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ビッグデータで進化するCREマネジメント

海外不動産のマネジメントに必要なのは「不動産テック」を活用したビッグデータの統合管理だ。世界中の不動産の状況をビジュアル化し、短時間で直観的に判断することが可能になる。

2018年 08月 03日

日本企業を直面する4つの問題

一般事業会社がビジネスインフラとして不動産管理を行うことをJLLでは「ポートフォリオマネジメント」と呼んでいる。海外では「グローバルCREマネジメント」とも呼ばれているが、キーワードは2つあり、1つは世界中の事業拠点を対象にしていること。もう1つは、世界中に存在するグループ会社を本社で一括管理することだ。欧米企業は20年、30年前から取り組んでいる。

多くの日本企業は現地の事業拠点で不動産管理を完結している事例が非常に多い。事業部単位で海外へ進出した、現地法人を買収した等の経緯がそのまま不動産管理の慣習として残っているようだ。しかし、こうした流れは着実に変わろうとしている。コスト、ビジネスの継続性(BCP)、ガバナンス、コンプライアンスについて問題意識が高まっているためだ。

JLLがグローバルCREマネジメントの体制構築の支援を開始した2010年-2011年から現在まで「コスト」がクローズアップされている。昨今、世界的に不動産関連(賃料)コストは上昇傾向にある。オフィス賃料はほとんどの主要都市で上昇傾向にあり、アジアでは高騰状態の都市も散見される。賃貸借契約の更新により1-2割のコストアップにつながるため、グループ全体でコスト管理に注力しなくてはならないと考えるのは自然の流れだ。

BCP対策も重要なファクターだ。日本では東日本大震災以降、国内にある各拠点の契約状況を本社が一元管理していく機運が高まったことは記憶に新しい。この考え方が世界的に拡大しつつある。世界各地で頻発する大規模災害やテロ。仮に国外の都市でこうしたリスクが高まった際、本社が不動産の契約等をしっかりと把握し、管理できているかどうかは、危機管理の面から重要性が高まっている。

ガバナンスとコンプライアンスに関しては喫緊の課題だと感じている企業が多い。現在、海外市場の開拓に注力する日本企業は少なくない。その一環で海外企業を買収することで、海外拠点が一気に増えることになる。買収した企業のガバナンスは経営戦略において大きな課題となっている。一方、コンプライアンスの面では国際的なルール変更に対応しなくてはならない。直近では国際会計基準の変更が大きなテーマになる。これらを放置しておくことは最終的には株価を含めて企業価値を損ねることになる。

一方「働き方改革」という社会的なテーマにも対応しなくてはならない。リスク管理と同時にコストの効率化、執務環境の改善、オフィスの生産性向上等、働き方のオペレーションを支えるインフラとしての不動産管理を強化する必要にも迫られている。CREマネジメントと働き方改革、この2つの大きな課題は総務部や管理部門が企業価値の向上に大きく貢献できるチャンスでもある。実際に企業価値向上を意識して対応に臨む日本企業も増えている。

テクノロジーで個別管理の無駄を特定

事業拠点を実際に管理・マネジメントするには次のようなサイクルとなる。まず新拠点を設立するための戦略・立案フェーズになる。次にオフィス床を確保する不動産の取引フェーズとなる。そして賃貸借契約を締結したら、実際の執務空間を構築する内装工事フェーズとなる。これらの過程を経てオフィスが完成し、実際にビジネスが始まる。その後の不動産管理においてファシリティマネジメント(FM)が中長期的に重要な役割を担う。そして賃貸借契約の満了日を迎えるタイミングが唯一契約内容を改定できるチャンスとなるため。再び戦略・立案フェーズに立ち返る。このサイクルがしっかり回っていることが、個別に事業拠点を見た場合の不動産管理が行き届いているということになる。しかし、本社が目指すのはポートフォリオ全体の最適管理だ。すべての拠点が最適に管理されていれば問題ないが、中には改善の余地が窺えるケースも少なくない。例えば取引のやり方、内装工事の発注のやり方、FMのオペレーションのやり方などが想定される。それらを可視化して「無駄」を特定する手法の1つとしてテクノロジーの活用が効率的だと考えている。

最初のポイントとなるのが「現状把握=データベース化」だ。契約言語は各拠点でバラバラ、商習慣にも大きな違いがある。データベースにまとめるだけでも高い専門性が必要だ。JLLでは不動産テックを活用した不動産ポートフォリオ管理システムを提供している。クライアントの不動産拠点の状況をマクロ的視点で「見える化」することができる。地域別の拠点数、現地スタッフの数、賃借している床面積の合計数、そして年間コスト等が一目でわかる。契約書の言語が異なっても英語で統一された状態でいつでも閲覧できる。

クライアントが各国に存在する不動産の契約期間と契約更新日等が表示されたデータベースに、JLLリサーチ事業部の市況データを組み合わせることで詳細な分析が可能になる。例えば2018年-2022年までの5年先まで各国の不動産市況を予測し、各不動産の契約更新日がテナント優位なのか、オーナー優位のタイミングなのかイメージが容易に掴める。テナント優位の状況は「青」で表示されている。現地の空室率が高く、オーナーと交渉しやすい環境だ。反対に「赤」の表示は現地不動産の需給がタイトな状況を表し、オーナーが強気であることを示している。ともすれば、次回の契約更新のタイミングで市況に見合った賃料増額が予想できるわけだ。インドネシアのジャカルタを例にすると、現在は「青」で表示されているが、2021年、2022年頃になると「黄」へ移行。テナント優位のタイミングである「青」の段階で契約交渉を行うべきことを事前に知らせてくれる。事業年度ごとに契約満了を迎える拠点が地図上で目視し、そして各拠点の契約満了に向けたアクションをプロジェクト化するツールも用意した。

現在の不動産テックは、いかにビジュアル化できるかが鍵になっている。情報の可視化にリアリティが増しているためだ。各拠点の情報をビジュアル化するのみならず、周辺のマーケット、街の様子を含めてビジュアル化することも可能だ。今後は、移転の候補物件のロケーションや設備状況等をビジュアル情報で確認できる時代が目の前に訪れている。

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