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コロナ禍で不動産サービス会社の「対応力」が試される

従前では想定できなかった巨大なリスクに直面した際、いかに対応するかが問われる。今回の新型コロナウイルスは不動産業界にとっても過去に例のない緊急事態となったが、一方で危機に対応する「変革の時」を迎えたともいえる。

2020年 05月 27日
JLL森井鑑定、不動産鑑定評価のニーズが増加

新型コロナ収束の気配がわずかであるが漂いつつも、引き続き予断を許さない状況が続く日本。多くの産業で事業活動は停滞しており、不動産業界も同様の事態に陥っている。そうした中、不動産サービス会社にはコロナ禍における「対応力」が試されようとしている。

新型コロナウイルス感染拡大が危惧され始めた2020年第1四半期、JLL森井鑑定のもとには不動産鑑定に関する相談が急増していた。

その理由の1つは不動産市場の変化を多くのクライアントが察知したためだ。直近、オフィスビル等の投資市場は価格が右肩上がりの上昇を継続していた。こうした場合、不動産鑑定ニーズは当然高まる。一方、リーマン・ショックに端を発した世界的金融危機が起こった価格下降局面の際にも鑑定ニーズが拡大した。この経験則をもとに今回のコロナ禍をリスクと捉える向きが不動産保有者側に広がっていることが推測される。

JLL森井鑑定 代表取締役社長 永野 誠は「不動産市場が上向きの場合、買い手である投資家が鑑定評価を取るケースが増えてくるが、直近はレンダーや一般事業会社からの依頼が多い印象がある」と述べている。

前者は融資している立場から物件の価値が落ちることを危惧し、鑑定評価の取り直しやデューデリジェンスを目的とする。後者は3月末に決算を迎えるにあたり、保有不動産に減損の可能性があることから鑑定評価を行うことが主な目的だ。キャップレートを含めて不動産相場全般の低下により物件価値の下落を予想する一部の企業が財務の健全性の観点から時価評価するために不動産鑑定評価を依頼しているようだ。

永野は「新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の事態によって、不動産市場の『不確実性』はこれまで以上に高まっている。不確実性が高まるほど不動産の評価に対して客観性が必要になるため、投資や評価替え等、あらゆる場面で不動産鑑定評価のニーズはこれまで以上に必要とされるだろう」と指摘する。

リモートワークでクライアントニーズに応える

一方、JLL森井鑑定に相談が急増したのは、フレキシブルな業務体制を構築していたことも大きな理由だ。オフィスに出社しなくても業務を継続できるリモートワーク体制を従前から確立していたことが奏功した。

機密性の高い鑑定評価に関する業務をリモートワークで実施するにはVPN(Virtual Private Network)を構築し、ネット環境のセキュリティ対策を万全にする必要がある。JLL森井鑑定の場合、在宅勤務でありながらオフィスにいるのと同等のネットワーク環境が整備され、実査を含めて迅速に対応することができたのだ。

コロナ禍で相談増える再生案件・M&Aにも対応

コロナ禍が深刻化していく中で、不動産鑑定のみならず企業の再生案件やM&Aに関する相談も出て来ているという。

ただ、不動産鑑定会社の専門分野はあくまでも不動産であり、不動産以外の資産「動産」の評価は門外漢であることが多い。決算時の減損評価にも通じるが、動産と不動産の高水準な評価をワンストップかつ迅速に対応できる会社は鑑定会社を含め、日本には事実上存在しないのが実情だ。評価作業を急いだ末に「とりあえず動産は簿価で計上する」といったケースもあり、正確な評価がなされていない場合もありえる。

これに対して、JLL森井鑑定では従前から「総合バリュエーション・カンパニー」を標ぼう。動産関連評価サービスの第一人者であるゴードン・ブラザーズと業務提携し、動産・不動産双方に対して高水準かつ総合的な鑑定に対応する体制づくりを進めていたことで、クライアントニーズに対応することに成功したのだ。

不動産サービス会社は「非接触・対面」に活路

このように新型コロナウイルス感染拡大という未曽有の事態に対して、不動産関連サービス会社の「対応力」を否が応にも試される状況となった。

前述したJLL森井鑑定のケースはその好例といえるが、特徴的なのはテクノロジーを駆使した「非接触・対面」で対応可能な各種サービスが続々と登場し、コロナ禍の中でもクライアントの要望に対応している点だ。下記がそれら対応力の一例となる。

  • オンライン内覧VRなどのテクノロジーを駆使し現地に行かずに入居候補物件の「見える化」が可能になる。JLL日本が提供するオンライン内覧サービスはウェブ上で外観・内観画像を360度視点で内覧できる。従前、紙資料で候補物件を選定し、現地内覧してから入居の可否を判断していたが、本システムによって意思決定が早くなり、かつ現地内覧による人と人の接触を減らすことが可能。
  • オフィス利用率調査:新型コロナウイルスの影響で今後はソーシャルディスタンスを重視し、オフィス空間のレイアウトが見直される可能性があるが、座席数や会議室の最適な数をどのように導き出すかが課題となる。従前、オフィスの座席率はアンケートや人の手で調査する他なかったが、各デスクにセンサーを設置することで、在席しているかどうかを絶え間なく計測し、オフィスの利用率を「見える化」することでオフィスレイアウトを最適化していくことが可能になる。非接触かつ詳細なデータを取得できる他、在席率だけでなくIoTセンサーで二酸化炭素濃度も計測でき、室内の換気が十分か可視化することができる。
  • 自動応答システム:物件確認の問い合わせ電話に対して従前は人が対応していたが、AIによって問い合わせに自動応答する。問い合わせ対応のためのオフィス出社を抑制でき、なおかつ問い合わせに対して迅速な応対が可能になる。

東日本大震災後、不動産においては耐震性確保やBCP計画の策定など、ビル側、テナント側双方で災害リスクに対する備えが一気に広がることになった。今回の新型コロナウイルスは震災に匹敵するほどのリスクを不動産業界に提示した。ウイルス感染という未曽有のリスクにどのような形で対応するのか、今後に注目していきたい。

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