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危機を通じた観光地経営と観光地の回復―新型コロナウィルスの経済学に基づく米国観光地への提案

適応力の時代へようこそ。世界が新型コロナウィルス危機を乗り切ろうと努力し、ウィルスがもたらす景気低迷という現実に備える中、観光地域づくり法人(DMO)やホスピタリティ業界は観光地、開発、コミュニティーのエンゲージメントに新たな視点を求められている。

2020年 04月 15日
米国観光地をいかに再建するか

世界中のホスピタリティ業界が新型コロナウィルスに直面してから、わずか1カ月程度で深刻な打撃を受けた。こうした状況下において、米国の観光名所を支えるDMOは厳しい現実に対応するため直ちに行動するべきだ。以下に今後観光地のリーダーが検討するべき11の行動をまとめた。

何から着手する?

財務状況の確認

米国ホスピタリティ業界の専門家であるジュリー・ハートは「予算の適応性が必要となる。当該財務年度の今後3カ月間の予算に対する影響を保守的に予想し、調整可能な項目を把握する。宿泊税が歳入源の場合には、来年度の予算作成時に驚かされることのないよう、時期予算サイクルの歳入額を予想する」ことが重要との認識を示す。戦略的な優先事項をより明確にするため、直ちに行われる意思決定に一貫性をもたせなければならない。

バーチャルを活用して対話を増やす

現実の観光案内所は提供できなくても、バーチャルを活用すれば必要な対話を維持できる。チームメンバーに地域の「ヒーロー」の話題を取り上げるよう促すべきである。こうした話題にはいつにも増して価値があり、回復期のモラル高揚に重要な役割を果たす。

マーケティングにブレーキをかけてブランドを守る

潜在的な旅行者に向けたマーケティングや旅行を促すメッセージは混乱の中で失われ、好意的に受け取られない可能性がある。世界の医療リーダーの推奨事項に配慮して、現状を支援し顧客やスタッフの安全性確保について訴える内容でないマーケティング活動は中止するべきだ。

継続的な活動

売上よりも関係が重要

顧客とのやりとりが難しくなっている営業や事業開発担当チームを支援する。顧客を大切に考えていることを電話で伝え、関係を維持するよう各チームに促す。顧客の話を聞き、状況や課題を語ってもらう。あらゆる顧客とスタッフの安全が最重要事項であることを考慮しつつ、事業はいずれ再開し、観光地は回復すると保証する。また、誰もが現状に影響を受けていることを理解し、直ちに必要なことがあれば対応すると伝える。今は取引よりも関係維持が重要な時である。

ステークホルダーを支える

助言を与えると同時に共感を示す。取引関係のある観光事業者こそが、DMOの主な存在意義である。そのニーズや方向性、次にとるべき措置の点と点を結び、新たな方法で関与する機会が生じている。例えば、多くのDMOはすでにソーシャルメディアの投稿やテークアウトの受け取り時の駐車違反取り締まり緩和、医療機関や公衆衛生機関へのデリバリー提供などで地元のレストランとつながっている。こうしたレストランに協力し、リソースを提供することで変化への適応を支援することができるだろう。

リソースについて再教育する

チームメンバーを再教育して州や地方公共団体の経済支援機関を通じた支援プログラムを理解させる。観光地が回復するにつれて、米国中小企業庁にプログラムや失業関連規制、事業支援の選択肢について相当な混乱が見込まれる。地元コミュニティーはこうしたプログラムについての疑問にDMOが答えることを期待している。DMOはこうしたプログラムへのアクセスや理解を得るためのリソースであることを、企業には確実に知ってもらえるようにしなければならない。より多くの選択肢が明らかになるに従って、それらを全ステークホルダーと継続的に共有する。

準備金取り崩しの承認を受ける

多くのDMOがすでに準備金を取崩し始めているが、まだこれを行っていないならば今がその時である。こうした資金の使途を慎重に検討することが、DMOの方向性を定める上で重要となる。業務継続という明らかな基本事項の他には、将来的なイベントへの資金確保、地元の失業者への福祉サービス、観光地開発への再投資といった検討項目が考えられる。

先を考える

意見を述べる

政府機関は懸命に対応している。DMOは地元コミュニティーのリーダーとして、専門知識を発揮するべき時である。収束に向けた選択肢やアイディアの提供が、今後数週間にわたって重要となる。計画を①景気回復、②集会再開、③準備の3つにまとめて現在と将来に備えることを推奨する。

景気回復

この危機が過ぎ去った後、事業を再建するにはどうすればよいか。短期的にホスピタリティ事業を牽引するアイディアを考えなければならない。2008年の金融危機時には、景気回復の努力はスポーツや趣味、コンサート、フェスティバルなどの予約に大きく集中し、徐々に長期滞在型休暇からより広域市場の訪問へと広がった。今回の景気後退からの回復はこれとは大きく異なる様相を呈する可能性が高く、市民の旅行や集会に対する心情と購買力が決め手となるだろう。

集会再開

景気回復後に将来的な集会を促すために何ができるか。強制的なソーシャルディスタンス戦略によって生じた距離感を埋める方法を考える。人は本質的に集うことを好むが、新型コロナウィルスの拡散が続く可能性もある。心情を変化させるだけでなく、危機が過ぎ去れば市民を教育し、安心させなければならない。

準備

将来発生するウィルス問題への政府や公衆衛生の対応は明確に変化するだろう。将来的には疫病の世界的大流行への対応として、封鎖や旅行制限がより一般的かつ即時実施されるようになると思われる。そうした事態が発生した際にDMOの業務を防衛しコミュニティーに貢献するため、影響を最小限に抑える方法を考える。

データから学ぶ

今後数週間は、データを分析し収束の行程を検証することが重要となる。調査対象やデータの選択肢は豊富にあり、DMOのリソースを検証して将来的なニーズを判断する絶好の機会である。コミュニティーの訪問者プロフィールを整理し、感染が収束し始めるのに歩調を合わせて活用可能な事業機会を取り込む。

人材の結集と接続

新型コロナウィルスの世界的な感染拡大以前には、多くのDMOが地元コミュニティーへの人材誘致・維持戦略を実行し、就職フェアや採用支援プログラムで観光業界の求人を支援していた。しかし、今後大規模な雇用不安が生ずる可能性があるため、DMOは選択肢の提供を求められている。例えば、コミュニティーの業務を短期的に無償のボランティア職とし、身につけた貴重なスキルを事業が成長した際に有償業務に活用するのである。地方公共団体や州の雇用支援プログラムと結びつけることで、コミュニティー全体で必要とされる役割を果たす選択肢を確保しつつ、価値あるサービスを提供することが可能になる。 

予期せぬ事態を予測する

戦略策定は、本質的に順応性を伴うべきである。戦略には適応性が必要とされる一方、戦術は厳格かつ規範的でなければならない。しかし戦術的な計画ほど、現時点における意義は小さい。今は戦略を修正し、適応させて今後18カ月間の即時的ニーズに対応するべき時である。月/週単位で管理可能な期間に区分する。では、どこから取りかかるべきか。以下のように計画をまとめることができよう。

タイミング

質問事項

第0-3週

地元企業コミュニティーは現状にどの程度影響されているか。

DMOはこの課題にどう対応しているか。

DMOはどのようにして地元コミュニティーへのサービス提供を継続しているか。

第4-6週

オフィス勤務を再開したら、業務運営をどのように再調整するか。

一部コミュニティーとの関係をどのように再構築するか。

調査結果やデータを使ってどのようにシナリオを構築しているか。

第7-8週

当初の景気回復策はどのようなものか。

調査結果からどのような新しい事業機会が明らかになったか。

第6-8週

当初の景気回復策に何を加えるか。

導入はどのように開始するか。

第8-16週

戦略の方向性や段階の調整にどの情報を利用するか。

戦略の方向性への他者の関与をどのようにして維持するか。

当初の集会再開策はどのようなものか。

第17-20週

どのような調整が必要か。

次回に備えるための計画はどのようなものか。

この危機は、マーケティングでは乗り越えられないと認めなければならない。顧客やステークホルダーそして率直に言えば我々自身も、差し迫った脅威が過ぎ去ったらソーシャルディスタンス戦略がもたらした懸念を払拭しなければならない。上記のステップが、今後の課題を乗り越えるための枠組みといえるだろう。

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