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アフターコロナ時代のオフィス戦略:リアルに集うことの意味を再考

コロナ禍を受けてオフィスに求める役割を見直し「社内コミュニケーション活性化」を意識する企業は少なくない。そうした中、コロナ禍中で本社移転を実施したビースタイルホールディングスは「おもてなし」を重視した顧客志向のオフィス戦略を実践する。

2021年 06月 02日

コロナ禍で5拠点を統合移転

人材サービス事業を展開する株式会社ビースタイル ホールディングスは2021年1月25日、高層ビルが林立する西新宿エリアに新本社オフィスを開設した。

同社は新宿南口に位置する「FORECAST新宿SOUTH」に15年ほど前から本社オフィスを構えていた。事業拡大と共に同ビル内で2フロア(一部区画)、さらに徒歩圏内に最大4か所の事業拠点を拡張していた。今回の移転プロジェクトによって一部拠点を残しながらも、複数に分かれていたオフィス機能を統合した形だ。

統合移転の理由について、ビースタイル ホールディングス 広報ブランディング部 ユニット長 兒玉 有希氏は「2020年4月に持ち株会社を設立したことでグループ会社6社に分社した。将来的に事業規模を拡大していくための戦略拠点として移転プロジェクトが始動した」と説明する。

ホールディングス化に合わせて現状の売上高100億円から将来的には売上1兆円を目指す。当面の目標である売上高1,000億円を達成するためにオフィス機能を整備し、事業体制の強化を進めるべく、2019年に竣工したAグレードオフィス「住友不動産新宿セントラルパークタワー」最上階にあたる32階フロアを賃借した。

新本社オフィスは労働生産性の向上、グループ会社内のコミュニケーション活性化の他、重要顧客に対して自社サービスの品質を体感してもらうための「おもてなしの場」としても活用していく方針だ。

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3つの心理的価値を提供する新オフィス

当初の移転時期は2020年夏ころを予定していたが、コロナ禍を受けてオフィスの在り方を見直した。新本社オフィスはより生産性が高められる執務環境とし、オフィスに集った従業員が企業カルチャーを共有・伝承していく場、そしてオフィスへ来社したクライアントに対するおもてなしを通じてホスピタリティを感じてもらうための「心理的価値」を提供できる場を目指したという。

生産性

「真剣勝負の場」を想起させるべく「Field」と名付けられた執務空間には約200席を用意。コロナ以前からテレワークを実践しており、今後もオフィスとテレワークによるハイブリッドな働き方を踏襲する。執務空間の入り口近くにはガラス張りの社長室・会長室を配置し、風通しの良さを体現。執務席は基本フリーアドレスとし、エリア毎に仕切りがついた個人席、メンバーが1カ所に集積して業務を進められる大型モニター付きのチーム席、集中力を維持するサイレント席に分かれている。

また、コロナ禍中でのオフィス移転となったため、当初計画を変更し、オンラインミーティング用の1人-2人用の個室を複数設けた。

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企業カルチャーの伝承

50人収容可能な大型会議室で社内研修やイベントなどを実施できるようにした。兒玉氏によると「新人育成等における企業風土やこまやかなニュアンスの伝承はオンラインよりも直接やりとりをしながら進めたほうが効率的であることにコロナ禍で気づかされた。また、表彰行事のような場面も対面で称賛したほうが従業員のモチベーション喚起につながると考え、先を見据えて多様な使い方ができる大型の会議室も設置した」という。

また、顧客とのリレーション強化を目的にアフターコロナに向けてゲストルームも完備した。「Borderless」と名付けられ、室内にはキッチンやワインセラー等を整備、食事を楽しんでもらえる。

ホスピタリティ

コロナ禍を受けて、感染防止の観点から有人受付を廃止し、非接触型受付パネル等を導入するケースが増えている中、あえて有人対応を前提とした受付カウンターを設置。訪問客への対応はもちろん、日々の声掛け等を積極的に行い、従業員に気持ちよく業務に励んでもらうためのサポーターとしての役割を期待している。

オフィスに「おもてなし」機能を持たせた理由

注目したいのはオフィスに「おもてなし」機能が充実している点だ。ゲストルーム「Borderless」や有人対応型の受付カウンターが該当する。前者について、兒玉氏は「コロナ以前なら顔合わせはオフライン、関係性が深まってからオンラインでミーティングするのが一般的だったが、今後は関係性が逆転すると考えている。今後はオンラインを入り口に関係性が深まってからオフィスへ招くことになる。そういった社会環境を想定して、おもてなしができるスペースを設置した」と説明する。

後者について、兒玉氏は「当社のスタッフの接客品質等を体感してもらえる場にしたかった」と説明する(コロナ禍中は無人受付)。同社では時間の制約上、正社員として働けない主婦人材に活躍の場を提供する人材サービスを祖業としており、同社の顧客満足度調査では「スタッフの質が高い」との高評価を得ることが多いため、同社が提供する人材サービスの品質を実体験してもらうのが狙いだ。

オンライン全盛でも「リアルな場」は価値がある

JLL日本が2020年5月に実施したテナント企業を中心としたアンケート調査によると、コロナ後のオフィスの役割について質問したところ、「Face to Faceのコミュニケーション」、「社員の帰属意識を高まる場所(快適なオフィスを社員に提供することが福利厚生の一環)」、そして「Face to Faceによるイノベーション・コラボレーション創発」が上位を占めた。この結果を見ると、Withコロナ時代にオフィスに求められる役割は「リモートワークで低下傾向にある社内コミュニケーション活性化の場」など、「内向き」志向が広がっているように感じられる。

一方、今回紹介したビースタイル ホールディングスの新本社オフィスは社外との関係構築にも重視した「外向き」志向が垣間見える。また、ある人材採用コンサルティング会社はコロナ禍で開設した新オフィスに顧客専用の会員制ラウンジを開設している。

コロナ禍によるオンライン全盛の中、事業拡大にまい進する成長企業が描くオフィス戦略は「リアルな場」の価値を引き続き重視しているようだ。

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