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スマートオフィスとは何か?生産性向上に寄与する次世代オフィス

コロナ禍による働き方改革の推進は、オフィスの概念にも劇的な変化をもたらした。アフターコロナ時代は働き方の多様化と生産性向上の面から見ても旧来のオフィス環境からの進化が必要不可欠といえる。次世代に向けて進化したオフィスである「スマートオフィス」について解説する。

2022年 06月 20日
スマートオフィスとは何か?

スマートオフィスとは「IoTやAI、ロボットなどのスマートデバイスを用いて、従来よりも業務効率や生産性を向上させたオフィス」を指す。

スマートオフィスの「スマート(smart)」とは「賢い」、「利口な」、「気が利く」といった意味の英単語である。ここから転じて、近年は「AIやIoT、ロボットなどの高度なテクノロジーを用いて著しく生産性を向上させるツール」を「スマート○○」と呼ぶようになっている。

最も身近な「スマート○○」といえばスマートフォンだろう。もともとは電話に近かったフィーチャーフォンを発展させ、汎用OSとアプリケーションで動く高機能な携帯電話をスマートフォンという。また、スマート家電やスマートウォッチという言葉も一般に広がりつつある。IoTやAIを使って音声などで操作できる家電をスマート家電、同様の技術を用いた高機能なデジタル時計をスマートウォッチと呼ぶ

スマートオフィスも「スマート○○」の仲間といえるだろう。上記のツールに比べてスマートオフィスの知名度はまだ一般的ではないが、アフターコロナの時代に向けて、ビジネスの成長に必要不可欠な存在として注目を集めている。

既に先進的なオフィスでは次のような事例が導入され、スマートオフィス化が進んでいる。

  • IoT(ヒトを介さずモノ同士でインターネット接続を行うこと)により、オフィススペースの利用率に関するデータを可視化

  • AI(機械学習)搭載の清掃ロボットでオフィスの衛生管理を効率化

  • オンライン(非接触型)のコミュニケーションにより、移動時間の削減や感染症の拡大防止を実現

上記のような取り組みを行っているスマートオフィスを従来型のオフィスと比較すると、その違いは次の2点に集約される。
 

  • 業務の生産性…対面を前提としない新しいプロセスの構築により、業務の効率化を図れている

  • 多様な働き方…決まった時間に物理的に出社する必要がなくなり、多様な働き方が実現している
 
スマートオフィス化の5つのメリット

スマートオフィスを導入すると社員のストレスが緩和され、モチベーションの向上が期待できる。

スマートオフィスを導入すると様々なメリットがある。ここではそのメリットの一部を紹介したい。

1. 生産性の向上
スマートオフィスを通じてオフィススペースの最適化と全体的なコスト削減を実現することができる。

例えば、スマートオフィスの一例として、ネットワークカメラを使ってオフィス全体の人の流れを撮影する事例がある。撮影した人の流れをもとに、AIが無駄な動きや余剰スペースがないかを解析。その解析結果をもとにオフィスレイアウトなどを変更することで、より使いやすいオフィスを実現できる。

リモートワークが定着した職場では、既存の個人用スペースの見直しによるオフィス移転で大幅なコスト削減が見込める。この時、スマートオフィスではデータが可視化できているため、より正確にオフィスの利用率や適正な広さが割り出せる。

2. 働きやすい環境を整える

働きやすい環境をAIが自律的に維持してくれる空間づくりも可能だ。例えば空調や照明が社員の体調や外部環境に適していない場合、集中力が途切れ、生産性が落ちる。下手をすれば社員の健康に影響を及ぼしかねない。

こうした課題に対して、様々なセンサーを導入することで社員たちの動きやオフィスの利用状況を解析できるスマートオフィスでは、空調や照明を自律的に調整することができ、社員にとって働きやすい環境を整えることができる。

3. どこからでも働けるようになる

最新のテクノロジーとセキュリティで、オンラインでのコミュニケーションを可能にしたスマートオフィスは、従業員の多様な働き方のニーズを包括的に実現できる。

在宅勤務やサテライトオフィスなどを活用したリモートワークと、オフィス出社を組み合わせたハイブリッドワークは、通勤時間の短縮による時間の有効活用や従業員の負担軽減につながり、長期的には人材確保や採用にも有効に働くだろう。

4. コミュニケーションの活性化

リモートワークの普及により、社員間のコミュニケーション低下が問題視されているが、スマートオフィスではデジタル機能を充実させ、オフィスで働いている従業員同士のやり取りを促進させることができる。

様々なセンサーやカメラによってオフィスで働く社員たちの行動を捕捉し、いつどこで誰と誰がコンタクトしたか、それによってどのような感情が芽生えたかをAIが解析することも可能だ。

その結果、社員たちの行動からコミュニケーションに関する膨大なビッグデータを蓄積することができ、それを元にどのように対策を取ればコミュニケーションが活性化されるかをAIが提案する事例も出てきた。

オフィスにおいて人間関係が悪化する理由はさまざまであり、会話や雑談が少ないオフィスでは往々にして人間関係が希薄になりがちだ。かといってあまりに距離感が近すぎても圧迫感や窮屈さが感じられ、モチベーション低下が危惧される。
しかし、スマートオフィスでは自社のオフィスにおいて社員の人間関係上どのような課題があるかをAIが解析し、最適な対策を導くことができる。オフィスの心理的安全性を確保する上で大きな力となってくれそうだ。

5. 社員のウェルビーイングの向上

スマートオフィスを導入すると社員のストレスが緩和され、モチベーションの向上が期待できる。コロナ禍でテレワークが急速に普及したのは周知の事実だ。確かにテレワークは社員のワークライフバランスの確保に一定の役割を果たした。
しかし、それは社内コミュニケーションの希薄化やモチベーションの低下、それらに伴う生産性の低下という弊害も生み出した。特に仕事と生活の境界が薄れることで、社員の長時間労働が常態化してしまうケースも増えた。顔が見えないテレワークでは社員の仕事ぶりを可視化しにくいという弊害があるためだ。

社員の精神的・身体的な健康維持はアフターコロナの働き方において喫緊の課題といえるだろう。

しかし、スマートオフィスはその解決に寄与できる。スマートオフィスでは社員の行動を常に分析し、ストレスを低減するようにレイアウトや設計を改善することができる。また、テラスや屋上庭園、サイレントルーム、フィットネスゾーン、休憩エリアなど、仲間たちと楽しめる憩いの施設が存在するのもスマートオフィスの醍醐味だ。これらはテレワークでは得られない。スマートオフィスは近年注目されているウェルビーイングに資するオフィスともいえそうだ。

自社に最適なワークプレイス戦略を考える


スマートオフィス化の注意点

スマートオフィス化の際には社員のITリテラシーを高めるために研修を実施するなど、社員教育のあり方も検討すべきである。

初期費用を抑えることは可能

スマートオフィス化するにはセンサーやネットワークカメラなどの各種デバイス、社員に配るためのタブレットなど、まとまった初期投資が必要になる。その点で二の足を踏んでいる企業もあるかもしれない。しかし、優先的な対策から徐々に展開していく方法や、ゼロからシステムを開発せずパッケージ化されたクラウドサービスを利用するなど、さまざまな方法で初期コストを抑えることが可能だ。長期的な視野と計画性を持って初期費用を試算することが重要である。

社員のITリテラシー向上の機会へ

スマートオフィス化に際して気をつけなければいけないのはセキュリティ対策である。特に社員が個人のIoT機器を使って意図せずに外部からマルウェアなどの脅威を持ち込んでしまうのは避けなければならない。スマートオフィス化の際には社員のITリテラシーを高めるために研修を実施するなど、社員教育のあり方も検討すべきである。もちろん、ITリテラシーの向上はセキュリティだけでなく業務の生産性向上においても役立つことだ。スマートオフィス化は社員のスキルアップの機会でもある。

スマートオフィス化のステップ

ここからはスマートオフィスの導入手順について解説する。従来のオフィスをスマートオフィスにするには以下の3つのステップが必要である。

1. スマートオフィス化の目的や課題点を洗い出す

スマートオフィス化に際して、まずやらなければいけないのは、現状の課題の抽出だ。スマートオフィス化が失敗する原因の多くは、十分な検討を行わずに「なんとなく」でシステムなどを導入してしまう点にある。
まずは自社のオフィスにどのような課題があるかを洗い出し、どのような方向性のオフィスにしたいか検討すると良いだろう。例えば、業務効率をアップさせて生産性を向上させたいのか、オフィスのコミュニケーションを促進したいのか、そのように目的と方向性を決めよう。

2. デバイスやネットワークの実装

各種センサーやネットワークカメラなど、スマートオフィスのためのデバイスやクラウドサービス、ネットワークシステムなどを実装していく。
実装が終わった段階でテストし、問題がなければデータの収集がスタートする。データはある程度のボリュームがないと信頼性が薄くなる。蓄積されるまでしばらく待つ必要はあるだろう。

3. レポート分析とオフィス改善

蓄積されたデータを元に様々な切り口からレポートを作成する。例えば「オフィスフロアのどこが頻繁に利用されているか」、「あまり利用されていないスペースはどこか」、「会議室の利用状況はどうか」など、さまざまな切り口でデータを分析し、オフィスの課題点を可視化する。

IoTアナリティクスセンサー活用例

以下に、リアルタイムでオフィス内の人の動きや温度の計測を行う「IoTアナリティクスセンサー」を用いた分析事例を紹介する。このデジタルツールを活用することで、オフィス利用率を正確に分析し、計測したデータに基づいた働き方に最適なオフィスをデザインすることが可能になる。

会議室利用状況の把握

IoTアナリティクスセンサーでは会議室の人員を人感センサーでモニタリングし、定員に対して適切な割合で使用されているかを計測することができる。

利用率ヒートマップによる利用率の可視化

オフィス内の各座席の使用頻度を計測する利用率ヒートマップを活用すれば、良く使われているエリアやあまり使われていないエリアを把握することが可能になり、余剰スペースを割り出すことにつながる。

座席温度をリアルタイムで確認

IoTアナリティクスセンサーでは各センサーの周囲の温度をリアルタイムで計測することができるため、空調が適正に使用されているか、オフィス全体の温度は快適かどうかの判断材料とすることができる。
可視化したら、それに基づいてオフィスデザインや設計を改善していく。課題解決は一度では完了することはなく、定期的に状況を見直し、改善策を実行していく必要がある。

オフィス利用状況の分析・最適化を検討する
 

スマートオフィスに向けての具体的な施策

基本的な進め方に加え、スマートオフィスの導入を推進する際には具体的に何を行えば良いのか。オフィス機能・業務・外部コミュニケーションの3つの視点で紹介する。

オフィス機能のデジタル化

デジタルデバイスを活用したスマートオフィス化の施策には次のようなものが挙げられる。

  • 受付の無人化

  • 入退管理システムのクラウド化

  • 社内食堂や自販機などのキャッシュレス化

  • 空調や照明の自動制御

  • IoTによる人の動き・空気環境の分析

  • AIカメラによる社内コミュニケーションの分析

  • 会議室予約システムの導入
 
業務の効率化

これまで人が行っていた以下のようなバックオフィス業務をデジタル化することも、スマートオフィス化に必要な施策といえる。

  • グループウェア導入によるコミュニケーション活性化

  • 備品管理システムの導入

  • 顧客管理システムの導入

  • ペーパーレス化

  • RPAによる定型業務の自動化

  • 製造現場のデジタル化

  • 業務のデータ分析と可視化


スマートオフィスの円滑な運用には、社内のみならず、以下のようなITを活用した外部との連携も欠かせない。

  • ビデオ会議システムの導入

  • 仮想オフィス・ツールの導入

  • グループウェア導入による社内外のコミュニケーション活性化

  • AIやOCRによる請求書自動処理システム

  • AIによる電話対応業務の自動化

  • 社外への電話転送システム
 
スマートオフィス成功実例

スマートオフィスのより具体的なイメージをつかむため、実際にスマートオフィス実現に成功したオフィスの事例を紹介しよう。

E社 AI清掃ロボット導入事例

医薬品の研究・製造・販売を行う同社では、コロナ禍において「医薬品の供給を止めてはならない」という強い使命感から、社内の感染防止を見据えた新たな清掃スキームの一環として、ソフトバンクロボティクス株式会社が開発した業務用AI清掃ロボット「Whiz(ウィズ)」を導入した。

清掃作業員の業務の一部をロボットに転換し、人が重点エリアの拭き上げ清掃にシフトすることで、清掃コストはそのままに清掃品質を向上させることに成功した。

L社 新規オフィスIoTセンサー導入事例

多様なITサービスを開発・展開する同社では、2019年からの急激な人員増に対応するため、福岡の新規オフィス開発および都内・京都に新たな事業拠点を設置。大崎オフィスにJLLのIoTセンサーを導入した。

すべてのオフィスは「ユーザーを感動させる初めての体験」「思わず友達に教えたくなるような驚き」と定義される独自のデザインコンセプト「WOWを生み出す空間」に基づいて設計されており、大規模なカフェラウンジやミーティングスペースなど快適な執務環境を提供している。

IoTセンサーの導入により会議室の使用頻度や各会議室の平均利用人数、時間帯ごとの利用頻度などを導き出すことができ、より優れたオフィス環境の実現に活かされている。

JLLが提案するスマートオフィス

JLL日本ではオフィスや会議室の在席率や、採光性、空気環境等をIoTセンサーで測定し、スマートオフィス化を実現する「IoTアナリティクス」と呼ばれるサービスを提供している他、オフィスの使用効率、オフィス運用・保守など、オフィス機能をシステム上で一元管理するシステム「IWMS(Integrated workplace management system:統合型職場管理システム)」を提供している。

日本でも不動産関連の管理ソフトは多数存在するが、ポートフォリオ管理だけを対象にする、いわゆる機能を絞った「特化型」が多かったが、IWMSは「統合型」と呼ぶにふさわしく、アプリを追加することでより多くの機能を統合して利用できる点が最大の特長となる。例えば、オフィス管理においては就業者にアプリを通じて座席・会議室の予約等が行え、ストレスなくオフィスを利用できる「ユーザー・エクスペリエンス(利用者満足度)」向上に高い効果を発揮する。

コロナ禍を機にオフィスや働き方を見直し、オフィスとリモートワークを組み合わせたハイブリッドワークを採用する企業は少なくない。一方、ハイブリッドワークではコミュニケーションの低下やイノベーション創発の機会が失われ、ひいては生産性低下も危惧される。スマートオフィスはこうした課題を解決するアフターコロナ時代に適した新たなオフィス像といえるだろう。

働き方改革の鍵となるスマートオフィス・ソリューション

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