解説

ゲーム理論:ワークプレイスの成功を描く秘訣

あらゆるワークプレイス・プログラムが公平に作成されているわけではない。中にはインスピレーションを与え、高度なエンゲージメントを生み、これを維持できるものもある。しかし大半は、当初のエンゲージメントを維持できず、多くは時間の経過と共に熱が冷めてしまう。

誰しもこうした例を耳にしたことがあるだろう。ワークプレイス・プログラムは当初歓迎され、エネルギーや興奮、熱意が高まる。ビジネスリーダー、チェンジマネージャー、コミュニケーションチーム、チェンジチャンピオンの誰もが興奮し、組織を変革させる目標に向けて推進する活気が満ち溢れる。しかし、この当初の興奮が冷めてしまえば、人(と組織)は通常業務に立ち戻り、しばしば元のやり方に帰って、変革のイニシアチブは失敗のリスクにさらされる。

しかし、必ずこうなるわけではない。

一部のチェンジ・プログラムは、長期的にエネルギーを維持する。高度なエンゲージメントを維持するチェンジ・プログラムとそうでないものを区別する要素は何なのか。

その答えは、成功の描き方やワークプレイス・ゲームへの取り組み方に隠されている可能性がある。

ゲーム理論―すなわち、人がなぜ、どのように意思決定を行うかの研究―は、有限と無限の二種類のゲームについて説明する。

有限のゲームでは、目標は確実かつ明確で、プレイヤーは固定されており、ルールは前もって決まっている。野球やホッケーは有限のゲームだ。ルールは前もって決められており、目標は明確、勝つことである。

他方、無限のゲームには定められたルールはない。ルールは変更される可能性があり、境界線も変わることがあり、場合によってはプレイヤーですら変更される。目標はただ一つ、無限のゲームの参加者はゲームの継続だけを望んでいるのである。

無限のゲームの明確な例としては、ビジネスが挙げられる。個別の事業は変遷しても、ビジネスというゲーム自体は継続する。

正しいプレー

有限のプレイヤーが無限のゲームに参加すると、「負け」は避けられない。これは、ビジネス思想家兼著者であるサイモン・サイネク氏が先日「リーダーシップの有限と無限のゲーム」と題したグーグルトークで述べた観測だ。

サイネクは、ベトナム戦争を例に挙げた。この戦争で、米国は勝利のために戦っていた。他方、北ベトナムとべトコンは生き残るために戦っていた。ベトナム人にとって、敗北は選択肢ではなかったのである。有限のプレイヤーである米国は、敵を打ち負かすために人とエネルギーを投入した。しかし、敵は米国を打ち負かすことを重視していなかった。結果として、有限のプレイヤーは挫折し、忍耐力や資源を使い果たして最終的にはゲームを去ったのである。

ゲーム理論を組織行動に結びつけて、サイネク氏はマイクロソフトとアップルが有限と無限のプレイヤーの明確な対照性を表していると示唆した。マイクロソフトでは、経営陣の主なモチベーションはライバルを打ち負かすことだった。これとは対照的に、アップルの全経営陣は「素晴らしい商品を作る」という同社のビジョンの実現に時間を費やした。

アップルのビジョンは、厳格には完全に達成することはできない。今日素晴らしいものも、明日には陳腐化する可能性がある。だからこそ、アップルの経営陣は常に先を見て、その商品を革新・改良するのである。他社が何をしようとしているかにはあまり注意せず、顧客が何を望んでいるかをより重視する。

ゲームを有限なものと捉えるプレイヤーは、そうではなくライバルが何をしているかに注目する。ベトナム戦争における米国同様、そうしたプレイヤーは挫折し、ゲームを去ってゆくのである。アップルは、ゲームの継続を求めている―これが、アップルが市場に受け入れられる商品を開発し続け、競合他社よりも長生きする理由の1つだ。

無限のワークプレイス・ゲームに参加する四つの方法

有限と無限のゲームという概念は、別の課題を見るための有益なレンズともなる。ワークプレイスである。今日のワークプレイスは多数の圧力に晒されている。モバイルな複数世代の労働力、テクノロジー主導の破壊と継続的イノベーションもその一部だ。未来と現在のギャップは、急速に縮小している。このため、短期的な目標のみを満たすワークプレイス戦略はすぐに陳腐化する可能性がある。

ワークプレイス・プログラムを描く際に、ゲーム理論の概念の適用が長期的な成功に欠けている材料となっている可能性がある。

無限のワークプレイス・ゲームへの正しい参加方法を示す4つのアイディアを以下に示す。

1.まず目的から着手する

 「不動産コスト年間20%削減を達成する」。このようなワークプレイス目標は、収益逓減の法則にぶつかる。この目的に沿って設計されたワークプレイスは、生気がなくなる。高度にコスト効率に優れたワークプレイスは、短期的な経費節約は達成できても、エンゲージメントの水準が損なわれ、隠れたコストである人員縮小の方がはるかに大きくなる可能性が高い。

無限の思考:コスト節減に注目するのではなく、発想を転換させるのである。例えば、以下のようなワークプレイスのビジョンを考えてみよう。「従業員に優れた成果を発揮するインスピレーションを与える業務環境を作る」。ワークプレイスについてのビジョンは、組織が何を減らしたいかではなく、自社の従業員に定義されるべきである。

2.独自の文化に誠実であれ

ライバルや同業者がワークプレイスをどのように開発・設計しているかを理解することは有益だが、それには限度がある。これを追いすぎることの潜在的なリスクは、ライバルに熱中しすぎることだ。それは、無限のプレイヤーならばありがちなのかもしれない。例えば、多くの組織がグーグルの独特なワークプレイス環境を真似ることで、その成功を再現しようとした。それらの組織は今やこうしたスペースの価値を疑問視しており、グーグルでは有効だったことが必ずしも自社には当てはまらないことを思い知らされている。

無限の思考:グーグルの型破りなワークプレイスは、同社の型破りな思考方法の成果なのであり、その逆ではない。グーグルのビジョンは、「世界で最も幸福で、生産性が高いワークプレイスを創造する」といものだ。これは、グーグルが従業員を重視していることを表している。ワークプレイスのビジョンは、自社の独自の文化を反映したものでなければならない。

3.ニーズの変化に適応する

戦略の発展は、無限のゲームの一部である。人が働く環境は、その業務の性質や、使用するテクノロジー、現地における事業運営の現実や、一国の社会・政治的文化に影響される。これらは、各ワークプレイスの独自の状況によって異なるものであり、一定ではない。従って、ワークプレイスの要件は常に変化する。有限のプレイヤーはワークプレイスのビジョンを定義するが、ニーズの変化には適応しない。

無限の思考:ワークプレイスが生き延びるためには、進化が必要だ。組織はワークプレイスがそのビジョンを実現し、反映し続けているかを検証するべきである。トレンドに合わせてワークプレイス・プログラムを刷新することで、ワークプレイスの意義が維持される。

 4.成功の枠組みを作る

有限のルールは、常に変化する環境では成功しない可能性が高い。高度に規範的なワークプレイスの指針は、その実行に当たって現地の文脈や文化を取り入れられず、柔軟性が認められない。解釈の余地がなければ、現地のリーダーはビジネスを十分に支えられない業務環境を作ることになるだろう。

無限の思考:成功する組織は、柔軟な枠組みを作る。規範的な指針の制約がなければ、こうした構造は現地のリーダーに自社のより広範なワークプレイスのビジョンを適切な経済的・文化的文脈で解釈する余地を与える。

無限の可能性の扉を開く

ワークプレイスの成功を開放し、ワークプレイスのゲームに正しく参加しよう。

ゲーム理論は、組織行動に非常に強力な洞察をもたらす。その教訓は明らかだ。誤った参加方法は、挫折に帰結するため、どのゲームに参加するのか確実に理解しなければならない。正しい参加方法をとれば、無限の方法で成功する確率を最大化できる。

ワークプレイスにもこれが当てはまる。正しいゲームに参加し、長期的な目標を重視することで、自社のビジネスとスタッフが成長し、繁栄する。ワークプレイス・プログラムはその意義を維持し続けるのである。

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