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世界の不動産透明度の改善ペースが鈍化した理由

世界的に商業用不動産市場の透明度は向上しているものの、今回(2020年)の調査では2008年の世界金融危機以来、改善のペースが最も鈍化することになった。一方、透明度改善には不動産テックやサステナビリティなどがさらに重要になることが浮き彫りになった。

2020年 09月 23日

透明度改善が世界的に鈍化

投資家・企業・消費者はより高い透明性を求めている

商業用不動産市場の透明性の改善は過去10年間で最もペースが鈍化していることがわかった。

JLLとラサール インベストメント マネージメントが隔年で発表している「グローバル不動産透明度インデックス」の調査対象は99カ国・地域、163都市に及ぶ。今回の調査では約70%で不動産投資市場の透明度が改善したものの、インデックス全体で見ると2008年の世界金融危機以来、最も改善が少ない年となった。

投資家や企業、消費者などが透明度に対してより高い基準を要求しており、透明度改善が相対的に難しくなっているためだ。

他の投資アセットと比較して不動産投資市場をより魅力的にするには、不動産透明度の改善ペースをこれまで以上に加速させる必要がある。それだけではなく、気候変動やコロナ禍へ対応するサステナブルでレジリエントなオフィス環境を提供することも求められている。

非英語圏の欧州各国の透明度が大幅に改善

今回の調査では1位に英国、2位米国、3位がオーストラリアとなり、英語圏の不動産先進国がトップ3に君臨。しかし、注目すべきは非英語圏の欧州各国の透明度が大幅に進展している点だ。JLLグローバルリサーチ リードディレクター ジェレミー・ケリーによると「フランス、ドイツ、スウェーデンがトップ3に追いつきつつあり、これらの透明度高グループが自発的に透明度の基準を引き上げている」という。

日本を含むアジア太平洋地域ではシンガポールが14位、香港が15位、日本16位が域内最上位に位置し、透明度高グループ入り目前に迫っていたが、今回の調査ではサステナビリティや市場データの利用可能性に関する取り組みを強化したベルギー、スイスに追い抜かれた。

透明度改善率が最も高いアジア太平洋地域

一方、地域別にみるとアジア太平洋地域は前回調査からの2年間で最も高い透明度スコアの改善を実現している。改善率の上位10位のうち、アジア太平洋地域の6ヵ国・地域が含まれる。アブダビは透明度改善率の最上位となったが、政府が不動産や企業のサステナビリティ改善の取り組みを支援したことが要因だ。

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継続的に透明度を改善する難しさ

ケリーは今回の調査結果から「過去に相応な改善が認められた国々は次のレベルへの到達に苦労している」と振り返る。

例えば、南アフリカ、メキシコ、ブラジル、トルコでは、投資家や企業が投資市場に対する透明度改善を促す規制が導入され、過去数年間で大幅な透明度改善が認められた。しかし、規制自体の執行が進まなかったことから2020年版のグローバル不動産透明度インデックスではいずれも順位を落としている。

ケリーは「これらの国々は、大きな進展が見られた後で停滞状態に陥っている。高度に透明な市場となるためには、幅広い措置が講じられ、しかもそうした規制を執行する能力を有することが重要だ」と指摘する。

また、今回は多数の国々がコーポレートガバナンスや不動産権の保証を巡る問題で透明度スコアを落としたケースもある。例えばメキシコでは、2011年に不動産投資信託が証券取引所に上場し、これによって市場の透明度が改善するという期待が高まった。しかし、2016年には上場REITの数が10に達したものの、投資家は各社の取締役会が厳しく制約されていることや、利益相反、割高な手数料、買収防止措置などが批判されている。

規制の執行以外にも、サステナビリティ対策や不動産テック導入で不動産透明度を向上させられる。しっかりとした規制とガバナンスを導入した国々は、二酸化炭素排出量の削減に取り組み、不動産テックを広範に採用することで最も大きく透明度を改善させている。

不動産テックと透明度との関係性

また、今回の調査では透明度高グループ以外で出遅れていたスマートビルやIoT、ビッグデータ等の不動産テックと透明度との相関性について初期的な兆候が見られた点も大きな特徴といえるだろう。

中国やインドなど、不動産テックを本格的に導入している透明度の低い市場で透明度スコアが上昇し、中でも中国の大都市である北京や上海は日本と同じグループ(透明度中高)入りを果たすなど、透明度区分を一気に上昇させている。

コロナ禍の中で、不動産テックの力が再確認された形だ。企業は従業員を職場復帰させる過程において、健康と安全を確保するテクノロジーを積極的に追求していることの証でもある。

JLLグローバルリサーチ ディレクター マシュー・マッコーレーは「混乱期には透明度や信頼感の必要性が過去にないほど高まっている。不動産テックと『ビルの健康』の相関性が市場で明確に認められており、テクノロジーが不動産透明度に与える大きな影響が加速し始めている」と分析する。

2018年以降、不動産テックはますます多額の投資を集め続けており、不動産を専門とした1,400社近いスタートアップ企業が設立されて170億米ドルもの資金を調達するなど、その勢いはとどまることを知らない。

サステナビリティが透明度改善を促す

規制の弱点が一部市場の進展を阻む一方、サステナビリティが透明度改善を促した。

より多くの投資家や企業が投資対象や拠点の立地に関する意思決定において不動産や都市のサステナビリティに注目する中で、不動産業界に気候変動対策の強化を求める圧力が高まっている。政府がさまざまなサステナビリティ基準を新たに導入したアブダビ、コスタリカ、前述のベルギーは今回最も透明度が向上した国々に含まれる。

ケリーは「将来的には、透明度の高い市場の『ビルの健康』や建築環境のレジリエンスについての計測値が更に重要になる」との見解を示す。そして、ウェルネス認証制度や建物のレジリエンス規制、ネット・ゼロ・カーボンビルの枠組みや水利用効率基準といった指標を例に挙げた。

一方、長期的な未来に目を向けると、建物のウェルネスへの影響計測は既にグリーンビル認証基準の発展で認められていたが、コロナ禍の結果としてサステナビリティのベンチマークとして主流となる可能性が高い。

その他、建築環境がD&I(Diversity&Inclusion:人材活用)やメンタルヘルスなどの今日の社会的課題にどのように対応するかも、将来的な計測指標の一部となる可能性がある。

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連絡先 ジェレミー・ケリー

JLLグローバルリサーチ リードディレクター

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