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大阪“ミナミ”の復活に向けて

インバウンド需要の象徴ともされる大阪の商業の中心部“ミナミ”。コロナ禍となって2年半の長期間、極めて厳しい環境下が続いたが、人流の回復によるミナミ復活の兆しがみえてきた。

2022年 11月 24日
コロナ禍の影響 ~日本人の人流動向~

2020年4月に第1回緊急事態宣言が発出され、その後、感染拡大の増減を繰り返し、2年半が経過した。その間、リテール賃貸市場は甚大な影響が生じた。コロナ禍以前では想像できないほど人の往来が減り、撤退する店舗が散見。空室が目立つようになっている。

心斎橋駅を含む大阪最大の繁華街であるミナミの人流については、日本人観光客と訪日外国人観光客(インバウンド)を分けて考える必要がある。近年のミナミのリテールマーケットが活況を支えたのはインバウンドの増加によるものである。ミナミを代表する心斎橋筋商店街の来街者数はインバウンドブームが本格化した2015年以降に爆発的に増加したものの、その間、日本人の来街者はそれ以前と大きく変動していない。

大阪メトロのデータによると心斎橋駅を含む大阪最大の繁華街であるミナミに位置する駅の1日あたりの乗降客数はコロナ禍以前とコロナ禍では約4.7万人、25%減少した。この減少はほぼ日本人観光客の影響である。2020年4月に第1回緊急事態宣言が発出以降、現在にいたるまで感染拡大が繰り返されており、鉄道需要の側面から見る限り、本格的な人流の回復にはいたっていない。すなわち、日本人をターゲットにするリテーラーにとっては依然として厳しい環境が続いており、新規出店を検討できる状況にはいたっていないとみられる。

一方、スマートフォンアプリから取得した位置情報などを活用した人流変化の解析データや、定期的にミナミに訪問し、その実態を観測している筆者の感覚によれば2020年4月の第1回緊急事態宣言後に激減して以降、増減を繰り返しながらも 人流は回復基調が続いている。そしてコロナ第7波がピークアウトした2022年9月以降、人流は明らかに回復しており、10月に至ってはコロン禍以前並みの人出を感じさせる。

なお、多くのリテーラーからは「コロナ禍以前の人流にはほど遠く少ない」という声が多く聞かれるが、これはインバウンドの戻りがほぼゼロであるため、当然の状況であり、あくまでも 日本人の人流については回復が鮮明 となってきているということである。

コロナ禍の影響 ~インバウンドの人流動向~
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コロナ禍でインバウンドに対して大阪の魅力が低下したわけではなく、コロナ禍の収束とともに再びミナミは多くの外国人旅行者で賑わいを取り戻すだろう

ミナミはインバウンドの影響を色濃く受ける街である。このため、2020年、2021年の地価公示は2年連続して全国で下落率がトップになるなど、新型コロナウイルス感染拡大の影響は甚大であるイメージが強い。こうした背景からインバウンド依存度の高さがネガティブな印象を抱かせる面も否めない。

一方、コロナ禍以前にMastercardが発表した「2019年度世界渡航先ランキング調査」によれば、大阪の来阪外国人数とその消費額の成長率はいずれも 2 年連続で世界第1位となった。コロナ禍でインバウンドに対して大阪の魅力が低下したわけではなく、コロナ禍の収束とともに再びミナミは多くの外国人旅行者で賑わいを取り戻す だろう。

関西空港の国際線の外国人旅客数の推移をみると、コロナ禍以前(2019年10-12月)は132万人/月平均であったのに対し、コロナ禍では1万人強と1%にも満たない。旅行による渡航が制限されていたことを鑑みれば、このうち観光でミナミに訪れた人は皆無といっていいだろう。

一方、2022年6月に観光庁は外国人観光客の受入れ対応に関するガイドラインを公表した。同年9月には早くもガイドラインが改訂され、添乗員の同行を伴わないパッケージツアーの受入れが開始するなど外国人観光客の受入れ緩和が促進されている。

インバウンドによる人流の回復にいよいよ道筋が見えてきた。本格的な回復には依然として時間を要するとみられるが、大阪では2025年に万博の開催などのイベントも控えており、インバウンドをターゲットにするリテーラーが再び新規出店を検討できる土壌になってきている。ミナミの復活の狼煙は既に上がったといえる。

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連絡先 山口 武

JLL日本 関西支社 リサーチディレクター

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