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ジャパネットHDが福岡へオフィス移転、人材確保・地域創生の中核拠点

コロナ禍で働き方が大きく変化している。リモートワークの定着で満員電車に揺られながら都心のオフィスへ通勤する必要がなくなり、職住近接した地方にオフィスを移転・開設する動きが見られる。ジャパネットHDは東京から福岡へ一部機能を移転させた。働き方改革のみならず、人材確保や地域創生の拠点と位置づける。

2022年 08月 08日
アフターコロナを見据えた新たな働き方を実践

テレビ通販で知られるジャパネットたかたの親会社であるジャパネットホールディングス(以下、ジャパネットHD)は2021年12月、コロナ禍を機に東京拠点から主要機能を福岡へ移転させた。2021年9月竣工の「天神ビジネスセンター」12-14階の3フロアを区分所有し、うち2フロアに新オフィスを開設した。

メーカーとの交渉などを担うバイヤー部門をはじめとする一部機能は東京に据え置き、人事・経理などのホールディングスの主要機能、新規事業開発、クリエイティブなどのグループ会社を含めた12部門が移動した。広報担当者によると「バイヤーやBS放送局など、東京にあることでスピードをもって業務に取り組むことでより成果が出せる部署はそのまま東京に置き、場所を問わない職種については長崎で創業した企業として、より地元に根差していけるように福岡オフィスに移動することを決定した」という。

コロナ禍を受けてオンライン会議などが普及したことで、転勤制度を廃止する企業も少なくない。今回の移転では東京から約50名が異動することになった(2020年11月時点)が、従業員の反応はどうだったのか。広報担当者は「九州出身の社員も多いことから、福岡へのオフィス移転を決定した際は、喜ぶ人も多かった」と説明する。一方、一部の従業員から戸惑いの声もあがったともいうが、現在の担当業務の継続を希望する従業員は福岡への異動を快諾するなど、前向きな反応が多かったという。また、福岡という場所に魅力を感じて異動を希望する従業員も現れたそうだ。

東京から福岡へ移転した3つの主な理由
1. ウィズコロナを見据えた働き方改革
 

ジャパネットHDが福岡へのオフィス移転を計画した主な理由は3つある。1つは、ウィズコロナを見据えた新たな働き方を実践するためだ。広報担当者によると「コロナ禍によって新しい働き方が問われる中、オフィスの在り方について改めて考えたことが福岡市への移転を検討するきっかけとなった」という。

チームとしてオフィスに集い、協働することで事業価値を拡大してきたことから、オフィス出社を基本とし、社員同士のコミュニケーションを取ることを重視。一方、ウィズコロナの新しい働き方としてコールセンターの拠点分散や、オフィスから一定範囲内に居住する従業員に対して手当を出すなど、新たな取り組みを行ってきた。そうしたなか、コロナ禍を受けてリモートワークが定着したことにより、通勤時間を減らすことでより社員のワークライフバランスに寄与できるのではないかと考えたという。その結果、東京に比べて職住が近接した福岡へのオフィス移転を検討。福岡市は都市と地方の魅力を備えたコンパクトシティであり、通勤時間も短縮でき、ワークライフバランスの充実につながると結論づけた。

2. 人材採用の強化

2つ目の理由は、九州の中心地として多様な人材を確保できる点にも魅力を感じたためだ。なかでもクリエイティブな人材を確保する上で東京は競合が多く、人材採用が難しい。一方で、九州中から若く有能な人材が集う福岡市は東京よりも優秀な人材を採用しやすいと考えた。

同社では福岡へのオフィス移転に合わせて人材採用キャンペーン「JAPANET@FUKUOKA」を展開し、想定を上回る速さで採用目標数を獲得することに成功した。「会社に行きたい」と思わせるような新オフィスにしたのも人材採用を強化するための一環でもある。

社員同士がコミュニケーションを取りやすいように新オフィスではフリーアドレスを採用した他、集中したい時に1人で利用できる個室、インテリアにこだわり、食事等ができるスペース、マッサージチェアや仮眠室、芝生スペースなどを設置した。休憩スペースは休日も利用でき、勉強や大きなスクリーンでの試合観戦なども可能だ。また、フリーアドレスは気づくと座る場所が固定化されてしまうことが他の拠点でも多かったため、いろいろな場所で仕事ができるように、8人1組のグループ単位で2週間ごとにくじ引きで席替えし、コミュニケーション活性化を促す。

「最低限のチームとしてのまとまりはありつつも、自由なコミュニケーションを活性化できるような環境づくりを心がけている」(広報担当者)

3. 地域創生事業の強化
 

3つ目の理由は、同社が注力するスポーツ・地域創生事業における中核拠点とするためだ。2019年にテレビ通信販売事業に並ぶ「第2の事業の柱」にするべく注力するスポーツ・地域創生事業の一環で、長崎においてプロサッカーチーム「V・ファーレン長崎」、プロバスケットボールチーム「長崎ヴェルカ」の運営、稲佐山での音楽イベント等を実施しているため、「福岡への移転によるクリエイティブ部門の強化・事業効率化を図る」(広報担当者)ことも目的だ。

さらに、2024年の開業に向けて民間主導の地域創生モデルとなる大規模複合開発「長崎スタジアムシティプロジェクト(https://www.nagasakistadiumcity.com/)」を進めている。サッカースタジアムを中心に、オフィス、アリーナ、ホテル、商業施設で構成され、なかでもオフィス棟は長崎県内最大規模のフロアを誇り、2024年度の開設に向けて設置構想中である長崎大学大学院(情報データ科学分野)も入居予定だ。外気を感じながら働くことができるバルコニー併設の区画をはじめ、スタジアムを一望できる最上階には入居企業専用のラウンジを整備し、企業同士の交流の場を提供する予定。国内外の企業誘致を計画しており、東京や大阪などの大都市圏にあるAグレードオフィスと遜色のないハイスペックな執務環境を提供する。

広報担当者が「クリエイティブ部門が福岡に移動したこともあり、これからも新しい人材を採用していくため、他ではまだ実施していないような新しい企画・イベントを創出していきたい」と説明するように、今回新設した天神オフィスは長崎スタジアムシティを含めた地域創生事業を推進するうえでの拠点と位置付けている。

地方へ目を向ける企業は今後も増える?

全国区の大手企業が地方に拠点を開設することで、雇用拡大のみならず多様な面で地域創生に寄与する。こうした動きは地方と企業双方がWin-Winになる可能性が高い

企業のオフィス戦略に詳しいJLL日本 オフィス・リーシング・アドバイザリー事業部 柴田 才は「優秀な人材を採用するため、地方にオフィスを開設したり、地方大学と提携する企業が増えている。ジャパネットHDのような全国区の大手企業が地方に拠点を開設することで、雇用拡大のみならず多様な面で地域創生に寄与する。こうした動きは地方と企業双方がWin-Winになる可能性が高い」と指摘する。

国内有数の大学集積地である京都にはLINEやパナソニックが拠点を開設するなど、コロナ以前からこうした動きが目立っていたが、2022年3月に奈良市に第2本社を構えたDMG森精機が奈良女子大学との包括協定を締結するなど、働き方を見直すだけでなく、人材確保や地域創生を視野に入れた企業の動きは、アフターコロナにおけるオフィス戦略の新たな潮流になりそうだ。

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