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オフィス空室枯渇で「リスタッキング」需要が拡大

需給がひっ迫する東京オフィスマーケット。賃料増額依頼に対して賃貸床面積を見直すべく「リスタッキング」を検討するテナントが増加している。JLLの調査によると2018年7月末時点の東京Aグレードオフィスの空室率は1.9%。貸し手優位の市況において契約更新を迎えるテナントのもとにはオーナーからの「賃料増額依頼」が押し寄せて . . .

2018年 10月 25日

賃料増額請求に苦慮するテナント

JLLの調査によると2018年7月末時点の東京Aグレードオフィスの空室率は1.9%。貸し手優位の市況において契約更新を迎えるテナントのもとにはオーナーからの「賃料増額依頼」が押し寄せている。賃料増額を受け入れるか、それともより賃料が値ごろな郊外のビルへ移転するか、はたまた現在の床面積を縮小して賃料増額分を相殺するのか……。こうした中、JLLのもとにはここ1年でオフィス戦略を見直すクライアントからの相談が殺到。特に複数フロアを賃借するテナントはより効率的なレイアウトに変更し、床面積を削減する「リスタッキング」を実行するケースが目立ってきた。

JLL日本 プロジェクト・開発マネジメント事業部 松村丈生は「今年に入ってから外資系、日系問わず多くの企業から『リスタッキング』の相談が舞い込んでいる」と振り返る。前述した通り、都心オフィスの空室が枯渇し、契約更新のタイミングで賃料値上げを打診するオーナーが増えたためだ。オフィスの賃貸借契約は契約期間を明確にした定期借家契約が主となり、契約終了後に新たに賃貸借契約を更新しなくてはならない。現在のような貸し手優位の状況では、既存テナントが退去してもより高い賃料で埋め戻しできるため、既存テナントに対して賃料値上げを容易に行えるのだ。となれば、数年前に入居していたテナントが契約更新時期を迎え、強気のオーナーから賃料の増額を打診されるという構図が成り立つ。特に新築のAグレードオフィスは竣工時の稼働率を重視する傾向があり、大口テナントを誘致するために割安な賃料で契約しているケースが散見される。それが契約更新のタイミングで現在の賃料相場に準じた数字になると3-4割の賃料増額も十分にありえるというのだ。

賃料が増額した分、何らかのサービスが付与されるかといえば、そんなことはなく、単純に市況のタイミングでコスト負担が大幅に増すことは多くのテナントは納得できることではない。そこで、移転や減床を想定したオフィス戦略の見直しを検討することになる。松村によると「外資系企業の場合、決定権を握るグローバル本社はオーナー優位の賃料負担増を容認することは稀、少なくとも従前同様のコストを維持しなくてはならない。加えて『物言う株主』に配慮してコスト意識の強い日系企業等からの相談が増えている」という。

一方、コスト負担の問題に加えて「最近」相談が増えた理由として、企業の「働き方改革」への対応だ。賃料コスト削減だけが目的なら、単純に都心から離れた郊外のオフィスへ移転すればいい。しかし、これでは交通利便性が悪化し、事業活動に支障が出たり、優秀な人材を雇用するにも不利になる。松村は「日系企業は働き方改革がメインテーマで、コスト削減は副次的な目的に留めるケースが目立つ」というが、いずれにせよ賃料コスト抑制と事業成長、オフィス戦略によってこの相反する2つの目的を達成しなくてはならない。これは非常に難しいミッションだ。

オフィス面積を適正化

こうした難題をクライアントから相談され、JLLはどのように対応しているのか。まずは移転せず賃料増額を受け入れた場合、移転する場合、移転せずオフィス面積を縮小する場合など、複数のシチュエーションを想定し、コストの比較を実施。クライアントが納得する最終シナリオを導き出す。松村は「無駄なオフィス床を縮小し、働き方改革に対応したオフィス作りを進める企業が増えてきた」と説く。その際、ABW(Activity Based Working)と呼ばれる概念をオフィス設計に取り入れているという。

座る場所を自由に選べるフリーアドレスと混同されるABWだが、業務内容に合わせて働く場所や座席などを自由に選択できるのが最大の特長だ。通常のフリーアドレス席の他、静かな環境で集中して業務に臨める「サイレントルーム」、カフェのような雰囲気で気軽にコミュニケーションが取れる「ラウンジ」など、気分や状況に合わせて自由に働く環境を選ぶことができる。松村は「ケースバイケース」としながらも「従来の島型オフィスに比べて同じ社員数で2割程度のスペース削減が可能」とABW導入のメリットについて説明する。仮に1000坪賃借していた場合、2割分の200坪を削減でき、その分賃料負担は抑えられるというわけだ。

ABWが床面積を効率化できるのは、綿密なオフィス利用調査に基づき、使用頻度が低い無駄なスペースを解消するためだ。各部門が独立採算制になっている某企業の場合、オフィス賃料も部門ごとに案分されるため、各自専用の会議室を設けていた。もちろん使用していない時間が長い。そこで働く場所が固定されないABW型オフィスを採用し、会議室の共有化を進め床面積を圧縮することに成功した。また余剰スペースがあればオフィス改修時の一時避難場所となるので居ながら工事が可能になる。

松村は「使用頻度が低い会議室や共用スペースは必ず存在する。経営層や就労者にオフィスの利用実態を調査することで無駄な部分が見えてくる」と指摘。働き方改革とコスト削減を両立できる数少ない手法として認知されつつあるようだ。

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