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コワーキングによる新しい"場"の在り方

働く場の在り方やニーズが日々変化する中、ヒトは自分のペースで柔軟に働き、コミュニケーションが取りやすい場所を求めるようになった。現代の”働く場”を表すキーワードの1つとして挙げられる「コワーキング」から時代が求める新しい”場”の在り方を感じ取ることができる。今回は時代の象徴ともいえるコワーキングについて解説する。

2021年 01月 12日

働く場の在り方やニーズが日々変化する中、ヒトは自分のペースで柔軟に働き、コミュニケーションが取りやすい場所を求めるようになった。現代の”働く場”を表すキーワードの1つとして挙げられる「コワーキング」から時代が求める新しい”場”の在り方を感じ取ることができる。今回は時代の象徴ともいえるコワーキングについて解説する。
 

ヒトを軸に考えるコワーキングとは?

オープンスペースやイベントスペースを通じたカジュアルなコミュニケーションが発生しやすく、ネットワークの構築に役立つ

開かれたオープンなスペースを他者と共有しながらも、偶発的なコミュニケーションを通して情報や知識、そして知見等を交換し、様々な刺激を受けながらモチベーションの向上やアイデアやイノベーションが創発にも繋がるコワーキングスペース。新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、最近では郊外や地方エリア、ヒトの生活に密接した意外な場所へもコワーキングスペースが設置されるようになり、コワーキングという考え方とイメージも時代に沿って大きく変化してきていることがうかがえる。

コワーキングは、「共同で」という意味のCoと「仕事をする、働く」を意味するWorkingから成る単語であり、広義では特定のオフィスや事務所など固定された場所に通勤せず、流動的でゆるやかなコミュニティの中で働くワークスタイルを指す。

フリーランスや起業家・ノマドワーカーなどがその中心だが、近年では企業に所属しながらも場所にとらわれず働くコワーキングスタイルを選択する人も増えている

こと日本においては、働き方としてのコワーキングよりも「コワーキングスペース」という単語の方が認知度が高いのではないだろうか。

コワーキングスペースはフレキシブルオフィスの一種だが、他の形態のフレキシブルオフィスは単独で利用することが多いのに対し、コワーキングスペースは利用者同士とのコミュニケーションやコラボレーションを意識して運営されるケースが多く、オープンスペースやイベントスペースを通じたカジュアルなコミュニケーションが発生しやすく、ネットワークの構築に役立つのが特徴である。

コワーキングスペースの起源は2000年代のシリコンバレーで、孤立しがちな起業家たちのコミュニケーションを生み出す場として最初のコワーキングスペースが生まれたとされる。

その後アメリカの都市部やヨーロッパ各国へとコンセプトが広がり、日本でも2010年頃から小規模なコワーキングスペースが徐々に増えはじめ、2010年代後半には大手デペロッパーも相次いで供給を開始している。 

当初はアメリカ同様ユーザーの中心は個人事業主や起業家だったが、現在は企業の壁を超えたコミュニケーション向上や柔軟な働き方の実現を目指すスタートアップ企業から大企業まで、法人のコワーキングスペース利用ニーズが高まっている
 

コワーキング普及の背景

コワーキングというコンセプトが日本で普及し始めたのは、働き方改革の実現に向け、個人の働き方に適応した環境へ改善する機運が高まったタイミングだ。少子高齢化による人口減少社会において、従業員の生産性向上が喫緊の課題となっていた中、個人のライフスタイルに合わせ、柔軟な働き方を実現できるコワーキングやフレキシブルスペースのニーズが高まったことが要因の1つとして挙げられる。JLLが2019年5月に発表した調査レポート「ビジネスパフォーマンスを高める日本の企業不動産(CRE)戦略とは」内の「2018年と2020年にフレキシブルスペースがポートフォリオに占める割合」で、日本企業は2018年に14%、2020年には24%に拡大すると予想されており、この頃からコワーキングスペースやフレキシブルスペースの増加に対する期待が高かったことがうかがえる。従来の固定席で決まった時間に始業するスタイルではなく、個人のペースや気分に合わせて自由に席を選び、自分起点で業務を行うことが可能なコワーキングスペース。新型コロナウイルス感染拡大で激変する働き方など、時代のニーズが移り変わっている今、コワーキングというコンセプトは働く場所を語る上で欠かせない要素となっているのだ。

コワーキングとテレワークの違い

企業でオフィス形態の再定義を検討する立場の担当者にとって、コロナ禍で一気に世に浸透したテレワークやリモートワークと、コロナ禍以前から存在するコワーキングの違いを知っておく必要があるだろう。

厚生労働省の定義するテレワークとは、「情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)を活用した時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」をいう。

本拠地となるオフィスから離れた場所でICTを活用して働くという点では、テレワークとコワーキングの働き方は一部重なっている。

しかし「令和3年度テレワーク人口実態調査」の結果によると、従業員がテレワークの場所として希望するのは約84%が自宅であり、共同利用型オフィスは約9%にとどまっている。

企業がコミュニケーションの場としてのフレキシブルオフィスを検討するのであれば、選択肢をテレワークのみに限定すると、本来の目的を達成できない可能性があることにも留意したい。
 

コワーキングスペースとシェアオフィスの違い

コワーキングスペースとよく似た形態のオフィスに「シェアオフィス」がある。この2つの違いはどこにあるのだろうか。

まずはフレキシブルオフィスの主な5つの利用形態について整理しておきたい。

  1. サービスオフィス…必要な設備や機器を完備し、コンシェルジュが常駐。個室タイプのハイクラスなレンタルオフィス

  2. レンタルオフィス…一定程度の設備や機器を備え、主に利用する座席が固定される標準的なレンタルオフィス

  3. シェアオフィス…複数の企業や個人が1つのスペースを共有するオフィス

  4. コワーキングスペース…複数の企業や個人が1つのスペースを共有し、交流を促す内装やイベントが提供されるフリーアドレス型のオフィス

  5. サテライトオフィス…本社とは別の場所に設置する小規模なオフィス

このうち、シェアオフィスとコワーキングスペースは利用形態がほぼ同じだが、コワーキングスペースには多業種や多様な人との交流を促進する仕組みがあることが大きな特徴で、シェアオフィスと比較してより協働やコラボレーションが生まれやすいというメリットが期待できる。
 

時代の流れで変化する「場所」への価値観

「ヒトとの繋がり」という価値を改めて重要視し始めている

コワーキングのコンセプトの起点は”ヒト”であり、このような考え方に共感する人は増えてきているのではないだろうか。本拠地となるオフィスと働く場の分散化を促すコワーキングスペース、そして在宅勤務を掛け合わせたハイブリッドな働き方を取り入れている企業が増えてきている中、「ヒトとの繋がり」という価値を改めて重要視し始めているからだ。テクノロジーの発達があったからこそ実現できるハイブリッドな働き方により効率性は高まったが、逆に孤独を感じている従業員も少なくない。時代の進化から生まれたニーズに適うコワーキングは、バーチャルコワーキングというオンライン上でヒトと交流する場など、形を変えて進化しているが、「リアルな場所」に代わるものはない。便利さ故にヒト本来の要素を忘れてしまわぬよう、本質的な働き方を念頭に進化していくことがこれからの課題でもある。

コワーキングスペース活用のメリットとは?
1.リアルコミュニティの構築

コワーキングスペースで得られる出会いはリアルなコミュニティの構築へも繋がる。ヒトを起点にした考え方があるからこそコミュニティを重視したアクティビティを企画しているコワーキングスペースは多く、コロナ禍では感染防止拡大を踏まえ、オンラインコミュニティの実験にも取り組んでいるという。新型コロナウイルス感染拡大で変化した働き方により、リアルコミュニティの重要性が高まったからこそコワーキングスペース活用で得られるメリットと意義は大きくなってきている。

2. 長期的な企業経営面からのコスト最適化

外部貸しの共有スペースの活用は長期的な面でコスト最適化に寄与するケースもいくつかある。ハイブリッドな働き方の実現を目的にコワーキングスペースを利用することで、必要な座席数の確保、内装造作工事や原状回復工事が不要になること、賃貸借契約のように契約期間の縛りが緩くなるなど、コスト負担を軽減するというメリットが魅力だ。企業の経営戦略によって従業員の働き方を最適化していくのかは様々だが、コワーキング活用によるメリットも認識しておきたい。

3. 充実したインフラ整備の活用

オフィス形態を再構築するにあたってはいくつかの選択肢があるが、例えば従業員の自宅でテレワークを行う場合、各自のICT環境やデスク・会議スペースの確保といった執務環境が十分でなかったり、格差が生じてしまう可能性がある。

あるいは自社でサテライトオフィスを構築する場合、基本的な什器や通信環境、冷暖房といったインフラの整備に思わぬコストが発生することも想定される。

コワーキングスペースの利用によって、これらのインフラをはじめ、カフェスペースなど充実した設備がすぐに活用できるという利点がある。

コワーキングスペース活用のデメリットとは?

さまざまな利点のあるコワーキングスペースだが、以下のようなデメリットも存在する。利用にあたっては、状況に即して対処していく必要がある。

1.時に集中しにくいスペース

不特定多数の人が出入りし、会話が生まれるのはコワーキングスペースの良い点だが、ときに騒がしく感じたり、集中できない可能性もある。必要に応じて個室やブースが使用できるコワーキングスペースを選択するべきだろう。

2. 作業スペースの制限

フリーアドレス制のコワーキングスペースでは、希望の席やブースが埋まっていてスムーズに執務が始められないケースも想定される。席やスペースがWEBで予約できたり、混雑状況がリアルタイムに確認できるサービスを提供しているコワーキングスペースも存在する。

3. セキュリティ

多くのコワーキングスペースでは基本的なインターネットセキュリティは整っているが、離席時の盗難やPC画面を見られるリスクなど、人為的なセキュリティに関しては利用者個人に依存するため、事前研修などをしっかりと行う必要がある。
 

コワーキングスペース市場の現状

コワーキングスペースを含むフレキシブルオフィス市場を、パンデミック以前・コロナ禍・アフターコロナの視点でそれぞれ捉えてみると、社会情勢を反映した市場の広がりが見て取れる。

東京オフィス市場のコワーキングスペース

日本のオフィス市場を牽引する東京でのコワーキングスペースの需要と供給は、世界的に大きなシェアを誇るコワーキング・オペレーターのWeWorkが2018に日本市場に参入したことを契機に急拡大し、それまでのサービスオフィス中心だった床面積が逆転。

一方、WeWorkの日本進出前から三井不動産やNTT都市開発といった大手デベロッパーも相次いでコワーキングスペース事業に参入、ビルのワンフロアなど大規模なコワーキングスペースを展開する。

JLLが分析を行った2022年第2四半期の市場分析レポートによれば2022年第1四半期末時点で、東京都心5区におけるフレキシブルオフィスの総貸床面積は417,490㎡であり、2020年第1四半期末と比較して2倍以上に拡大した。

中でもコミュニティ指向のコワーキングオフィスが市場を牽引しており、現在では東京都心5区のフレキシブルオフィス市場の65%を占めるまでに拡大している。

東京都心5区におけるフレキシブルオフィスの現況(2022年3月末現在)
項目 サービスオフィス コワーキングオフィス
市場参入年 2000年以前 2007年
東京都心5区における総面 積(総貸床面積(㎡) 144,578 277,912
拠点数 152 171
特徴 コンシェルジュや翻訳等の充実したサービスを提供。大半が個室型オフィスで構成、一部で共有スペースも見られる。 コミュニティ指向型で、特にミレニアル世代やスタートアップ企業に人気が高い。働き方改革関連法を機に急成長
1拠点あたりの面積(㎡) 951 1,596
コロナ禍の影響 継続的な需要により着実に供給拡大 大企業でのハイブリッドワーク普及により企業からの需要拡大。本社移転を行う企業も
1席当たりの月額利用料(円) 100,000-150,000円/個室席 50,000円/フリーアドレス席
出所:JLL「ジャパン プロパティ ダイジェスト2022年第2四半期」より一部抜粋
今後の展望

2019年に施行され日本政府が推進する「働き方改革」と2020年からのコロナ禍により、多くの企業では従来型のオフィス勤務・在宅勤務・フレキシブルオフィスの3形態を取り入れたハイブリッドな働き方へと大きく変容を遂げている。

中でもフレキシブルオフィスの一形態であるコワーキングスペースは、単に通勤の負担軽減や本社オフィスのスリム化といったコスト面の効果にとどまらず、従業員の生産性やモチベーションの向上にもつながる「ヒト」を軸としたコミュニケーション機能を提供する場として、今後もニーズが高まり続けることが予想される。

まとめ

オフィスという「場」の価値は時代と共に進化しており、コワーキングもその進化から生み出された1つの形でもある。従来の大切な部分を受け継ぎ、新しい考え方を合わせていくことが意義深く、ヒトの本質的な要素を最優先とすることで、内面的な観点からもバランスの取れた働き方が実現できるのではないだろうか。これからのコワーキングスペースの進化に期待したい。

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