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新型コロナウィルスが東南アジアのサプライチェーン変革を加速させる

グローバル企業が新たな市場に製造拠点を拡張しているが、新型コロナウィルスの感染拡大によって拠点分散が進み、東南アジアにおけるサプライチェーン変革の追い風になっている。

2020年 04月 15日
東南アジアがサプライチェーンの一大拠点に
製造拠点の新設が続くベトナム

新型コロナウィルス感染拡大により中国の工場が閉鎖された際にも、多くの大企業が生産減少に耐えられたのは、東南アジア等にも工場を開設していたためだ。

2019年頃から、複数のグローバル企業が米国向けの中国産輸出品に対する新関税を回避するためベトナムへの工場拡張に着手していた。価格上昇を受けて、今後さらに多くの企業が代替市場での生産を検討するようになるだろう。

米国国勢調査局のデータによれば、昨年ベトナムからの輸入が35.6%増加したのに対して、中国からの輸入は16.2%減少した。2020年のデータは新型コロナウィルスの影響を考慮しなくてはならないが、JLL東南アジア インダストリアル担当ヘッド スチュアート・ロスは製造業の中国から東南アジアへの移行は継続すると考えている。

「ウィルス感染の拡大と貿易摩擦は、中国政府がより価値の高いテクノロジー開発へと支援対象を変化させる中、中国から東南アジアへの製造業シフトがより顕著になるという長期的なトレンドを加速させる要因となっている」(ロス)

中国の製造業の賃金は今やベトナムの3倍超に達しており、家具製造のマンワー(敏華)や精密工業のフォックスコン、韓国の大手家電メーカーであるサムスン等の企業が製造拠点を中国からベトナムへと移している。

工場用地の価格も上昇

移転に対する関心の高まりは、そのままベトナムの工業用地の価格に反映されている。投資家が生産拠点のシフトに追随する中、2019年の地価上昇は2020年も継続する見通しだ。国際資本は現地デベロッパーとのパートナーシップや土地取得に大きな関心を寄せている。プライベートエクイティであるウォーバーグ・ピンカスはその先陣を切っており、2018年に国営工業デベロッパーと工場および物流施設開発を手掛ける合弁会社を設立した。

高付加価値産業の育成に注力する中国

一方、中国は高付加価値産業の育成に専念している。ソーラーパネル、5Gネットワーク、AI、および蓄電池製造の世界的リーダーとなっており、当局はこうした高付加価値、高収益事業の発展を重視している。

また、低付加価値の製造業は公害を発生させる可能性が高いが、中国は国内都市の環境改善を重視している。さらに、よりクリーンで拠点の集約が難しい製造業への移行で、長らく必要とされている宅地開発に向けて区画変更可能な土地も確保することができる。

ロスは「GLP等の工場および物流施設専門のデベロッパーはすでに中国のポートフォリオの一部をより高付加価値な用途で再開発している」と指摘する。

サプライチェーンの変化に注目

しかし、製造業のすべてをベトナムにアウトソースできるわけではない。中国の広大さ、膨大な労働力自体が代替え不能なものであり、中国の出稼ぎ工業労働者人口のみでもベトナムの人口を上回る。さらに、中国国内市場を対象とする製造業の比率も大きい。

また、中国労働者の技能レベルの高さも特長となる。だが新型コロナウィルス感染拡大を受けて長期的には韓国や台湾の製造業者が高付加価値製造業の一部を国内に呼び戻す可能性もある。世界規模で展開される企業のサプライチェーンがどのように変化するのか注目していきたい。

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