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デジタルワークプレイスが拓くこれからの働き方

国の推進する働き方改革とコロナ禍は社会のDXを加速させ、企業においても「デジタルワークプレイス」の導入は避けて通れない時代となった。デジタルワークプレイスの定義や目的とビジネス上のメリット、課題と対策、ツールや導入事例などを紹介する。

2020年 11月 25日
デジタルワークプレイス(DWP)とは?

そもそもデジタルワークプレイスとは何なのか?会議やチャット、ファイル共有、タスク管理など日々の業務をデジタル上のプラットフォームに集約して、仕事を行うという考え方だ。毎日決まった時間にオフィスで顔を合わせて仕事を行うというスタイルとは異なり、時間や場所にとらわれずに働くことが可能になる。

デジタルワークプレイス導入の目的は大きく分けて次の2つだ。

  • 従業員の生産性向上…会議の資料作成や対面での商談・打ち合わせにかかっていた作業や移動時間が、デジタル化により効率化し生産性を高める

  • データの可視化によるコストやスペースの最適化…デジタル化により客観的・定量的データを可視化し共有することで、オフィスの使い方やスペースを最適化する

昨今トレンドにもなっている ABWを取り入れた働き方やオフィス はデジタルワークプレイスがあるからこそ実現できるのではないだろうか。急速に進む企業のDX化で、デジタルワークプレイスの可能性に注目が集まっている。

なお、デジタルワークプレイスと混同されやすい言葉として「テレワーク」や「リモートワーク」があるが、これらは在宅やサテライトオフィスといった個々の働き方や働く場所を指すのに対し、デジタルワークプレイスは出社やテレワークの有無によらず、会議や取引先との商談なども含めた総合的な「デジタル上の職場」を指すものとなる。

デジタルワークプレイスが注目される背景

ワークプレイスにおけるデジタル活用で遠隔での作業や会議、場所や時間に縛られない働き方が可能となり、多様な人材の雇用にも繋がった

働き方改革の推進

デジタルワークプレイスが注目されるようになったのは、2019年4月に施行された働き方改革関連法 が大きなきっかけとなっている。

厚生労働省が推進する働き方改革の主旨は「働く人々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で『選択』できるようにすること」であり、実現のためには、リモートワークやフレックスタイム勤務といった従業員の多様なニーズに対応できるワークプレイス構築が欠かせない。

国の意図に応じ、各企業は仕事の生産性向上と個人の多様なライフスタイルに適応した働き方を選択できる環境へと改善する取り組みに注力し始めた。ワークプレイスにおけるデジタル活用で遠隔での作業や会議、場所や時間に縛られない働き方が可能となり、多様な人材の雇用にも繋がった。

オフィスDX(デジタルトランスフォーメーション)の浸透

オフィスDXとは、経済産業省が定義するDX(デジタルトランスフォーメーション)の視点をワークプレイス構築に取り入れ、データとデジタル技術を活用して、オフィスにおける環境改善や業務効率化などを推進することを指す。

デジタルツールの活用による業務の自動化や効率化で人材不足の中でも生産性の向上が期待でき、ペーパーレス化やオフィス床の最適化によるコスト削減データドリブン経営への転換などオフィスDXのメリットは数多い。

ITやICT技術が企業に普及し始めたタイミングで新型コロナウイルスのパンデミックが起き、経済活動のデジタル化に拍車をかけたことでオフィスDXの必要性はますます高まり、デジタルワークプレイスは企業にとってより近い存在になってきている。

デジタルワークプレイスがもたらす効果
従業員の生産性向上

デジタルワークプレイスで働くことで得られる効果の1つに、従業員の生産性向上が挙げられる。従来の働き方では、社内会議に使う資料の作成から印刷までのプロセスに時間を要していたが、デジタルの活用によりそれらのプロセスにかかる時間が大幅に短縮される。資料だけでなく、対面での打ち合わせができないクライアントとの非対面型のデジタルな打ち合わせを可能にしたり、社内コミュニケーションツールの活用で、業務に関するチーム内のやり取りを効率よく行える。

従業員の多様な働き方を支援

近年の働き方改革の重要な柱の1つが、子育てや介護などを行う従業員の多様な働き方のニーズに応えることである。従業員のワークライフバランスを良好に保ち、人材の新規獲得や長期雇用の維持、会社へのロイヤリティや仕事のモチベーション向上などさまざまな効果が期待できる。

具体的には、コアオフィス以外でも業務が行えるよう、テレワークに加えて交通利便性の高いターミナル駅や居住エリアの近くにサテライトオフィスを設置するといったデジタルワークプレイス活用が挙げられる。

データの可視化によるコストやスペースの最適化

デジタルワークプレイスは、ヒトが見ることのできないデータを可視化し、コストやスペースの最適化の観点から企業経営をサポートすることができる。例えば、リモートワークによる従業員の働き方の変化によるオフィススペースの最適化が挙げられる。オフィススペースの使用率を目に見える具体的なデータでアウトプットし、そのデータからスペースをどのように最適化するのか等を判断し、リノベーションやコスト改善に繋げることが可能となる。デジタルワークプレイスは、今までヒトが不可能としてきたことを実現させ、最先端の技術を通してサポートしてくれるのだ。

企業価値の向上

日本では従来、企業の不動産価値向上を図るCRE(Corporate Real Estate)戦略においては、ハード面の短期的なコスト削減が重視される傾向が強かった。

しかし現在はオフィスを事業インフラと捉え、従業員の働きやすさ、生産性向上、ウェルビーイングといったHX(ヒューマンエクスペリエンス)を意識したリノベーションにより長期的な事業利益を目指すCRE戦略へと舵を切る企業が増えている。デジタルワークプレイスはその移行の手段として大きな役割を果たすだろう。

オフィス戦略を見直す

デジタルワークプレイスの課題と対策

デジタルワークプレイスのスムーズな活用にはいくつかの課題もある。現状と展望を対策とともに紹介する。

オフィスコミュニケーション

コロナ禍で日本はもちろん世界中で在宅勤務やリモートワークが行われた時期にJLLが実施した調査レポートでは、通勤と比較して在宅勤務の方が生産性が低いと感じる従業員が多かった。この理由として、自宅にオフィスと同等の執務環境が整っていないこともあるが、同僚や上司など人と人との適切なコミュニケーションが取れないことも大きかったと考えられる。完全にリモートにするのではなく、オフィスと在宅勤務やサテライトオフィスなどを組み合わせたハイブリッドワークを採用するといった対策が必要である。

セキュリティの確保

コロナ禍をきっかけに、新しい時代の働き方として注目を集めるハイブリッドワークだが、執務環境やコミュニケーションの低下といった問題についで懸念されるのが情報漏洩などのリスクである。各デバイスの物理的なセキュリティ対策は不可欠だが、ソフト面のセキュリティ対策として、資料やノートパソコンの置き忘れなどを事前に防ぐため、従業員の研修やガイドライン策定を行いより厳格なリテラシー向上に努める必要がある。

労務管理・評価制度の確立

デジタルワークプレイス環境で働く従業員の出社日や労働時間・勤務態度の把握については、従来の全員が終日本社オフィスに出勤するスタイルと同じ方法では管理しきれない面が出てくる。ハイブリッドワークに適した勤怠管理システムや査定評価基準へとアップデートする必要がある。

環境整備への投資

将来的な企業ブランディングや投資家からの評価、人材採用や確保のためには、デジタルワークプレイスを実現する環境整備にも十分な投資を行うべきだろう。具体的には、ハイブリッドワークの現場となる自宅やサテライトオフィスでのIT機器やソフトウェアの導入、長時間の業務でも疲れにくいデスクの配備、クラウドシステムの利用、VPNなどセキュリティを高める通信手段の構築などが挙げられる。
 

ワークプレイスに導入されているデジタルツール
 


デジタルワークプレイスの運用に役立つツールとメリット・効果的な活用方法を紹介する。

オフィススペース利用の最適化を図る「IoTアナリティクス」

デジタルワークプレイスで使用されているツールで注目を集めているのが、IoTセンサーを用い、従業員の着席状況や会議室の利用率などスペース環境のデータを集積し、分析することでスペースの最適化を図る「IoTアナリティクス 」だ。人感・温度センサーにより各座席の利用率ヒートマップや座席の温度をリアルタイムで確認できるなど、データによって状況を把握、次にどのようなスペース最適化が必要なのか?という課題に対し、より明確に解決策を見出すことが可能となるツールだ。テレワークの急速な普及によりスペースの最適化が求められる今、IoTアナリティクスを活用し、データの可視化で改善に繋げている企業も少なくない。デジタルワークプレイスに欠かせないツールは、働き方だけでなく、企業経営という重要な要素の最適化にも大きく貢献している。

デジタルワークプレイスを支えるその他のテクノロジー

デジタルワークプレイスを順調に運用するためには、他にもさまざまなテクニカルなサポートが存在する。従業員が求めているのは、まずはPC(ノート型)や信頼度のあるWi-Fi設備などの基本パッケージだ。続いてリモートワークやオフィス内でのコラボレーション支援、オフィス設備やウェルビーイングに関するデータへのアクセスなども挙げられる。

また、実際に導入されているテクノロジーを割合別に見ていくと、もっとも多いのはリモートワークを円滑に進めるリモートワーク・テクノロジー(47%)、続いてオフィス内での連携がスムーズに行えるコラボレーション・テクノロジー(40%)、ワークプレイス・アプリ(36%)、CREデータ保管用のデータ倉庫またはデータベース(31%)、コワーキングおよびフレキシブルスペース管理ソフトウエア(29%)、物理的接触最小化技術(28%)という結果になっている。
 

導入順位トップのテクノロジー 割合
リモートワーク・テクノロジー 47%
オフィス内のコラボレーション 40%
ワークプレイス・アプリ 36%
CREデータ保管用のデータ倉庫
またはデータベース
31%
コワーキングおよびフレキシブルスペース管理ソフトウエア 29%
物理的接触最小化技術 28%


出所:JLL 2022年版Future of Work(働き方の未来)グローバル調査、2022年7月。13市場の1,095名の意思決定担当者

ワークプレイスに欠かせないテクノロジーを詳しく見る

デジタルワークプレイス導入事例

今後の企業の方向性の1つとして欠かせないデジタルワークプレイスを一足早く導入している企業の事例を紹介する。

アサヒグループホールディングス - 新しい働き方「リモートスタイル」推進事例

飲料・食品メーカー大手のアサヒグループホールディングスは、コロナ禍での感染拡大防止措置として2020年8月より事務・営業職を中心にリモートワークを導入。同時に新しい働き方として「リモートスタイル」を推進し、全国の営業拠点55カ所を26カ所へ統合集約、2022年2月には吾妻橋本社オフィスの全面改修を実現した。

限られた工期とオンライン中心のコミュニケーションを強いられ、従業員の間にも「座席がなくなるのでは」といった懸念が生じる中で、異なる働き方やオフィス使用方法のグループ各社が満足するオフィス設計が課題となっていたが、JLLのサポートにより標準デザインを策定、各拠点との連携や意見調整を行い、グループ間のシナジーを発揮する新たな働き方の実現に向けて全社的なワークプレイス改革を成功させた。

NTTデータビジネスシステムズ -本社 オフィス移転事例

日本屈指の専業ITサービスベンダー「NTTデータグループ」にて法人・ソリューション分野の中核を担う株式会社NTTデータビジネスシステムズは、2021年1月、7フロアに分離していた旧オフィスを統合集約する形で、池袋エリアの大規模複合ビル「Hazera池袋」のオフィス棟「Hareza Tower」30-32階へ新オフィスを開設した。

分散したオフィスのため社員間のコミュニケーションが低下、イノベーションが生まれにくくなっていたこと、築30年のビル躯体が利便性や意匠性等が時代にそぐわなくなっていたことなど、複数の課題を解決したうえ、費用も当初予算の4割減に成功した。

同社が得意とするICT設備環境の活用によって、受付や会議をクラウドへ移行しペーパーレス化を進めたほか、セキュリティや災害・感染対策にもすぐれたオフィスとなっている。

コロナ禍で大幅な計画の変更に直面したが、JLLは資材調達と設計変更調整などのプロジェクトマネジメントを支援し、スケジュール内に完工かつコスト削減に貢献した。
 

これからのデジタルワークプレイス

自社の課題とビジョンを明確にし、必要なテクノロジーの選択やプランニングを進めていくことが欠かせない

ヒト中心のデジタルワークプレイスが導くこれからの働き方

デジタルワークプレイスは生産性を向上させ、様々な課題を解決してきた。しかしその一方で「リアルなコミュニケーションが減った」などデジタル特有の課題も多く挙げられる。ワークプレイスはヒトが中心で成り立っているからこそ、効率性のみを求めてしまってもバランスが崩れてきてしまう。重要なのは、リアルなコミュニケーションというヒトとして欠かせない本質的な要素を大前提とした上で、デジタルワークプレイスでの働き方の進化をバランスよく考えることではないだろうか。

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デジタルワークプレイスの実現に向けて

デジタルワークプレイスの実現と運用においては、自社の課題とビジョンを明確にし、必要なテクノロジーの選択やプランニングを進めていくことが欠かせない。

社内でデジタルワークプレイス導入のためにリソースを大きく割けない場合は、豊富な実績と知識・調査データに基づく専門家の支援を受けるのも有効だ。

JLLでは、不動産テックの選定・導入支援、IoTを駆使したオフィス利用率の可視化と運営管理の効率化、不動産管理システムオフィスアプリ(IWMS)を活用したスマートオフィス化やワークプレイス改革、DX推進など、顧客の事業戦略を実現させるためのサービスを幅広く提供している。

これからのワークプレイス戦略とは?

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