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冷凍冷蔵倉庫の賃貸市場は確立するか?

コロナ禍による消費動向の変化を受けて冷凍冷蔵倉庫の需要が拡大、新規供給が増加している。従前、テナントの要望を受けた特殊仕様で開発されたBTS型施設による新規供給が一般的だったが、マルチテナント対応の賃貸用物件の開発に名乗りを上げるデベロッパーも現れ始めた。冷凍冷蔵倉庫の賃貸市場は確立するのだろうか?

2022年 12月 16日
アジア太平洋地域で冷凍冷蔵倉庫の需要が拡大

JLLの調査によると、日本を含むアジア太平洋地域において冷凍冷蔵倉庫に対する需要が急拡大しているという。新型コロナ用ワクチンの保管・輸送時の厳格な温度管理が求められることに加え、コロナ禍で普及した食料品のオンライン購入などの消費行動の変化が背景にある。冷凍冷蔵倉庫の主な利用者は食品・飲料品の卸売業者、オンライン食料品の販売事業者、医薬品メーカーだ。

旺盛な需要に対して冷凍冷蔵倉庫の不足が顕著だ。JLLではこの不足分を補うためにアジア太平洋地域全体で5億㎡の新規供給が必要との見通しを示す。加えて、築年の経過やフロンガス規制に対応するための建替え需要も見込まれる。

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冷凍冷蔵倉庫とは?

水産物や農産物、冷凍食品などの食品を中心に、10℃以下の温度帯で保管する倉庫を「冷蔵倉庫」に分類され、その中でも特に低温で管理する倉庫が「冷凍倉庫」とされる。これらを総称したのが「冷凍冷蔵倉庫」だ。

冷凍冷蔵倉庫は新たな不動産投資セクターとしても投資家から注目を集めている。JLL日本 リサーチ事業部の調査では、東京圏における冷凍冷蔵倉庫のストック面積は約100万坪。常温倉庫を含む倉庫全体のストック面積約2,000万坪の5%程度に相当する。賃料水準は月額坪あたり9,000円程度。常温倉庫の賃料水準の2倍程度と見込まれる。また、売買事例は少ないが、投資利回りは3.7%程度。テナント退去リスク、設備の更新リスク、リーシングリスクなどを踏まえて、常温倉庫との利回り差は40bps程度高い。

投資対象としての冷凍冷蔵倉庫の魅力とは?

日本では賃貸用冷凍冷蔵倉庫の開発に乗り出すデベロッパーが登場
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直ぐに利用できるという状況にあれば賃借を希望するテナントを見つけるのは比較的容易と判断し、積極的にリーシングリスクを取って冷凍冷蔵倉庫の開発に乗り出すデベロッパーが現れ始めている

冷凍冷蔵倉庫に対する需要は日本でも旺盛だ。その受け皿として冷凍冷蔵倉庫の開発事業に進出するデベロッパー・投資家が増えている。

三菱HCキャピタルと霞ヶ関キャピタルは2021年10月に合弁会社「ロジフラグ・デベロプメント」を設立、賃貸型の冷凍冷蔵倉庫の開発事業に乗り出した他、日本GLPは2022年10月、兵庫県神戸市で全館冷凍冷蔵物流施設「(仮称)六甲プロジェクト」の着工を発表した。3PL事業者への一棟貸しながら汎用性のある冷凍冷蔵倉庫の開発を進めるという。

他方、プロロジスが商業施設を冷凍冷蔵に対応した賃貸用物流施設にコンバージョンした「プロロジスアーバン東京辰巳1」を提供し、三井不動産や東京建物などの国内大手デベロッパーも冷凍冷蔵倉庫の開発に注力すると言及している。

物流不動産市場に詳しいJLL日本 リサーチ事業部 チーフアナリスト 谷口 学は「冷凍冷蔵倉庫は従前からテナントの要望を受けて仕様を決めてから開発するBTS(Build to Suit)型の開発が多いが、開発しながらリーシングする賃貸型の冷凍冷蔵倉庫も登場している」と指摘する。竣工まで1年以上かかるBTS物件の場合、テナントにとって将来的な荷物の需要が見通せない中、BTS特有の長期賃貸借契約(10年以上)を締結するのはリスクがあるためだ。

「デベロッパーは直ぐに利用できる状況であれば賃借を希望するテナントを見つけるのは比較的容易と判断し、積極的にリーシングリスクを取って冷凍冷蔵倉庫の開発に乗り出しているのではないか」(谷口)

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冷凍冷蔵倉庫の賃貸市場は実現するか?

冷凍冷蔵倉庫の賃貸市場が実現する可能性はあるが、越えなければならないハードルは意外に高い

前述の通り、冷凍冷蔵倉庫の開発に乗り出すデベロッパーは増えてきつつあるが、谷口は「冷凍冷蔵倉庫の賃貸市場が実現する可能性はあるが、越えなければならないハードルは意外に高い」との認識を示す。物件特有の個別性が強すぎる点が大きな要因に挙げられる。

個別性の高さが課題に
 

冷凍冷蔵倉庫と一口に言っても、立地や対応温度帯によって建物仕様が異なり、常温倉庫に比べて個別性が非常に強いという特徴がある。

タイプ 立地 利用者 主な目的・機能
流通型 高速道路IC至近
消費地近郊
食品卸業
食品小売業
各店舗への配送
港湾型 国際港 食品メーカー
食品輸入会社
輸入食品の保管
産地型 産地至近 農協
漁協
農産物や水産物の一時保管

冷凍冷蔵倉庫の類型 出所:一般社団法人日本冷蔵倉庫協会、JLLレポート「アジア太平洋地域で急拡大する冷凍冷蔵倉庫マーケット」

上記図表の通り、立地・目的によって建物仕様が異なり、それぞれ「流通型」、「港湾型」、「産地型」に分けることができる。また扱う荷物によって温度帯も異なる。鮮魚介、野菜、乳製品などを扱う「冷蔵(-18~10℃)」、アイスクリーム、食肉などを扱う「冷凍(-18℃以下)」、生食用マグロなどに対応する「超低温(-40℃以下)」の3温度帯に分けられる。「流通型」の冷凍冷蔵倉庫では「常温(5~18℃)」を含めて複数の温度帯に対応した「3温度帯倉庫」なども存在する。谷口は「希望する温度帯のスペースがテナントの需要に合致するか未知数。さらにマルチテナントの場合、他のテナントの荷物に臭いがうつる、結露が発生するなどのリスクも考えられる」と指摘する。

こうした課題をいかに解消できるかが冷凍冷蔵倉庫市場の拡大に向けた重要な鍵となる。谷口は「ハードルは高いが、可能性を考えると不動産投資市場にとって“おもしろい”存在になるのではないか」と期待を込める。今後の動向に注目したい。

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連絡先 谷口 学

JLL日本 リサーチ事業部 チーフアナリスト

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