにはその夢が実現する事例も多数報告されるようになっている。また中心部に居住者や観光客が集まることで商業テナントへの需要が高まり、心斎橋筋を中心とするリテール賃料もここ数年で大きく上昇している。特に訪日観光客の買い物需要を支えるドラッグストアなどは、現時点で最も賃料負担能力の高いテナントとしてすっかり定着している。

投資家が大阪に熱視線

こうした足元の好調さを背景に、大阪の商業用不動産に投資をするファンドなどの投資家は国内外問わず大きく増加している。ほんの数年前までは極端に投資機会が限られていた東京のいわば「代わり」という位置づけでしかなかった大阪の不動産市場だが、気づけば大きな賃料のアップサイドが見込める有望な市場として認識されるようになっているといえる。人気が高まるにつれて価格の上昇や利回りの低下などが顕著となり、一部では東京と変わらない利回りで取引されている物件もあるなど、大阪の不動産市場は投資家たちの熱い視線を集め続けている。

豊臣秀吉が基礎をつくり、近代日本の発展において飛躍的な発展を遂げるなかでも基礎が損なわれることがなくコンパクトシティとして現在に至る大阪は、今後大型の複合開発などを抱える。普遍的でありながらも時代の嗜好を巧みに取り入れながら、新しいコンパクトシティ像を世界に発信していくリーダーとして今後も君臨していくだろう。
(JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチ ディレクター 内藤 康二)

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