記事

国内観光の再開に明るい兆しを求めるホテル業界

新型コロナウイルス感染防止を目的に世界各地で実施されていたロックダウンが解消されつつあり、大打撃を受けた観光産業も再開の機運が高まっている。中でも注目を集めているのが国内観光だ。ホテルセクターの救世主として期待されている。

2020年 06月 19日
アジア各国では国内旅行が観光再開の起点に

2020 年5月、中国で毎年恒例となっている国内観光推奨キャンペーン開催10周年を祝った。しかし、今年の中国観光の日は、新型コロナウイルスの影響から奇妙で切実なトーンを帯びたものとなった。

数カ月にわたるロックダウンが解除された後に旅行を促すため、オンラインツアーや名産品のライブストリーミング、中国の旅行代理店Trip.comの会長が仮装して激安のホテル宿泊券を売り歩くといったPR活動が繰り広げられた。

こうした追加的な取り組みが行われたのは、もっともな理由がある。新型コロナウイルスの世界的大流行により観光がほぼ全面的に停止したことで、ホテル業界は回復への道のりの第一歩が国内旅行になると見込んでいるためだ。

アジア各国では国内旅行が観光再開の起点となることを示す兆しが現れている。中国文化観光部によれば、2020年5月の労働節連休の旅行件数は1億1,500万件に上った。一方、韓国の済州観光公社は5月初旬の連休中に合計19万人の観光客が済州島を訪れたと発表した。

JLL ホテルズ・アンド・ホスピタリティ・グループ インベストメントセールス・アジア シニアヴァイスプレジデント チャーリー・マッキルドウィーは「アジア各国でロックダウンが緩和され始める中、旅行を待ち望んでいた消費者が行動を起こし、同時に政府が国内旅行を推奨するという構図が見られ始めている」と説明する。

ホテルにとっての生命線

政府は観光の経済への貢献度を十分に理解しており、国内観光に出かけたい国民を支援する政策を発表している。観光が昨年の国民総生産の11%を占めたタイでは、政府が7月から国内観光客を誘致する計画を発表した。

世界の11カ国からの渡航が禁止された日本では、政府が割引券や宿泊、買い物、食事券などの配布により国内旅行費用を一日当たり約185米ドル肩代わりする予定だ。

このようなアジア太平洋地域全域における努力が「ホテル稼働率のある程度の回復につながる」とマッキルドウィーは考えている。

現在、複数の投資家やホテル運営会社の注目が従来は注目されていなかった地域、すなわち大規模な国内市場に対応したホットスポットへと転じられている。

一部に明るい兆し

沖縄県及び日本の観光庁によれば、2019年に沖縄列島へ訪れた観光客のうち、国内客が約73%を占め、国内旅行者の1人当たり平均宿泊費用は1泊11,270円で全都道府県中最高となった。

ビーチリゾートと火山で有名な韓国の済州島は2019年の来島者数は国内観光客が90%を占める。

JLL ホテルズ・アンド・ホスピタリティ・グループ ストラテジックアドバイザリー・アンド・アセットマネジメント シニアヴァイスプレジデント ジュリアーノ・エスポジートは「国内旅行の規制が解除されたら、人が集まるのはこうした場所と見ている」と述べ、航空会社が済州島へのフライトを増便しており、新型コロナウイルス以前に近い水準まで回復していると指摘した。

そして、大都市から容易に訪れることのできる中国の杭州やタイのパタヤなども、飛行機利用を避けたいと考える旅行者の注目を浴びる可能性がある。

エスポジートは「先日の労働節連休中、杭州には500万人近い観光客が訪れ、ホテルの平均稼働率は45%を超えた。一方、ホーチミン市はビジネスやレジャーに対する旺盛な国内需要の恩恵を受けており、2019年に同市を訪れた訪問客の79%がこれを目的としていた」と述べた。

ステイケーション国家

飛行機を使った国際旅行を巡るルールが不透明で、「トラベルバブル(近隣諸国による域内旅行)」などの新規計画が発展途上にある中、ほとんどの行楽客には休暇を自宅や近場で過ごすステイケーション市場が中心となる可能性が高い。

エスポジートは「ステイケーション市場は、うまくすればホテルセクターを低迷から救い出す可能性がある。連休や価格割引は旅行者をホテルへと惹きつけるだろう。しかし、ソーシャルディスタンスやその他の感染防止策がこうした需要にどのような影響を与えるかはまだ明らかになっていない」と述べている。

ホテルは価格割引や柔軟な対応、通常よりも先の日程の予約を受け付けるなど、国内観光客にアピールしている。マリオットは南アジアのホテルで大幅な割引を実施し、宿泊客に来年6月までの予約を認めている。

マッキルドウィーは「地域全体が有意義な回復に至るには国際旅行の回復が不可欠だが、より細かく市場を検証すると一部には明るい兆しが認められ、ユニークな投資機会を探す投資家や運営会社はこれらに注目するべきだ」と指摘する。

お問い合わせ