解説

アクティビティー・ベースの働き方で従業員の生産性と定着率を向上させる

「働き方改革」を強力に支援するオフィスとしてアクティビティー・ベース・ワークプレイス(ABW)に注目が集まっているが、重要なのはオフィスを利用する従業員が「変化」に対応できるかどうかだ。

2018年 04月 24日

ワークプレイス戦略

常識を信ずるならば、癖を治すには21日かかり、新しい習慣を身に着けるには少なくとも2カ月かかる。

しかし、個性やモチベーション、状況といった変数を加えたらどうなるだろうか。そして、これを百倍、あるいは千倍増幅させ、大企業の行動変化の文脈で考えたらどうなるだろう。古い習慣を改めつつ事業生産を維持する圧力も加えると、新たな方向に進むことは突如として産業規模の課題に変化する。

アクティビティー・ベースの働き方に対する需要が高まり、導入時には先進的であったかもしれない面倒なプロセスを伴う過去のワークプレイスが今や効果的ではなくなる中、企業はこうした状況に陥っていることに気付くことが増えている。

しかし、企業が本物の変換を実現するためには、おしゃれな家具やピカピカの休憩スペースの設置よりもはるかに大きな努力を求められる。実際に、最も重要な成功要因は従業員なのである。

成功は科学

癖を治すのが難しいとしたら、しっかりと根付いた行動パターンがあり、変化への対応力が異なる全従業員を企業のビジョンに賛同させるにはどうすればよいのだろうか。

つまるところは、科学である。とりわけ、脳科学だ。

脳がどのように行動を支配するのかについての理解は、企業が困難だが活性化をもたらす変化のプロセスに着手する方法を根本的に変化させた。

JLL ビジネス・トランスフォーメーション・アンド・チェンジ ディレクター ネーサン・スリはそのキャリアを通じてヒューマン・エクスペリエンスと組織変容に取り組んできた。

ネーサンは「我々には生来、長年の学習行動に基づく特定のパターンに従って行動し、働くという習得回路が備わっている。新しいワークプレイス戦略が導入されるからといって、スタッフに単純・迅速に新たな慣行やプロセスに適応するように求めることは非現実的であり、変化の持続性を損なうことになる」との見解を示している。

オーストラリアが先行

オーストラリアの企業は、世界で最もアクティビティー・ベースの働き方の採用が進んでいる。この現象は、シドニーで最も新しい商業地区であるバランガルーのオフィススペース全283,900㎡がこのスタイルの勤務を念頭に置いて設計されていることにおいて証明されている。

その利点を否定することは難しい。コネチカットを拠点とする技術研究及びアドバイザリー会社であるガートナーは「『自分のワークスタイルを選ぶ』文化を採用している組織は、2020年までに従業員の定着率が10%上昇する」と予想している。そして、ガートナーの予想通り3年以内に企業の70%超がオフィス能力を備えたとしたら、これを実施する必要性は更に高まる。

JLLはオーストラリア国内の全オフィスに社内開発したモデル「ワークスマート」を導入しており、活動ベースの働き方に力を注いだ経験がある。

変更の前後におけるジョージ・ストリート420番地の従業員調査から「ワークプレイスがJLL従業員としての満足度を高めた」とする回答者が61%増加し、「ワークプレイスが全般的に生産性を向上させた」という回答者は47%増加した。

適切なエクスペリエンスの想像

オーストラリアはアクティビティー・ベースの働き方の採用率で世界をリードしているが、世界中で変化を求める個人の欲求には必ずしも相関性が認められない。JLLが先日発表したヒューマン・エクスペリエンスに関する調査では、調査対象となった7,000人超の従業員の3分の2以上が、より優れたワークプレイスやアメニティが用意されているにもかかわらず、現在のデスクスペースを返上することに不安を感じるか、全く反対であった。つまり、適切なワークプレイスを作るだけでは不十分なことが明らかとなったのである。

昨年、アメリカ心理学会は米国の正社員、パートタイム社員と自営業者を対象としたアンケートに基づく研究を発表した。そこからは、再編、新しいIT導入、リーダーシップ変更等の組織変更により従業員は過度のストレスを感じ、幻滅して退職を考えるようになることが明らかとなった。

「仕事と心身の健康(Work and Wellbeing)」と題されたアンケートの回答者1,500人中、3分の1近くは企業が変化しようとすることに懐疑的であり、「経営陣は何かを隠していると考える」と答えている。

ギャラップがオーストラリアで行った調査では、雇用主と感情的な結びつきが感じられない従業員は最低限の仕事しかしないことが明らかとなった。これらを組み合わせると、事業の成長は見込めない。

ネーサンは「ワークプレイスを変化させる際に、導入される最新のテクノロジーやクールなデザイン要素等、面白い部分に注目することは簡単だ。しかし、従業員がなぜ変化するのかを理解しておらず、新しい行動やプロセスに適応できないならば、最終的にワークプレイス改革は危機に陥ることになる」と述べている。

変化の3つの「C」

リーダーシップは、ワークプレイス改革を成功させる三つの重要な成功要因を定義するJLLの「変化の3つのC(コミットメント:commitment、能力:capacity、文脈:context」に基づくアプローチに不可欠な要素である。

このアプローチでは、ビジョンを説明し、新しい習慣を育み、結果を注意深く監視することが必要となる。科学的な原則に基づき、様々な業容・規模の企業と協力して15年間改良が重ねられたアプローチであり、あらゆる種類の組織に適用可能だ。

しかし、チェンジリーダーは以下に注意するべきである。ネーサンは「このアプローチは『スタッフを変化の行程に導く」揺るぎない熱意に裏付けられていなければならない』と協調する。この点を見失えば新しい業務慣行が真に浸透しない結果となるというのだ。

そして、ネーサンは「変化のあまり快適でない側面について認めることを恐れず、抵抗線には早めに対処しなければならない」と付け加えた。

遅すぎることはない

大きすぎる企業はないし、古い慣習に染まりすぎて変化できないということもない。

チェンジマネジメントの価値は、チームが既存の前提条件に挑戦し、現在の行動やプロセスを分解して、新しい行動やプロセスを浸透させることにある。

ネーサンは「変化を一口大に切り分けなければならないのである」と説明する。

無論、能力を加えることも必要になる。

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