記事掲載:2020年8月11日 日本経済新聞 私見卓見「海外不動産『見える化』を」
2020年8月11日 日本経済新聞 私見卓見
海外不動産、「見える化」を
ジョーンズラングラサールIPS事業部長 高橋貴裕
新型コロナウイルスはビジネスの姿を大きく変えた。不動産管理の重要性も増している。
多くの外資系企業は賃借・所有不動産をグローバルに一元管理する体制を整えている。コロナ禍の初期段階からオフィスなどの使用状況を把握し、従業員の安全確保に向けた世界共通の基準づくりなどを進めていた。各地の成功事例を社内で共有し、コスト削減につなげた企業もあった。
こうした海外不動産の一元管理は、世界に拠点を持つ日本企業にとっても長年の課題となっている。本業の面では緊密な組織をつくる日本企業も、多くの国に散らばった不動産の管理となると手が回らないというケースが少なくない。言語も商慣行も異なり、管理は現地任せになりがちだ。
コロナの感染拡大で不動産戦略を見直した日本企業もあるが、欧米のグローバル企業におくれを取っている。過去30年ほどの間に、不動産コストの最適化を探るグローバル企業と、日本企業の差がはっきりしてきたと感じる。
まずは全拠点の不動産の契約・管理状況を「見える化」するといい。具体的には、各拠点の賃貸借契約書など契約内容のデータベース化だ。契約書は現地語や現地の商習慣をベースに作られている。データベース化には専門知識も必要だが、効果は大きい。全拠点を見渡せれば、多くの課題が見え、改善の手立ても考えられる。
本社と現地拠点とのコミュニケーションが今以上によくなり、組織のガバナンスも強化できる。不動産マネジメントでは、コスト管理だけでなく、収益力の低下や人材の流出といった問題にも早めに対処する必要がある。様々なリスクに迅速に対応することが、グローバル競争での成否に直結する。
日本も「withコロナ時代」に入り、企業は新たな働き方・オフィスのあり方を問われている。従業員の自宅やシェアオフィスを含む複数拠点を総合管理する必要に迫られている。不動産管理の巧拙が、強い企業体質をつくれるかどうかの分岐点になる。
東日本大震災は企業が国内の不動産管理を見直すきっかけとなった。コロナ禍を受け、日本企業には海外も含めた不動産の一元管理の重要性を意識してもらいたい。