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オフィス市場で顕著になった「質への逃避」とは?

2023年、2025年に新規大量供給を控え、引き続き不透明感が漂う東京オフィス市場だが、一部エリアに回復が見られ、ウェルビーイングやサステナビリティに配慮したオフィスビルに需要が集まる「質への逃避」が鮮明になってきた。こうしたトレンドが投資活動にどのような影響を及ぼすのだろうか。

2023年 03月 14日
エリア間で二極化が進む東京オフィス市場

JLL日本 リサーチ事業部の調査によると、2022年第4四半期末時点の東京Aグレードオフィス市場の賃料水準は月額坪単価34,660円となり、前年比4.5%下落、実に11四半期連続での下落となった。一方、空室率は3.7%。前年比では0.2ポイント上昇したが、前期比0.4ポイント低下するなど、2四半期ぶりの回復を示す。不透明感漂うオフィス市況にあって一筋の光明が見え隠れしている状況だ。

オフィス市場を専門とするJLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター 大東 雄人は「空室率が上昇することで賃料水準がこなれ、優良オフィスビルに割安な賃料で入居できることからテナントが空室を埋め戻す現象が見られる」と指摘する。

2022年第4四半期の東京オフィス市場に関するレポートはこちら

とはいえ、都心5区全体でみると空室率は上昇傾向にあるのは事実。回復しているのはあくまでも都心の一部エリアに限定される。例えば、東京屈指のオフィス街と目される丸の内・大手町エリアの2022年第4四半期末時点の空室率は2.2%、前年比0.8%改善している。また、新宿・渋谷エリアは前年比0.2%改善して空室率3.3%に留まっている。その半面、都心部から離れた比較的競争力が弱いとされる郊外エリアなどでは空室率の上昇がみられる。つまり、エリアによってテナント需要に大きな差がある「二極化」が起こっている状況だ。

大東は「世界的にオフィスの需要が、より高品質・好立地なものに集中していく傾向が強まっている」と説明。JLLではこうした現象を「質への逃避(Flight to quality)」と呼んでいる。
 

オフィスの「質」を決める2つの要件
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ビル選定の主な基準は賃料や立地だったが、これらに加えて、コロナ禍以降で特に重要視されるようになっているのが「ウェルビーイング」と「サステナビリティ」だ

従前、ビル選定の主な基準は賃料や立地だったが、これらに加えて、コロナ禍以降で特に重要視されるようになっているのが「ウェルビーイング」と「サステナビリティ」だ。テナント誘致に必要不可欠な「ビルの質」を決定づける要件となりつつある。

ウェルビーイング

JLLが世界10カ国、3,300名超のオフィスワーカーを対象にしたアンケート調査では、オフィスの望む機能・設備として「リラクゼーションスペース」、「フードサービス」、「屋外スペース」といった従業員のウェルビーイングに寄与する項目が上位に挙げられており、実際、共用設備にウェルビーイングに配慮したAグレードオフィスが次々と供給されているのが現状だ。

サステナビリティ

国内外企業の多くが環境配慮に関して大々的に公約を発表する中、環境に配慮したオフィスビルが入居先として人気を博している。中でも外資系企業はグローバル本社が「サステナビリティポリシー」を策定し、オフィス環境の条件としてグリーンビルディング認証の取得等を掲げるケースが増えている。環境認証の取得についてはオフィスのサステナブル化のみならず、植栽や水資源の使い方など、入居ビルそのものの環境性能が重視される。そのため、外資系企業を中心に世界的に普及しているグリーンビルディング認証のLEED認証やWELL認証を取得するための条件としてサステナビリティ性能の高いオフィスビルを好む傾向がこれまで以上に強まっている。

グリーンビルディング認証を取得した外資系企業の取り組みとは?

また、事業活動にかかる使用電力を2050年までに100%再生可能エネルギーに切り替えることを目標とする国際イニシアチブ「RE100」に対応する、いわゆる「再エネ電力導入ビル」に対するテナントの関心も高まっている。

オフィス市況が投資活動に及ぼす影響

競争力が低いビルは相対的にテナント需要が集まりにくい状況が、今後よりいっそう鮮明になる

2023年、2025年を筆頭に、今後5年間で大量供給がなされるが、テナントニーズに対応した最新鋭のハイスペックビルが次々と竣工することになる。大東は「競争力が低いビルは相対的にテナント需要が集まりにくい状況が、今後よりいっそう鮮明になる」と予想する。

二極化によってオフィス投資市場にも変化が起こりそうだ。特に、前述したサステナビリティ性能に劣るビルを保有すること自体がリスクとなりえる。大東は「キャッシュフローが一定水準を下回る、もしくは稼働率が低下し埋め戻しが難しくなり、売却案件が増えてくることが期待できる」とし、オポチュニスティック/バリューアッド系の投資家が空室を多く抱えた物件の取得に向かうなど、新たな投資家の台頭に期待を寄せている。

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連絡先 大東 雄人

JLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター

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