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本格的な「アフターコロナ」を迎え、商業販売に復活の兆し

5月8日以降、新型コロナウイルスが5類感染症へ移行したことで、名実共にアフターコロナ時代を迎えることになった。商業施設には大勢の買物客が殺到し、回復が本格化する一方、Eコマース需要に支えられていた物流施設需要は今後どうなるのだろうか?

2023年 05月 15日
商業施設の回復が本格化

5月の大型連休明けに新型コロナウイルスがようやく季節性インフルエンザと同類になったことで、名実ともに「アフターコロナ」を迎えることとなった。すでにオフィスには従業員がコロナ前と同レベルで戻っているほか、一旦は郊外へと居を移した人々が都心回帰の動きを強めたことで都心部の賃貸住宅の稼働率も上昇傾向にある。さらには多くのインバウンド旅行客が帰ってきたことでホテルの稼働率も急上昇するなか、商業施設の回復がようやく本格的なものとなりそうだ。

経済産業省が毎月公表している「商業動態速報」によると、ここ1年間の小売業は一部時期を除いてすべて前年同期比でプラスに転じており、特に対面販売となる「各種商品小売業」は、月によって10-20%の伸び率を示すなど、回復基調が顕著となっている。

商業販売額(前年同期比) 出所:経済産業省「商業動態統計」

JLLが毎四半期ごとに発行している「プロパティクロック」においても、東京の都心型商業施設の賃料は2022年第4四半期時点ですでに底打ちしており、別途調査している東京・銀座、表参道エリアの1階部分の賃料水準もここ数四半期で上昇に転じている。こうした「アフターコロナ」が本格化するなかで商業施設の売上や賃料が上昇していくことで、名実ともにコロナ前の社会に戻ることとなろう。

JLLプロパティクロック(都心型商業施設賃料) 出所:JLL
 

無店舗小売業の停滞に着目
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無店舗小売業は2022年通年で前年同期比を下回る傾向にあり、特に同年12月には3.1%のマイナスを記録している。物理的な店舗を持つ商業施設が二桁の成長率を示しているのとは極めて対照的である

一方で注目すべきは先の商業動態速報の分類にある「無店舗小売業」の停滞である。無店舗小売業とは文字通り「物理的な店舗を持たない」小売業全般を指すもので、訪問販売、テレビショッピングのほか、Eコマース全般が含まれる。

この無店舗小売業は2022年通年で前年同期比を下回る傾向にあり、特に同年12月には3.1%のマイナスを記録している。物理的な店舗を持つ商業施設が二桁の成長率を示しているのとは極めて対照的である。これはコロナが落ち着いたことで、それまで実際の店舗で買い物を控えていた購買層が街へ繰り出して消費行動をとっていることの証左であろう。

実店舗に買物客が戻っても物流施設の需要は堅調に推移

首都圏において少なくとも2025年までは記録的な物流施設の新規供給があるものの、空室率は5%以下と極めて低い状況が続き、それにともなって賃料も毎年プラス成長することを見込んでいる

無店舗小売業が低調な成長率を記録することで懸念されるのが、Eコマースなどを支える物流施設の稼働率や賃料への影響であろう。しかしながら日本のEコマースが小売業全体の売上に占める割合は10%以下であり、諸外国に比べて極端に低い状況にある。コロナが収まったことで一旦物理的な店舗で買い物する購買層も、コロナ禍で一般化したEコマースの利便性は認めていると考えられることから、今後Eコマースが小売の売上全体に占める割合は高まっていくと考えられる。

実際、JLLの調査を基にした予測でも、首都圏において少なくとも2025年までは記録的な物流施設の新規供給があるものの、空室率は5%以下と極めて低い状況が続き、それにともなって賃料も毎年プラス成長することを見込んでいる。

一部の小売業者ではEコマースを普遍的なデリバリーチャネルとして認知させるため、実店舗で商品を手に取って質感や試着などを行い、購入はスマートフォンアプリで行うといった、Eコマースとのハイブリッド型店舗を設置する動きもある。

こうした店舗をショールーム的に使うことで商業施設に軸を置きながらもEコマースの売上を伸ばしていく手法がより確立されていくことで、物流施設の需要も底堅く推移させることが可能であるといえよう。

首都圏物流施設における需給バランスの推移 出所:JLL

新型コロナウイルス感染拡大が始まって4年あまり、ようやく人々の生活に「普通」がもどりつつあるなか、コロナ禍を通してEコマースという新しいデリバリーチャネルが一般化しつつあることは、特に都心型商業施設と物流施設の両方にプラスの影響を及ぼしているといえよう。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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