JLL、アジア太平洋地域のフレキシブル・スペースを分析、アジアの総ストック 3年で150%増加

総合不動産サービス大手のJLLは、アジア太平洋地域におけるフレキシブル・スペース※1の現状を分析したレポート「フレキシブル・スペース:アジア太平洋地域における事業展望」の翻訳版を発表しました。

東京 2018年7月12日



本レポートは、アジア太平洋地域内の12都市※2における大規模かつ知名度の高い、国際的なコワーキングおよびサービス・オフィス運営会社を調査対象としています。


ハイライトは以下の通りです。

アジア太平洋地域でフレキシブル・スペースが急拡大

  • アジア太平洋地域のフレキシブル・スペースのストックは、2014年から2017年で年平均成長率35.7%を記録し、同期間での米国(25.7%)やヨーロッパ(21.6%)を大きく上回った。また、同地域の大手フレキシブル・スペース運営会社の数も倍以上に増加し、全般的なストックの床面積も同様となった。(図表1、2)


図表1:アジア太平洋地域のフレキシブル・スペース大手運営会社数の推移


 

図表2:アジア太平洋地域のフレキシブル・スペースのストック(賃貸可能面積)増加



  • コワーキングおよびサービス・オフィス運営会社を含めた大手フレキシブル・スペース運営会社が管理する総ストック量はアジア全体で2014年から2017年で150%増加し、オークランド、北京、ベンガルール、デリー、ソウル、上海で100%を超える成長率が記録された。


不動産賃貸市場にもたらす影響

  • 現時点では、大手フレキシブル・スペース運営会社が占有している床面積は対象市場におけるAグレードオフィスのストックの4%にも満たず、平均約2%にすぎないものの、2018年以降は増加が見込まれる。また、需要も増加し続けると予想され、2030年までに法人向け商業用不動産ポートフォリオの最大30%がフレキシブル・スペースで構成される可能性もある。


  • フレキシブル・スペースは、起業家やスタートアップ企業向けのプラットフォームとして始まったが、現在の主要ターゲットは法人へと移りつつあり、WeWork(ウィーワーク)を始めとする大手運営会社がAグレードオフィスの複数のフロアでより大規模なスペースを契約するようになっている。一方、ユーザー企業側は、コワーキング・スペースが示す可能性に大きな期待を寄せているものの、依然として試行段階に留まっている。


文化に基づくワークプレイスの在り方

  • 政府による支援や政策、階層的な企業文化、短期の契約期間、市場に力を持つ一部のビル所有者等、アジア太平洋地域の各市場がもつ文化的な要因が、フレキシブル・スペースの在り方に影響している。


今後の展開

  • フレキシブル・スペースに対する企業の需要は、短・中期的においては、若干増加すると見込まれる一方で、現時点では不動産ポートフォリオを大幅にフレキシブル・スペースに移管することに関心を示す企業は少ない。より企業ブランドや文化の維持、企業機密保護やITインフラのセキュリティ維持といったユーザーの需要を満たす環境づくりが必要となる。


  • ビル所有者とフレキシブル・スペース運営会社による合弁事業や管理契約がより一般的になると予想される。大手ビル所有者の一部も、フレキシブル・スペース商品の開発に動いており、所有する建物に付加価値を加え、変化するテナントのニーズに対応できるコア・スペースとフレキシブル・スペースの多様なポートフォリオを提供することが可能となる。


  • 法人の利用者は、ロケーションや既存の賃借している一般的オフィスに隣接したフレキシブル・スペースがもたらす敏捷性を高く評価していることから、デベロッパーが新規開発計画にフレキシブル・スペースを含めるケースが増えている。


  • 今後業界統合が続くと予想され、少数の大手コワーキングおよびサービス・オフィス運営会社に集約され、それら運営会社が様々なセグメントで共生すると予想される。


  • 運営会社は物理的スペースに加えて、一段と「サービス」としてのプラットフォームや、テクノロジー主導のソリューションおよびコミュニティを提供するようになっている。


図表3:都市別のフレキシブル・スペース浸透率※3



図表4:都市別のフレキシブル・スペースのストック(賃貸可能面積)推移



今後の重要な論点

  • 投資家は、フレキシブル・スペース運営会社の統合時期や、市場での今後の成長性は注視しておく必要がある。


  • テナントは、自社に相応しいフレキシブル・スペースのモデルの検討、従業員や自社の業績への影響について引き続き考慮することが求められる。


  • ビル所有者は、フレキシブル・スペースが与える市場への影響、またテナントとの関係に対して引き続き考察していく必要がある。 


※1 フレキシブル・スペース:サービス・オフィスやコワーキング・スペース等。インキュベーターやアクセラレーターのスペース、法人の社内コワーキング・スペースは除外

※2 調査対象都市:東京、ソウル、北京、上海、香港、シンガポール、デリー、ムンバイ、ベンガルール、シドニー、メルボルン、オークランド

※3 浸透率:Aグレードオフィスのストックとの比較。