ダイナミックアーバンセンターの創出
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主な調査結果
出社と在宅を組み合わせたハイブリッド型勤務へのシフト、日によって不安定な人出、不動産の老朽化、新興地区との競合は、CBD(中心業務地区)の短期的見通しに影を落としている。
短期的な課題があるとはいえ、CBDはその強みをフルに生かして、オフィスへの過度な依存から脱却し、多目的ニーズに応える場所として住民、観光客、企業、投資を引きつけうる有利な地位にある。
CBDの大転換を成功させるうえで、官民両セクターのパートナーシップは不可欠であり、これが成長機会の最大化や、万人のニーズに応える活力ある都心づくりにつながる。
競争力維持のために自己改革を迫られるCBD
世界主要都市におけるどのCBDも商業用不動産によって占められ、オフィス勤務や出張の需要に大きく依存していたために、コロナ禍により大きな打撃を受けた。
それから3年、都市は大きな転換期を迎えている。人々の暮らしや仕事のあり方に構造的な変化が生じ、都市が抱える広範な課題への対応は待ったなしの状況にあるだけに、重大な変化がいつ訪れても不思議ではない。CBDは、オフィス需要が低迷し、通勤や旅行のパターンの変動が大きくなっている。また、多彩なアメニティ施設や高品質のオフィススペース、急拡大する人口を武器に頭角を現している新興サブマーケットとの競争も激化している。このため、CBDにはその魅力や競争力を維持するための自己改革が求められている。
CBDが直面する5つの課題
CBDが未来に的確に適応するには、オーナー、デベロッパー、行政を先手先手で巻き込んでいく必要がある。
新たなハイブリッド型のリモートワークの浸透、あらゆる用途の不動産の老朽化、新興または非伝統的サブマーケットとの競合、通勤時間の長さ、居住人口が少ないことによる賑わいの欠如が、CBDの短期的な見通しに影を落としている。
世界の多くの市場で、オフィス稼働率が少なくとも短期的にはコロナ禍前の水準を下回ったまま推移する見込みである。
1. ハイブリッド型の勤務形態への適応
JLLの「Workforce Preferences Barometer」調査によれば、オフィスワーカーのおよそ60%が柔軟な勤務形態を希望しており、現在、リモートワークの平均日数は週2.3日となっている。CBDはこうした新しいオフィス利用形態に適応し、ハイブリッド型勤務が定着している現実を受け入れる必要がある。
CBDがアクセスの良さを生かすうえで、既存インフラの改善が一助に
2. 多くの時間とコストを要する通勤がCBDの魅力低下を招く
従業員が絶えずワークライフバランスを見直す新しい働き方が広がる中、優先順位が変化し、今や生活の質が最も重要な検討事項になっている。オフィスワーカーの間では、通勤時間短縮の要望が強く、長時間通勤や高い交通費を強いられるCBDへの通勤は、もはや魅力が大きく薄れている。
人口や雇用の伸びを考えると、交通機関利用者数や人出がいずれはコロナ禍前の水準に戻ると見られるが、従来のサイクルよりもはるかに長くかかるものと思われる。
3. 不動産の陳腐化に対処し、不動産の脱炭素化への取り組みを加速
CBDでは、築年数の古い建物群が陳腐化の懸念をも引き起こしており、稼働率と資産価値の維持の両面で課題になっている。これは世界的な問題でもあるが、特に北米市場では第二次世界大戦後の過剰供給期に建築された建物の割合が大きいため、米国のオフィス空室率は20.2%に押し上げられた。これに対して、欧州は同7.6%、アジア太平洋は同14.7%となっている。
築年数の古い物件には、ますます厳格化するエネルギー効率規制への適合が必要になるなど、サステナビリティ要件も新たな課題となる。グローバル全体で2050年までに10億㎡超のオフィススペースの改築が必要となる。現在の改修実施率は年に全ストックのわずか1%にとどまっているが、グローバルなネットゼロ目標を達成するとすれば、改修実施率を現状の3倍相当の少なくとも3%〜3.5%に引き上げる必要がある。
新興サブマーケットと競争するうえで、CBDは複合用途特性を取り入れる必要がある。
パリなどの都市では、複合用途の開発を促すとともに、オフィスのみの開発にブレーキをかける新たな規制の導入が広がっている。
4. 新興サブマーケットとの競争激化
世界最大級の大都市で、活気ある新たな複合用途開発エリアが台頭し、多くの企業、居住者、投資の誘致に成功している。こうしたエリアは、急拡大を続けるクリエイティブ、テクノロジー、R&D系のクラスターの拠点になっていることから、投資家の関心が既存の確立された中心的サブマーケットから離れ始め、新興サブマーケットでのオフィス、集合住宅、ブティックホテル、商業施設などの新規開発に拍車がかかっている。
シカゴのフルトンマーケット、ロンドンのショーディッチやキングスクロス、ベルリンのメディアスプリー、東京の六本木など台頭するサブマーケットの存在に押されて、伝統的なCBDは自己改革に乗り出さざるを得なくなっている。既にいくつかのCBDは、急成長エリアに見られる複合用途対応、ヒューマンスケール、豊かなアメニティ施設といった特徴を積極的に取り込み始めている。
5. 不安定な需要基盤
従業員のオフィス復帰は都心部の賑わいを形成する一要素に過ぎない。オフィスのほか、ホスピタリティ、リテールの両セクターも需要の変化の波にされており、近年の人々の日常移動や旅行嗜好の変化に伴う影響を受けて、収入も不安定になっている。コロナ禍で抑圧されていた旅行需要が解放されている中にあっても、2023年のレジャー旅行はパンデミック前の水準を下回ると見通しである。
2030年代に成功を収めるCBDの条件とは
CBDの将来の可能性を解き放つためには、老朽化ビルの改修、利用目的の改善を図る用途転換、陳腐化不動産の再興が鍵を握る。
CBDは、主として仕事の場という位置付けから離れ、多彩なアメニティ施設や教育機関、文化施設へのアクセスに恵まれた交通網の中心という地の利を生かし、複合用途のニーズに応える場へと軸足を移すはずだ。官民のステークホルダーが協力して、ベストプラクティスの導入、政策立案の調整、インフラ改良、サステナビリティ投資の拡大に取り組むべきである。
産官学のパートナーシップによるエコシステムを構築し、これを成長機会の最大化や、万人のニーズに応える活力ある都心づくりにつなげる。都市は、サステナビリティを追求し、誰もが分け隔てなく参加・活躍できる未来をめざし、CBDの活性化、生活の質の向上、経済・環境・人口動態の課題への対応に向けて、変化を受け入れる必要がある。