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在宅勤務のメリットとデメリット、新しい時代のワークスタイルはどこまで定着した?

近年、世界的に労働環境は大きく変化し、日本においてもかつては限定的だった在宅勤務が一般的な形態の1つとなった。在宅勤務の有効性について様々な議論がなされているが、本記事では最新のデータや事例をもとに在宅勤務のメリットとデメリットを解説する。

2022年 07月 03日

在宅勤務の定義は?テレワークやリモートワークとの違い

在宅勤務は、リモートワークやテレワークと同義で使われることも少なくないが、厳密にはそれぞれ定義がやや異なっている。整理してみよう。
 

在宅勤務とテレワークの違い

在宅勤務とは、勤務先に所属しつつ、自宅を就業場所とする働き方

厚生労働省や総務省の定義するテレワークとは「情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)を活用した時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」とされる。

上記に当てはまる勤務形態は複数あり、大きく分けて次の3種類となる。

  • 在宅勤務
  • モバイルワーク
  • サテライトオフィス

つまり、在宅勤務はテレワークの一種と理解できる。

在宅勤務 モバイルワーク サテライトオフィスワーク
勤務先に所属しつつ、自宅を就業場所とする働き方 移動中の交通機関やカフェ・ホテル・顧客先などで就業する働き方 本拠地のオフィスから離れたワークスペースで就業する働き方(専用型と共用型がある)
在宅勤務とリモートワークの違い

「リモートワーク」の定義はテレワークと非常に近いが、テレワークに「ICTを活用した柔軟な働き方」という意味合いがあるのに対し、リモートワークは単にオフィス以外の場所で働くことを指す。

またテレワークが1970年代にアメリカで生まれ、日本政府や自治体などで公式に使われている用語であるのに対し、リモートワークは近年広く使われてはいるものの発祥時期や提唱者などは不明とされる。

オフィス以外=自宅で就業するという意味から、在宅勤務はリモートワークの一種でもあるといえる。

在宅勤務の5つのメリット

2020年からのコロナ禍で多くの企業が自宅で仕事をする「在宅勤務」制度を採用した。当初は一時的な措置という位置づけであったと思われるが、在宅勤務ならではのメリットを多くの就業者が実体験したことで、これからの新しい働き方として在宅勤務の存在感が高まり、選択肢のひとつとして定着した企業も少なくない。

在宅勤務の主なメリットは以下の5つとなる。

1. 社員の定着率の向上
2. 集中できる時間が増え、生産性が向上する
3. 通勤・賃料コストの削減
4. 遠方の人材も活用できる
5. 災害時のリスク分散が可能

1. 社員の定着率の向上

在宅勤務を導入すると従業員の定着率の向上に寄与するようだ。特にZ世代と呼ばれる若い就業者はワークライフバランスを重視する傾向が強い。彼らは粉骨砕身して高額給与を得るよりも、公私のバランスを取って暮らしたいという考え方が根強いとされる。彼らが就職・転職先を探す際に「在宅勤務の可否」を重視する傾向もみられつつある。

また、育児中の従業員にとっては不要になった通勤時間を仕事または子供と過ごす時間に充てることができ、育児と仕事の両立がしやすくなる。園や学校の長期休暇や学級閉鎖などでも仕事を休まずに済むのも大きなメリットだ。

ワークライフバランスやSDGsの意識が高い企業であるかどうか、在宅勤務の導入は1つの指針になるだろう。従業員は個々の事情を加味して柔軟な働き方を選択でき、企業へのエンゲージメントが向上する。ひいては社員の定着率の向上にも寄与すると考えられる。

2. 集中できる時間が増え、生産性が向上する

オフィス勤務では、来客や電話対応、急なミーティングなどで業務が中断されることも少なくない。在宅勤務中にはこういった外部の予測できない要因で業務の進捗が左右されることが少なく、集中して取り組めるため、生産性の向上が期待できる。

3. 通勤・賃料コストの削減

在宅勤務のメリットの1つに通勤コストの削減がある。以前の「全員出社」と比較すると交通費を削減できる他、通勤時間の削減、満員電車によるストレス緩和も期待できる。また、在宅勤務を導入することで、これまで賃借していたオフィスに余剰スペースが生じる。余った床面積を調整することができ、賃料コストを削減することができる。この削減分のコストはITやベースアップなどの再投資に活用する他、好立地かつハイスペックなオフィスへの移転費用に転嫁するなど、再投資の機会にもなる。

4. 遠方の人材も採用できる

完全な在宅勤務(フルリモートワーク)であれば、通勤が不要になり、地方都市や海外など、遠方の人材も採用することができる。職種にもよるが、事務系、IT系、Web系などでは出勤が全く不要な業務も含まれており、実際にコロナ以前から地方都市の優秀な人材を採用するために在宅勤務制度を拡充したベンチャー企業も存在する。

5. 災害時のリスク分散が可能

一カ所のオフィスに全従業員が出勤する従来のスタイルでは、万が一災害などに見舞われた場合に復旧に時間がかかり、大規模災害では事業継続すら困難になりかねない。一方、在宅勤務で離れた場所にいた従業員や、在宅勤務のためにクラウドに保存していたデータなどは被害を免れる可能性があり、在宅勤務はリスク分散の手段の1つにもなり得る。
 

在宅勤務の5つのデメリット

一方、在宅勤務はメリットばかりではない。デメリットも存在する。主な4つのデメリットを紹介する。

  1. 仕事のオンとオフの切り替えが難しい
  2. セキュリティリスクの増大
  3. コミュニケーションが取りにくい
  4. 勤怠管理が複雑
  5. 人事評価が難しい
1. 仕事のオンとオフの切り替えが難しい

在宅勤務が拡大するにつれ顕在化してきた従業員の悩みとして、オンとオフの切り替えが難しく、さらにメール主体の連絡手段が主体となるため、業務時間外に上司から連絡が来るなど、業務の長時間化などが挙げられる。

2. セキュリティリスクの増大

在宅勤務の場合は、オフィスだけで仕事をしているよりも情報セキュリティ上のリスクが高まる傾向にある。オフィス勤務のみの場合、オフィス内のネットワークをファイアーウォールによって強固なセキュリティ性を確保できる。ファイアーウォールとは悪意のあるハッカーからの通信をシャットアウトし、社内に入れないようなシステムである。

しかし、社内ネットワークやクラウドサービスなどにアクセスするまでには必ずインターネットを介す在宅勤務では、高度なセキュリティシステムを確立しておかなければハッキングによるパスワードの傍受や成りすましなどの危険がある。在宅勤務を導入する際にはセキュリティ体制を見直す必要がある。

3. コミュニケーションが取りにくい

JLLが2021年7月に発表したオフィスワーカーへの調査レポートによると「在宅勤務で何らかの心理的負担を負っている」と回答したのは日本では38%、グローバルで49%となり、在宅勤務では生産性が低下していることが読み取れる結果となった。

このように、在宅勤務はオフィスと比べて気軽なコミュニケーションが取りづらい。相手の顔がみえるオフィスでは、ささいな用事や質問など、気軽に声がかけやすい。しかし、在宅勤務の場合、相手の状況がみえないメールや電話で気軽にコミュニケーションを取るのは難しい。チャットやオンライン会議システムを導入していても、心理的負担は大きいのだ。さらに、偶発的な会話や雑談から新規事業のアイデアなどのイノベーションが生まれにくいのも大きなデメリットとなる。

4. 勤怠管理が複雑

在宅勤務の場合は勤怠管理も難しくなる。部下から勤務開始の報告が上がってきても、上司が勤務実態を把握するのは難しい。その半面、超過勤務にも目を光らせる必要がある。社員が終業報告を上げてからそのまま仕事を続けていても管理職は把握しにくい。これらの勤怠管理の難しさに対応するには、在宅勤務に対応できる勤怠管理システムなどを導入する企業も少なくない。

5. 人事評価が難しい

オフィス勤務と在宅勤務の人事評価方法についても課題が残る。自宅での業務進捗や勤務態度は直接確認することができないため、上司にとっての判断基準は成果のみとなり、オフィス勤務時であれば評価されていたはずのさまざまな貢献が見逃されてしまう可能性がある。
 

在宅勤務のデメリットを補い、メリットを享受するためにできること

在宅勤務のメリット・デメリットをふまえた上で、自社にとって最適な形で在宅勤務を取り入れ、従業員が生産性やパフォーマンスを発揮するために、企業には何ができるのだろうか。

在宅勤務とオフィス勤務のバランスをよく保つ

在宅勤務には良いことばかりではなく生産性の低下を招く側面もあることが、JLLの調査からも分かっている。在宅勤務で起こるコミュニケーションの減少や設備の不足、人事評価の困難さなどを軽減するには、在宅勤務とオフィス出社をバランス良く組み合わせたハイブリッドワークの導入も有効だ。

社員のITリテラシーを向上させセキュリティ対策を万全に

在宅ワークの懸念点の1つであるセキュリティ対策を万全にするには、従業員ひとりひとりのITリテラシー向上が欠かせない。スマートオフィスの導入や研修の充実によってITリテラシーが底上げされることで、同時に生産性の向上にもつながるだろう。

コミュニケーションツールを最大限活用する

在宅勤務によるコミュニケーションの低下を補うツールの活用も有効だ。メールでは十分に伝わらない内容を視覚情報も使って共有できるビデオ会議システムや仮想オフィスツール、複数人でのリアルタイムなやりとりを可能にするグループウェアやチャットツールなどの情報を収集し、自社や部署にとって最適なツールを選定、活用していこう。

適正な勤務時間管理・評価制度を導入する

在宅勤務の従業員に対する公正な人事評価を行うには、ITを活用して勤務状況や業務の進捗などを適正に管理することや、評価制度を見直して在宅勤務に対応した明確な評価基準を策定することが必要だ。特に、仕事の内容をどう深めているか、スキルアップの意欲はあるか、周囲を巻き込む力があるか…といった数字に表われない定性的な評価基準も盛り込むことがポイントだ。

オフィスに回帰する企業も増えている

在宅勤務の割合は2020年5月の29%がピークで、それ以降は増減を繰り返しながらゆるやかに減少し、2023年1月には16.8%に低下

働き方が大きく変わったこの数年で、在宅勤務は果たして定着したのだろうか。

公益財団法人日本生産性本部が2023年1月に発表した「第12回働く⼈の意識に関する調査」によると、在宅勤務の割合は2020年5月の29%をピークに増減を繰り返しながらゆるやかに減少し、2023年1月には16.8%となっている。

自動車大手のホンダが全従業員を対象に原則的に週5日出社に戻すなど、オフィス主体の働き方に回帰する企業も増えている。しかしながら、在宅勤務は従業員にとってメリットが高いのも事実である。柔軟にオフィスと在宅勤務を組み合わせられるハイブリッドワークが,今後の新たな働き方の主流になるのではないだろうか。

在宅勤務のメリットを活かしたハイブリッド型勤務が定着していく
ハイブリッドワークで在宅勤務とオフィスのバランスの実現を

JLLが2022年に世界各地の戦略的意思決定責任者約1,100名を対象に行った今後の働き方に関する意識調査によると、その多くが、ハイブリッドワークが自社に与える長期的な影響を無視できず、ハイブリッドワークの選択肢を提供することは人材採用と長期雇用に不可欠だと予測していることが分かった。

図表:以下の3つの戦略目標のうち、今から2025年の間の貴社のCREテクノロジー機能にとって最も重要なものはどれですか?

ハイブリッド型勤務を重視する姿勢は各社共通しているが、従業員10,000名超の大規模な企業では特に顕著であり、その3分の2にあたる65%がハイブリッド型勤務の導入を戦略的優先事項として挙げている。

JLLの今後の働き方に関するレポートをダウンロードする
 

在宅勤務を活かしたオフィスリニューアル成功事例

従来の出社型の勤務形態に完全に戻る企業と、在宅勤務を含むハイブリッド型の勤務へ舵を切る企業に対応が分かれる中で、リモートワークとオフィスワークを組み合わせた「ワーク&ライフのイノベーション」の実現を進めた企業が存在する。

同社では、2020年から事務・営業職を中心にリモートワークを導入し、新しい働き方を推進するべく、2021年4月以降には全国の営業拠点55カ所を26カ所へ統合集約、2022年2月には本社オフィスの全面改修を完了させた。

本社・営業拠点ともフリーアドレスを導入し、在宅勤務の導入で出社人数を従業員比30%に。各社で必要な機能・デザインを落とし込むことで、床面積の縮小と機能的で使い勝手の良いオフィス空間の両立を成功させた。

 

自社に最適なワークスタイル戦略を

現在、すでに在宅勤務を実施・継続している企業はもちろんのこと、検討中やまだ選択肢にないという企業にとっても、多様化する働き方を包括したワークスタイル戦略は今後欠かせないものとなるだろう。

従業員にとって相反しがちな「仕事(ワーク)」と「個人の生活(ライフ)」を統合して働く意欲や知的生産性の向上をはかる「ワークライフインテグレーション」や、社内外を問わず働く場所や時間を自由に選択できるABW(Activity Based Working)」なども視野に、自社のニーズを明確化し、最適なワークスタイルを判断していく必要がある。

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