解説

不動産を大量採用兵器として活用する方法

なぜ就職希望者がベンチマークとしてオフィスを見ているのか。そして雇用主は人材採用を円滑に進めるための動機づけに注意を払わなければならない。

2017年 10月 05日

コンクリートのブルータリズム建築として有名なマルセイユの住宅プロジェクトであるシテ・ラデュースは、1947年に世界で最も早く心身の健康に関する施設を設計に組み入れた開発物件の1つとなった。これは主に、近代建築を生んだ進歩的建築家ル・コルビュジェの功績である。コルビュジェはその5原則で、近代建築は庭園、プロムナード、またはプールとして使用可能な平屋根を備えるべきであると提唱した。

60年後に目を向けると、グーグルの新しいロンドン・キャンパスがル・コルビュジェの原則を採用している。屋上にランニングトラックとプールを備えたテック系巨大企業の物件は、最も優秀な人材の誘致と定着を目的に設計された「大量採用兵器」なのである。

このような開発は人事と企業不動産(CRE)の機能統合を促進すると考えられ、いずれ両者は一つのチームとして運営されることになろう。求職者はこうした施設をベンチマークとみなし始め、あらゆる雇用主はいずれスタッフの採用やモチベーション維持の方法としてのこうした特典の活用により多くの考察を行うことになる。

より多くのビジネスリーダーが、人事とCREチームを統合した組織に興味を示している。バンコクのDTAC、カリフォルニア州メンローパークのアドビやフェイスブック、ブカレストのスカンスカ、その他のテック系企業が人材誘致に同様の戦術を使用している。しかし、不動産と人事チームがシームレスに協働できなければ、このようなプロジェクトは成功しない。CREチームだけでは、こうした施設は純粋なレクリエーション目的とみなされてしまい、求職者に認められることは難しいだろう。同様に、スタッフのエンゲージメント向上を任じられた人事チームは実務面で苦労する可能性がある。

両方の部署の幹部が目的を語り合って、初めて共通項が明らかになるのである。例えば、グーグルのロンドンにおけるプロジェクトを率先しているEMEA不動産及び建築担当ディレクター ジョー・バレット氏は施設畑出身だ。しかし、同社のオフィスや施設が「グーグルの文化形成の重要な構成要素である」と言及しており、人事の問題に触れている。

同様に、カリフォルニア州メンローパークでは、フェイスブック グローバル・ファシリティーズ・アンド・リアルエステート担当 ヴァイス・プレジデント ジョン・テナネス氏は「このキャンパスを本社と呼べるのは幸運だ」と語る。テナネス氏は1,500戸のマンションと生鮮食品店、オフィス等が含まれるフェイスブックのコーポレート・ビレッジ建設のプロジェクトリーダーである。同社は、通常の業務関係よりもはるかに深くスタッフを養うため、物理的な施設を活用している。

要するに、これらの2組織は人事と不動産のチームの目的を統一することで大きく躍進しているのである。アドビ・ヨーロッパのギャレット・イルグ社長は「従業員に十分なダウンタイムとネットワーキングの機会を提供したい」と考えを示している。

こうしたテック系の巨大企業並みのリソースを有する雇用主は少ないが、根本的な課題を認識して独自の戦略を策定することは可能だろう。

JLLの調査「ヒューマン・エクスペリエンスがもたらすワークプレイス」では、職場における生活の質がスタッフのエンゲージメントにどれだけ刺激を与えるかが示された。職場で有意義なエクスペリエンスを得られれば、従業員は相互の結びつきが強まり、組織やその目標に共感する可能性が高まる。そして、スタッフは職場における関係やエクスペリエンスを深めることに我々が考えていたよりもはるかに前向きなのである。同調査では従業員の大部分となる87%が、職業生活においてより個性を生かしたいと考えている。これは、スタッフの幸福感をワークプレイスの目標に定めるという考えに好意的な回答をした人の割合である。

人事とCREを融合させる経営陣は、モチベーションやエンゲージメントの専門家をより多く含む。ほとんどのケースでは、ランニングトラックが解決策となることはないだろう。しかし、ワークプレイスの設計を活用して組織が採用したい人材に刺激を与える方法をみつけることができるはずだ。

以下に、不動産をユニークなエクスペリエンス創造に活用するべきと考える4つの理由を示す。

突出:不動産は自社を企業群から突出させる優れた手段である

魅力:人材誘致はこの種の施設に投資する主な理由であり、人事と不動産のチームはこれを理解している

先進性:最も先進的な組織は、物理的スペースとその利用者の両方の面から事業の価値を訴求するため、不動産と人事を活用する

ヒューマン性:自社の従業員がフルフィルメント、エンゲージメント、エンパワーメントを満たすことは、エクスペリエンスを提供するために注意するべき重要な理由である

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