記事

海外投資家の開発型投資を支援するJLLのプロジェクトマネジメント

東京の不動産市場のおいて唯一の欠点とされる「モノ不足」。海外投資家の中には投資に適した既存物件が見つからないのなら自ら開発に乗り出すケースも増えつつある。しかし、開発を手掛ける施工会社は日本語対応のみ。日本特有の建築法規や各種営業許可も遵守しなくてはならない。これらのハードルは高く、海外投資家が日本での開発型投資に二の足を踏む理由になっているが、解決策はある。

2020年 01月 08日

海外投資家が築地にライフスタイルホテルを開発

工事途中のビジネスホテルをライフスタイルホテルへ

「東京の台所」と称された築地市場。昨年10月に豊洲へ移転したものの、場外市場は現在も営業を続けており、多くの外国人観光客が訪れている。そんな築地エリアにおいて2019年4月、日本文化を体感できるライフスタイルホテル「TSUKI」が東京・築地で開業した。建物規模は地上10階、延床面積1,213.82㎡、敷地面積194.56㎡の中規模ホテルである。

事業主はAYERS Hospitality合同会社(以下AYERS)、設計デザインは虎雄+謝建築設計、プロジェクトマネジメントをJLL日本 プロジェクト・開発マネジメント事業部が担当した。

日本文化を感じられる設計デザイン

「日本通になれるホテル(NIPPON SAVVY)」をコンセプトとし、日本文化の根底にある「和心」が感じられる意匠性にこだわった。まずはユニークな外観が目を引く。前面の外壁には「皺」状の模様が浮かびあがる。和紙の特長である皺のような質感を再現したものだ。

実際に和紙を無造作に折り畳み、皺状の金型を作成。溶かしたアルミを金型に流し込み、アルミキャストパネルを作った。硬質なアルミ材に和紙特有の柔らかな意匠が施され、独特な風合いを実現している。また廊下等のパブリックスペースには藍染などの和の素材を用いるなど、上質で洗練された内装デザインで日本文化ならではの魅力を体現している。

施設構成は1-2階が共用部、3階―10階が客室となる。1階にはレセプションとともに日本酒を堪能できる交流スペース「Sake-Bar」を開設した。宿泊客とホテルや地域住民との接点の場として中央に配された木製の大型テーブルは大工道具で木の表面に痕跡を残し意匠とする伝統工法「なぐり」加工が印象的だ。全国各地の厳選された日本酒を取り揃え、食器にもこだわり、日本酒の様々な嗜み方を試すことができる。

2階には日本の風呂文化を体験できる貸切風呂を設置した。香り豊かな青森檜葉を使用した2つの貸切風呂と湯上り処を用意し、日本の風呂文化を満喫できるくつろぎ空間を提供している。

客室数は全31室。シングル/ダブル/ツイン計5タイプを用意した。体の大きい外国人のファミリー層の宿泊も想定し、その多くは原設計のほぼ2倍となる24㎡以上の余裕のある間取りを中心とした。客室内は落ち着きのある日本の伝統色でまとめ、木の質感が印象的。多くの客室には檜の浴槽をしつらえている。

宿泊客は外国人観光客が大半を占めると予想していたが、ホテル運営を担うアゴーラ・ホスピタリティーズ 坂口 敏樹氏は「想定以上に日本人にも宿泊していただいており、ホテルのコンセプトが国内外問わず多くの方に高く評価されたと感じている」と振り返る。開業直後の稼働率は常時7割超を維持し、上々の滑り出しだという。

当初の開発計画を大幅に変更

日本屈指の商業地・銀座が徒歩圏内にあり、日本の食文化を支える築地場外市場が存在する築地エリアでは近年ホテル開発が集中している。その多くは事業採算性を重視した宿泊特化型ホテル、いわゆるビジネスホテルが目立つ。

実は本プロジェクトもビジネスホテルとして開発が計画されていたが、AYERSがプロジェクトごと取得し、競合ホテルとの差別化戦略としてライフスタイルホテルへの設計変更を決定した。AYERSのKIN-MAN TSIN氏は計画変更の理由について「我々が重視したのは『築地』というエリア特性。単なる宿泊場所ではなく、ローカルの歴史を尊重し、インバウンド旅行者が地元文化を体験できるような特別なホテルを提供すべきと考えた」と説明する。

しかし計画変更が決まった段階で、施工会社から提示された工期スケジュールと事業者であるAYERSが希望する開業予定日に乖離があったため、このギャップをいかに埋めるかが大きな課題となった。

本件のプロジェクトマネージャーとして開発に携わったJLL日本 プロジェクト・開発マネジメント事業部 渡邉 恵里奈は「建物開発は設計デザインが完了して着工するのが一般的だが、本件は躯体工事を進めながら、内外装・設備設計変更の詳細を検討していくこととなり、手戻りが発生しないように素早く判断を下さなくてはならない場面が多かった。事業主の立場に立って承認スケジュールやコスト管理、先々に起こり得るリスク管理、問題整理と解決策の提案を行い、事業主が最適解を導けるように迅速な対応を心掛けた。」と振り返る。

また、本プロジェクトの投資家は香港在住で日本語に精通せず、ましてや日本拠点も存在しない。日本の工事関係者のマネジメントや関連法規に基づいた申請等を円滑に行えるか。KIN-MAN氏は「日本市場へ投資する際の最大の課題は法律制度と言語」と指摘するように、2つの不安を取り除く必要があった。

これらの課題に対して、JLLは建築基準法の確認のみならず、ホテル営業を行う上で必要不可欠な旅館業法等の実際にホテル運営に付随する法規・申請関連についてもサポートを行った。JLL日本では多数のホテル開発プロジェクトを手掛ける中で培った様々な知見・ノウハウを活かしてプロジェクト完遂のみならず、開業後の運営までスムーズに行える環境づくりを支援した。

また、言語の問題については、グローバル展開するJLLには日英バイリンガル人材が多数在籍しており心配はない。英語ネイティブの事業主の代理として各施工会社との調整、分離発注の支援を行い、事業主と施工会社との橋渡し役を務めた。

ホテル運営に関する支援も

設計デザイン等のハード面のみならず、JLLはホテルと地域との関係性を密にする企画案の策定にも携わっている。ライフスタイルホテルの特長として「地域の特色を体感できる」ことが挙げられるが、TSUKIでは近隣の老舗飲食店等と協力関係を結び、地域の伝統を体験できる施策を打ち出している。

JLL日本 プロジェクト・開発マネジメント事業部 野口 航は「築地という特性を生かした体験を宿泊客にいかに提供できるか、事業主やデザイナーとアイディアを出し合った」と述べる。その一例として、ホテル近くで営業する老舗寿司店や弁当販売店等と提携し、ルームサービスとして弁当を提供する等、地域との連携強化を視野に入れた取り組みを実践している。

プロジェクトマネジメント・サービスで問題解決

世界の主要な不動産市場の中でも東京は群を抜く安定性、投資家の属性に関わらず公平性を有し、低金利を背景にしたイールドギャップの魅力もあり、海外投資家の投資意欲は高まるばかりだ。

一方、投資家が多数参入することで慢性的な「モノ不足」となり、投資適格物件を見つけるのも一苦労だ。そうした中、本件は既存物件に投資をするのではなく、海外投資家による開発型の投資であり、「モノ不足」の中で開発型投資を志向する海外投資家は増えつつある。しかし、開発型投資には前述した通りの日本特有の課題がある。JLLが提供したプロジェクトマネジメント・サービスが解決の一端となるのではないだろうか。

お問い合わせ