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ABWを取り入れたオフィスが求められる理由とは?

ワークプレイスの在り方の変化に伴い、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)のオフィスを採用し、リモートワークと併用するというニューノーマルなワークスタイルが注目されている。新しい生活様式により、自分が働きたい場所や環境を選べるABW型オフィスの導入はさらに加速した。実際、ABW型オフィスはヒトの働き方にどのように影響するのだろうか?従来のオフィスとの違いや効果について解説する。

2020年 09月 09日

ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の考え方

ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)は1990年代にオランダの企業Veldhoen+Companyによって生み出されたワークスタイルの考え方で、「働くヒトを中心にした考え方で、仕事に応じて生産性を高めながら、自分で働く場所やスタイルを選び取り組んでいくこと」と定義 されている。決まった時間と場所で仕事を行うという従来の考え方と違い、働くヒトに選択の自由を与え、自分に合ったワークスタイルでインスピレーションを得ながら生産性を高めていくことが可能となる。「個人(ヒト)を尊重した多様な働き方 」を実現するこのABWの考え方は、今後のワークスタイルに大きく影響してくるであろう。

ABW型オフィスと従来のオフィスの違いとは?

個を重視するABWの考え方を基盤に、戦略的にオフィスを構築するケースも見られる

ABW型オフィスと従来のオフィスとの大きな違いは、「選択の自由」にある。日本企業の従来のオフィスといえば、従業員の決まった固定席を一カ所にまとめ、決まった時間に決まった場所で共に働くことが求められていた。それに対してABW型オフィスは働くヒトを中心にデザインされているため、その日の気分や業務内容に合わせて働く場所を選択することが可能となる。典型的なデスク以外にも、一人で集中して作業を行うための個人用のブースや、カジュアルにミーティングを行うためのオープンスペースなど、ヒトが求めるそれぞれのワークスタイルに応じ場所が作られているのだ。ABW型オフィスと従来のオフィス、どちらも生産性を向上させることを第一に置いているが、ABW型オフィスは個人を中心に考え、働く場所の選択肢が与えられるため、より自分らしく働くことができる のである。

また、「働く場所」の役割が大きかった従来のオフィスに比べ、ABW型オフィスは従業員という個人のウェルネスやウェルビーイングを実現するという企業戦略の意図も含まれている。背景として、昨今のSDGsやESGへの対応や優秀な人材確保が喫緊の課題とされる中、個を重視するABWの考え方を基盤に、戦略的にオフィスを構築するケースも見られるようになったことが挙げられる。社会的な背景によりオフィスという場所の価値が変化している今、従業員の働き方だけでなく生き方を含む総体的な役割を担うABW型のオフィスは、今後さらに様々な形で取り入れられていくだろう。

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ABWによるヒトの働き方や企業全体への効果

ハイブリッド型の働き方をオフィス掛け合わせるために「ヒトを中心として、働く場所やスタイルを柔軟に選択できる」というABWの考え方が重要

アフターコロナを見据えたハイブリッドな働き方の実現

ABWの考え方は、リモートワークとオフィス出社を合わせたハイブリッド型の働き方を実現するという、アフターコロナのオフィス戦略に欠かせない要素を持ち合わせている。JLLが国内企業の経営者層に向けて実施したアンケートでは、リモートワークの効果について「業務効果がより高いと考える」という回答が34.4%、「非効率である」という回答が32%であった。また、今後の望ましいオフィス出社率を問う質問では、「週1~3日が好ましい」の回答が全体の約7割を占めるという結果となった。これらの調査データから、コロナ禍での働き方を模索する中で、リモートワークとオフィス出社のどちらかに偏るのではなく、双方の要素を取り入れたハイブリッド型を採用する企業が増えてくる可能性があると予想できる。ハイブリッド型の働き方をオフィス掛け合わせるために「ヒトを中心として、働く場所やスタイルを柔軟に選択できる」というABWの考え方が重要となるのではないだろうか。ABW型オフィスは近い未来の働き方を導く可能性を担っているのだ。

ABWの概念を基盤としたウェルネス・ウェルビーイング構築による企業価値の向上

個を尊重し、柔軟な働き方の実現だけでなく、従業員の健康を考えたオフィス構築は、企業の価値向上に直結する。ESG不動産投資が盛んになっている中、働きやすい環境の要素であるウェルネスやウェルビーイングを取り入れつつ、ABWの考えに沿ったオフィス改革は、投資家だけなく、優秀な人材に対してイメージを向上することができる。ABWは幅広い目的に対応できる概念であるからこそ、戦略的に活用することで得られる効果は大きい。

リアルコミュニケーションで創出されるイノベーション

選択の自由により、従来のオフィスでは生まれにくかったリアルコミュニケーションの機会も増える。島型固定のオフィスだと席の近い従業員とコミュニケーションを取りながら仕事をすることは可能だが、幅広いコミュニケーションの機会は限られてしまう。場所を自由に選べるABW型オフィスは、部署外の従業員との偶発的な会話など、幅広いコミュニケーション機会が増えるだけでなく、オープンスペースでのカジュアルなコミュニケーションにより普段では思いつかなかったアイディアが生まれるなど、リアルコミュニケーションによるイノベーション活性化にも繋がってくるのである。

多様な働き方の受け入れによる従業員の満足度向上

ABWの考え方を採用したワークスタイルは多様な人材を受け入れることができる。ABWは場所だけでなく時間の選択も自由に選べるため、子育てや介護と仕事の両立など多様な働き方を受け入れることができ、人材不足における様々な問題を解決し、ワークスタイル変革にも直結する 。柔軟かつ自由に働き方を選べるABWの考え方は、ヒト中心の視点であるため、従業員の満足度向上という成果にも繋がりやすい。

ABWの考え方を取り入れたオフィスレイアウト・デザイン

イノベーション創発のためのコラボレーションスペース

働く場所や環境を選べるABW型のオフィスのレイアウト・デザインはイノベーション創発を促進することを念頭に置いている。気軽に打ち合わせができる社内カフェスペースや共用スペースなど多様性のあるスペースが例として挙げられるが、このようなコラボレーションスペースはリアルなコミュニケーションが生まれ、さらにはイノベーションの創発を促す。ABW型オフィスはヒト中心にした考え方だからこそ、ヒューマン・エクスペリエンスを向上させる本質的なものが根底にある。

ABWの考え方を取り入れたオフィス事例

企業戦略の1つであるオフィス改革はABWの概念が欠かせない要素となってきている

ヒト中心のコンセプトを基盤にABWオフィスを採用し、働き方改革を推進

従業員の帰属意識を高めるオフィスコンセプトを策定し、ABW型のオフィスを採用することで、組織内のコミュニケーションやイノベーションを創出した成功事例では、社内のエンゲージメント向上という結果が得られた。人材投資によるオフィス改革により従業員が意欲的に働く場所を提供することで、長期安定的に働いてもらうだけでなく、優秀な人材確保という働き方改革の推進に直結しているのだ。企業戦略の1つであるオフィス改革は、ABWの概念が欠かせない要素となってきているのではないだろうか。

部門横断型ワークプレイスを推進し、ビジネス目標を達成

大手外資系バイオ・医薬品企業 は世界のすべての業務拠点を従業員がオープンスペースで連携しながら仕事を進める働き方に則ったオフィスに転換することを目指しており、「日本のマーケットを速やかに成長させ、患者への製品提供を迅速化する」という重要なビジネス目標を掲げていた。しかし、当時のオフィスは高層ビル内の9フロアに分かれており、従業員同士がコミュニケーションできるような空間はないに等しかった。そこでビジネス目標を達成するために部門横断型のワークプレイス構築を推進することになる。オフィスフロア を集約させ、相互連携機能が強化、ミーティングやプレゼンテーション両方に対応する新しいカフェゾーンを設けることで、目的であったオープンスペースを実現。フロア集約により従業員が気軽に顔を合わせて話し合い、関係者をフロアに招いても様々な場所に容易に案内することができる環境になったのだ。このオフィス移転プロジェクトにより、コミュニケーションが深化し、日本マーケットの成長加速という効果創出にも繋がった。

働きたい場所や環境を選択できるABW型のオフィスは時代が求める働き方に適応しているからこそさらに浸透していくことが予想される。そして不確実性の時代を柔軟に生き抜くために欠かせないABWの考え方は、ヒトのワークスタイルに今後も大きく影響していくだろう。

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