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成熟する底地投資市場と土地活用

借地権付きの建物が存在する土地-「底地」。更地に比べて、利用用途が著しく制限されるため資産価値は大きく減退する。売却先も限られる「クセの強い」不動産だと認識されてきた。しかし、定期借地借家法が成立した2003年以降、長期安定的な利回りが見込める優良投資先として上場REITが取得する等、手堅い投資先として認識が改められている。底地の魅力は投資家だけに留まらず、一般事業会社が土地活用の選択肢として注目し始めている。

2019年 03月 19日

更地に比べて市場性が劣る底地

「祖父がなくなって遺産相続する際、土地を売却して相続税を賄おうと思ったら買い手がみつからなかった」

こう嘆くのは都心中心部に土地を保有していた地主A氏。借地権者によって建てられた商業ビルが存在する「底地」だったのだ。泣く泣く他の収益不動産を売却し相続税分の資金を捻出したが、個人が底地を保有することのリスクを痛感したようだ。

底地の所有者は借地権者から土地の利用料として地代収入が得られるが、上物が存在するため土地を有効活用できない。借地借家法で認められている賃料増減額請求権を行使しても、継続賃料の考え方が優先され、市場相場が高騰していたとしても大幅に地代を値上げすることが難しい。にもかかわらず、地主からは借地契約を解消することができない。つまり、安価な賃料で土地に居座られてしまう可能性が高く、更地に比べて市場性は著しく劣ることになる。

かつては地主と借地人の資産状況には大きな差があり、地主も土地の価値を十分に理解しておらず、わずかな地代で賃借していたものが、現在まで継続しているといった形だ。借地人の存在で、土地の利用価値は皆無に等しく、地主は底地を手放そうとしても更地価格には遠く及ばぬ廉価で処分することになり、おおよそ売却先となるのは借地人か、借地と底地の権利関係を一本化することで高値売却を狙う底地買取専門業者に買い叩かれることになる。

上場REITが積極投資する

こうした負のイメージに彩られた底地だが、現在の投資マーケットでは上場REITが積極的に投資する優良アセットとして認識されるようになった。その理由について、不動産鑑定業務を手掛けるJLL日本 戦略コンサルティング事業部 バリュエーションチーム 神山繁一は「底地の価値が見直されたのは定期借地借家制度が成立したことによるところが大きい。賃貸借期間が明確化された定期借地では地代増減額請求権は除外することができ、賃貸借契約終了後は更地で戻ってくるので、長期安定した投資先として見直されている」と解説する。契約によっては賃料増額請求権に捉われないオーナー優位の賃料アレンジも可能になるそうだ。

定期借地契約の期間は最長50年。その間、一定の契約が継続的に履行されるので、景気に左右されず50年間決められた額の地代収益を得られることになる。神山は「底地権者が支払う土地の固定資産税の変動のリスクを伴うが、これも固定資産税額に連動して地代を改定する契約にしておけば、排除することができる。上場REITのように基本的に長期保有が前提の投資家にとって底地ほど低リスクの投資先はない」と指摘。前述した「長期安定した収益」以外にも、建物を保有したいため減価償却費がかからない。「上場REITや私募リートは建物償却費分の用途が制限されており、原則配当に回せない。そもそも建物がない底地は償却費を計上しなくていい」(神山)ため、REITにとって非常にありがたい存在なのだ。

底地へ投資している上場REITとして、産業ファンド投資法人やケネディクス商業リート、ホテルファンド投資法人等の名が上がる。長期稼働が前提となる郊外型の商業施設や物流施設といった長期固定型の不動産との相性がいい。神山によると「2010年頃から上場REITの底地案件が目立ち始めた。賃料や投資用不動産取引件数が回復する前に底地取引件数が増加したのは、市況低迷期でも収益が安定的であったため、他の不動産よりも投資リスク低かったから」と当時を振り返る。さらに「2015年頃から底地の鑑定の問い合わせが増加したが、それは上場REITに加えて、2014年以降多く運用開始された私募REITも底地に着目し、投資用不動産としての注目が高まったため」と分析する。2017年1月には底地への投資に特化した私募リートである地主プライベートリート投資法人が運用を開始し、底地は投資対象として広く認知されるものとなった。また、地域密着型の商業施設と、その底地を主な投資対象とする総合型REITであるエスコンジャパンリート投資法人が2019年2月13日に上場した。

社債並みの低リスク

利回りに目を移すと、ケネディクス商業リート投資法人が2018年9月末時点で保有中の底地12物件の鑑定評価額に対するNOI利回りは、4.1%-5.1%である。西友楽市守谷店(底地)が最も低く、カーマホームセンター中川富田店(底地)が最も高い。同REITのポートフォリオは53物件であり、その4分の1近くが底地である。なお、同リートが保有していたケーズデンキ中川富田店(底地)は、2018年4月に鑑定評価額を上回る価格で売却できており、譲渡価格に対するNOI利回りは4.1%である。譲渡先は、日本商業開発株式会社で、この物件は、地主プライベートリート投資法人が同社から2019年1月に取得している。

また、産業ファンド投資法人も賃貸借契約が長期に及ぶ倉庫・工場等の底地に積極的に投資しており、2018年7月期だけで5物件を取得している。NOI利回りはそれぞれ4.6%、4.8%、5.0%、5.0%、6.2%だった。ポートフォリオ全体の平均NOI利回り5.7%と比較すると若干下回るが、契約期間や建物の保有リスクがないことを考慮すると十分魅力的なリターンといえるだろう。鑑定評価額よりも平均で約7%低い価格で取得できていることも大きい。神山は「底地投資の魅力が広がる前、例えばファンド・バブル前の2004年当時、CAPは6-7%だったが、現在は4-5%まで低下している。都心の商業地なら3%台も珍しくない。借地権者が支払い能力の高い優良企業で解約不可であるなら、保有期間中の投資リスクは社債を購入しているのとあまり変わらない」との見解を示す。

底地の売却は工場等の特殊な不動産を保有する企業にとっても魅力がある。神山は「工場等は、建設コストに見合う事業価値を生み出していても、不動産として売却しようとすると、汎用性の観点から、建物は簿価よりも低い価格でしか売れないことが多い。土地のみのセール・アンド・リースバックであれば、企業側が建物を所有し続けるので売却損の計上を回避することができる。古くから操業する工場等の土地の簿価は低いことが多く、売却へのハードルは下がる」と指摘する。

底地運用は積極的な価値判断が必要

底地投資の魅力は不動産ファンドやREITのようなプロ投資家にはすでに浸透しており、2017年1月には前述の底地特化型の私募REITの運用が開始されている。企業へのCRE戦略の提案の一環として投資案件のソーシングができれば比較的安価に取得できる場合もあるが、市場での競争が激しくなっており、魅力的な投資対象も枯渇気味だという。他方で、一般事業会社が保有する遊休地の有効活用策として底地を利用するケースも増えている。神山は「財務状況の健全な優良企業は、低利用な不動産を保有していてもすぐに売却するインセンティブがないことが多い。自ら活用方法を検討し、収益不動産を開発して運用する選択肢もあるが、そこまでのノウハウが不足していたり、リスクをとりたくないのであれば、価値を最大化できる先に土地を貸して地代を受け取る選択肢も有効。定期借地権での底地なら最終的に更地として手元に戻ってくる。借地契約内容は精査しておく必要はあるが、投資対象としての底地の認知度が高まった今、資金需要が生じたときに売却もしやすい。土地活用方法の多様化と、底地投資市場の発達により、底地の運用は、かつての土地を寝かしておくよりはマシといったものから、より積極的な価値判断を伴うものに変化している」との見解だ。

底地市場はプロ投資家だけでなく、一般事業会社の土地活用も一体となって更に成熟していきそうだ。

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