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都市の「明るすぎる照明」問題が不動産へ与える影響

環境意識の高いとされる欧米では「都市の照明が明るすぎる」問題が顕在化しており、規制強化が進められようとしている。都市を形成する重要インフラである不動産への影響も大きく、オーナーやテナントにはこれまで以上にサステナビリティ対策が求められそうだ。

2023年 04月 25日
都市を消灯するアースアワーの意義

世界190以上の国・地域が参加する世界最大級の環境アクション「EARTH HOUR(アースアワー)」が2023年3月25日に開催された。世界中の人々に1時間消灯するよう呼びかけ、煌々と輝く世界中の都市をリレー形式で消灯させる。膨大なエネルギー消費の削減を通じて気候変動問題を啓蒙すると共に、生物多様性の損失も重要なテーマだ。日本では東京タワーや横浜の大観覧車「コスモクロック21」などのランドマーク施設の照明が消えた他、大手飲食店なども同イベントに参加した。

欧米で都市の照明問題への対策進む

アースアワーは2007年にスタートし、年々規模を拡大。その啓蒙活動に呼応したのだろうか、欧米を中心に都市の“明るすぎる照明問題”がこれまで以上にクローズアップされている。

例えば英国のロンドン。市中心部で夜間ほぼ稼働していないオフィスビルが不必要な照明を点灯していることに市当局が懸念を示し、当該エリアのビルオーナーに対して特定の時間に照明を消すことを提案。視覚的な環境負荷を減らし、省エネ推進を目指すという先進的な取り組みを進めようとしている。また、フランス、イタリア、クロアチア、スロベニアは夜間の照明の色と照度を制限する規制法を策定している。

一方、米国ではニューヨークが 2022 年に渡り鳥の保護を目的とした「ダークスカイ法(Dark Skies Act)」を導入。23時以降、必要不可欠ではない大半の屋外照明を消灯するか、センサーを導入するか、光が漏れないような対策を施すことなどが求められている。同じく米国のピッツバーグは低ワットかつ青色を最小限に抑えるLEDに切り替え、街灯の陰影を強調することで住宅地や生物生息地への光の影響を抑えようとしている。

エネルギー危機やCO2排出量削減といったエネルギー使用に関する地球規模の課題を解決する他、人工の“光”による健康被害への対応、渡り鳥や夜行性動物の保護など、照明問題を解決する目的は多岐にわたる。特に環境意識の高いとされる欧州は都市の照明問題に敏感なようだ。

光害対策は都市の持続可能性を支える重要な施策

光害を減らすことは、照明システムのエネルギー効率を改善することを意味し、最終的にはCO2排出量も削減する

JLL英国 アップストリーム サステナビリティサービス ディレクター パトリック・スタウトンは「気候変動への関心が急速に高まる中、人工の照明が人々や生物多様性に悪影響を及ぼすことに対して理解が深まっている。光害への取り組みが都市の持続可能性を支える重要な施策になりつつあることを意味する」と指摘する。

こうしたトレンドは不動産全体でより持続可能なエネルギーの使用を求める幅広い要求と結びついている。JLL 英国 クライメート&ネイチャー ディレクター アマンダ・スケルドンによると「光害はかなりのエネルギー浪費に繋がる。光害を減らすことは、照明システムのエネルギー効率を改善することを意味し、最終的にはCO2排出量も削減する」という。

照明の適切な使用方法を検証する

欧州の主要都市では建物の夜間使用について定期的な監査により、照明の使用を最適化するための方針を策定する動きが出てきているという。スマートシステムによって収集されたデータを分析・検証し、照明制御が適切に展開されていることを確認している。

また、照明効率を意識した建物デザインを採用するケースも少なくないという。屋外では、街灯を遮蔽することで光の損失を最小限に抑え、入口や小道など必要最小限の指定エリアのみに照明を集中させている。

一方、館内では、採光性に優れた反射素材の導入など、自然光を最大限に活用することが重要だ。スタウトンは「人工光源よりも優先すべき対策だ」と力を込める。

不動産の価値を決めるサステナビリティの重要性

エネルギー効率の高い照明は、不動産をサステナブル化するための小さな一歩に過ぎないかもしれないが、都市環境への影響は決して小さくはない

新たなサステナビリティ規制が世界各地で策定され、不動産の価値を決める指標としてサステナビリティの重要性が高まっている。JLLが発表したレポート「サステナビリティがもたらす新たな不動産価値」によると、グリーンビルディング認証を取得した不動産に比べて、規制に対応できていない不動産はテナントや投資家から価値が低いと見なされる「ブラウン・ディスカウント」のリスクが顕在化しているという。

そうした中、自然光を最適化し、人工的な光源を減らしたオフィスビルはテナントと投資家の両方から高く評価されているという。 経済的利益を超えて、より良い光の質がもたらす無形のメリットとして従業員の生産性や幸福度の向上などが含まれる。

スタントンは「環境への回復力を高め、気候リスクを軽減することがすべて」と強調する。光害への取り組みは、不動産のサステナビリティ戦略を推進する上で喫緊の課題といえる。

エネルギー効率の高い照明は、不動産をサステナブル化するための小さな一歩に過ぎないかもしれないが、都市環境への影響は決して小さくはない。日本では欧米のように都市の照明問題に対して本格的な議論が進んでいるようには感じられないが、世界的な問題として気候変動への対策はこれまで以上に強化されることは間違いないだろう。都市の照明問題は避けては通れない道となるのではないだろうか。

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